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SVB破綻 ~「ピンとくる人」による「ピンと外れ」のコメント

「かなりあからさまで、特に奇抜なことでもなかった。ベテラン監督官ならバランスシートを見ただけでピンとくるはずだ」(3月30日付Bloomberg 「SVBの問題見落とし、戦犯はSF連銀の幸福追求とFRBの官僚主義」

リスク管理で最も重要なこと、最も難しい事は「リスクが顕在化しない時点で対応しておく必要がある」ということだ。

リスクが顕在化していなかった昨年前半時点までにSVB(Silicon Valley Bank)のバランスシートを見ただけで今回のリスクが起きることを ”ピンとくる” 監察官・当事者がいたかが問題。

SVBが長期国債やMBSに大量に投資した時点では米国のイールドカーブは順イールドだった。

イールドカーブの形状に関わらず、順イールド時点で構築されたデュレーションの長いポートフォリオを見れば、専門家なら金利上昇に弱いポートフォリオだと ”ピンとくる” のは当然。

問題はその時点でどの程度逆イールドになることが想定されていたのかという点。その可能性がほとんどない中で金利上昇リスクを回避するために「短期調達+短期運用」をしていたら、銀行は収益を確保することは出来ない。低い収益率では自己資本を厚くしていくことは出来ず、単なる「収益機会の放棄」になってしまう。

大手銀行を除けば銀行内部にALM(Asset Liabirity Management)とポートフォリオの金利上昇リスクを理解している人間、さらにそれに基づいて実際にオペレーション出来る人間は極わずかしか存在しないのが現実。

SVBの破綻は ”ピント来なかった” ことが招いた悲劇ではなく、「インフレ見通しを誤ったFRB」と「金利のある世界を知らない銀行の経営者」という不幸な合わせ技が生んだ悲劇だといえる。

学者など専門家と称される人達が「金利上昇リスクに対して脆弱なポートフォリオになっている中小金融機関が増えている」ことにともなうリスクが顕在化する可能性とその影響について ”ピンと来て” 行動してくれていたならばと思わずにはいられない。

残念ながら ”ピンとこなかった” のであれば、今後の為にSVBはどの時点でどのような行動をすれば破綻を免れたのか、中小金融機関のポートフォリオが金利上昇リスクに対して脆弱なものになっていることを知っていたのであればそれをFRBに正しく伝えられなかったのか、FRBによる急速かつ大幅な利上げがもたらすリスクに ”ピンと来た” のであれば何かの方法でFRBに警鐘を鳴らすことが出来なかったのか、その辺を検証してもらいたいものだ。

レース終了後に馬券を見れば、それが当たり馬券かはずれ馬券かは誰にでもわかるのだから、結果が出てからはずれ馬券を買ったことを批判するだけでは何の意味も進歩もない。
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SVB破綻 ~ FRBのインフレ見通しの誤りが招いた高いツケ

「新型コロナウイルスに対応した金融緩和下、米テック産業は資金調達を急増させた。その資金を預金として集め債券運用に充てたのがSVBだ。インフレ退治の金融引き締めでベンチャー企業はキャッシュが流出し、SVBも預金の減少と金利上昇による債券含み損を抱える逆回転となった」(13日付日経電子版 「テック・金融が負の共振 米、SVBなど2行の全預金保護」

コロナでリモートワークが増えるという追い風によって資金調達環境が好転したのをうけ、ハイテク企業が経済活動停止リスクに備えてサバイバル資金を確保に動いたというのは企業行動として理に適ったもの。

問題はこうした経済下で集まった資金を金融機関が長期国債やMBS投資に振り向けたこと。金融機関がコロナ経済を乗り切るための足の短い資金だと認識していたら流動性の高い短期資産に資金を振り分けるのがALM(Asset Liability Management)上のセオリー。

それにもかかわらずALM上のセオリーに反して長期国債やMBSに投資をしたのは、FRBの利上げを想定していなかったから。記事に添付されているチャートを見る限りFRBが「インフレは一時的」という見解を撤回する21年秋頃までSVBの預金は増え続けている。22年夏までは順イールドだったので、短期調達&長期運用というビジネスモデルで成り立っている銀行にとって集まった資金を長期債に投資をするのは資金運用上当然のこと。

このように考えるとFRBが「インフレ見通しを間違った」ことの罪深さがわかる。

こうした中2月1日に「ディスインフレのプロセスが始まった」と語ったパウエルFRB議長が先週の議会証言で「利上げペースを高める用意がある」と180度異なる方針を表明したことは大きな不安材料。

FRBのインフレ見通しの誤りの余震はまだ続く可能性があるからだ。一方、今回のSVBの件でFRBが再び利上げペースを落とすことになれば、FRBに対する信頼感が揺らぎ、市場はリスクを取り難くなる。どちらにしても中央銀行の判断ミスが金融経済に強い影響を及ぼす好例。

FRBに対する信頼が薄れるなか、黒田体制下で10年近く誤った金融政策を漫然と続けて来たという国内要因を持つ日本がどのくらいのツケを払わされることになるのだろうか。黒田日銀が積み上げて来たのツケは新総裁指名でチャラにはできないところが苦しいところ。植田新総裁は嵐の中での船出を余儀なくされることは必至。おそらくじっくり考えている時間はない。

次期総裁の前に「まっさらな紙がある」?~「おめでたい経済学者」vs「現実社会に存在する経済学者」

「植田氏の前にはまっさらな紙があり、好きなものを描くことができるとの見方を示した。その上で、黒田氏の下での10年にわたる異次元緩和を引き継ぐのは容易なことではないが、少なくとも植田氏の手は何に対しても縛られていないと述べた」(21日付Bloomberg 「植田氏の下でYCC撤廃も、緩和は継続-アベノミクス指南の浜田氏」

ここまでいくと申し訳ないが老害としか言いようがない。

この御仁の指南を受けた黒田日銀の異次元の金融緩和が積み上げてしまった負の遺産の整理が唯一最大の課題である植田次期日銀総裁候補の前に「まっさらな紙」などあろうはずがない。浮世離れにもほどがある。

現実の社会は「過去~現在~将来」が繋がっている。「現在」は「過去」の結果であると同時に「将来」の原因になる。それは現実の社会は制約と前提条件のなかで動いているということ。つまり現実の社会において「まっさらな紙」など河童やツチノコのようなもの。

金融実務を行っている人間は常に「過去~現在~将来」に縛られているのに対して、「おめでたい経済学者」の思考範囲は「現在~将来」だけ。これが彼らの主張がほとんど現実の社会で役に立たない、生産性が低いものになっている根本的な理由。

この御仁が偉そうに指南しようとしても、植田次期日銀総裁候補が耳を傾けるはずはない。何故なら彼はこれからこの御仁が指南した間違った金融政策が生み出した負の資産の整理に向かうのだから。破産管財人が債務整理に関して倒産した企業の経営者からアドバイスを受けることがないのど同じ。

この記事で心強く感じたところは
「数年前に本を執筆する際は、植田氏の協力を得られなかった。浜田氏は世界の著名経済学者50人から見解を得ようとしていたが、浜田氏の見方が金融政策の効果に偏っているとして植田氏には断られたという」
という部分。

このエピソードからは次期日銀総裁が「おめでたい経済学者」ではなく「現実社会に存在する経済学者」だということを感じさせるもの。こうした印象は30年前に一度だけ次期総裁とお話しした際に受けたものと同じ。

一方、腹立たしい部分は
「浜田氏は、植田氏が日銀総裁として金融政策を運営するにあたり、誰一人深いやけどを負うことがないようにしなければならないと述べた」
というところ。

「誰一人深いやけどをおうことがないように」などという、「異次元の金融緩和の最初の成功部分だけは自分の手柄に残し、異次元の莫大な負の遺産を残したことは無罪放免しろ」 というような発想は虫が良すぎる話。この御仁と黒田総裁には「深いやけど」をおって頂かなければならない。司法取引をするにしてもその条件は罪を認めて白状することだということをお忘れなきように。

敗軍の将、日本の金融を破壊した戦犯にこれからの日本の金融政策を語る資格などない!

近日中に「日本の金融を破壊した戦犯」として日本の金融史に名を遺すのだから。

的外れな「仕組債販売自主ルール」

「今後の販売には投資経験や保有資産全体の余裕度合いなど条件を満たすよう求める」(13日付日経電子版「仕組み債販売、知識・資産額を条件に トラブル続出で」

投資家の知識と経験、保有資産にスポットをあてた自主ルールに意味があるだろうか。免許を持っていないタクシー運転手に乗客は富裕層に限定せよと言っているようなもの。

目を向けなければならないのは仕組債の販売会社に仕組債を理解している人間がほとんどいない現実。販売会社の人間が知っているのは仕組債のセールストークだけといっても過言ではない。こうした自主ルールを作るということは、協会の人間のほとんどが仕組債を理解していないことの露呈するものでもある。

筆者は自分で投資するための仕組債を外資系投資銀行と一緒に何本も組成したが、交渉相手は営業マンではなく商品組成部隊。何故なら営業マンのほとんどは仕組債を組成するほどの金融知識を持っていないから。営業マンはセールスが本職で商品組成は専門外だからそれが悪いわけではない。筆者の担当営業マンは十分そのことを理解していたので組成部隊を連れて来て直接交渉の場を設けていた。営業マンの主な仕事は仕組債組成に伴って生じる収益に関する営業部門と商品部門の分配比率の調整。

プロ同士の交渉になると仕組債を組成・販売する投資銀行の抜き代は限られたものになる。個人投資家向け商品の数分の1程度。投資家がプロになれば販売会社が勧める商品をそのまま素直に購入することはなくなるので、自主ルールの基準を投資家サイドに求めても余り意味はない。買うのは素人に限定されるのだから。

商品組成の難しいところは、投資銀行サイドに収益機会を与えないと投資家サイドも投資したい商品を組成できなくなり狙った収益を得る機会を得られなくなるところ。どちらか一方が自分の利益、自分のリスクを主張し過ぎると、両者ともに収益機会を失う結果になる。

数年前のことだが、小生の知らない間に独り暮らしをしている義母に日経リンク債を買わせた証券会社があった。幸い株価上昇によって繰り上げ償還されたので損失は出なかった。

それを機に義母とは金融商品のセールスを受けたら「婿を説得出来たら購入する」という自主ルールを設定。それ以降今までのところ一人のチャレンジャーも現れない。

1000億投信が日本株買いの号砲???~90年当時と同じもの、異なるもの

「日本では久々の大型投信の設定に沸く。野村アセットマネジメントが25日に設定した単位型の投資信託「(早期償還条項付)リオープン・ジャパン2301」。…(中略)… 日本株を投資対象にした投信で当初設定額が1000億円の大台に乗せるのは、同じく野村アセットが15年4月に設定し1057億円を集めた「日本企業価値向上ファンド(限定追加型)」以来だ」(26日付日経電子版 「株、8年ぶり「1000億円」投信が話題 日本買いの号砲か」

90年のバブル崩壊前まで投資信託のほとんどが「単位型」であった。しかし、「追加型」が99%以上を占める今日で「単位型」は珍しい(投信の主役が「単位型」から「追加型」に変わっていった経緯、業界の裏事情については拙著「1989年12月29日、日経平均3万8915円」に詳細に記録したので是非読んで頂きたい)。

以前の「単位型」との違いは、解約ができない「クローズド期間」が設けられていないことと「早期償還条項」が付けられているところ。

「クローズド期間」が設けられていないということは、「追加設定が出来ない追加型」ということであり、2~3年の「クローズド期間」が設けられていた昔の「単位型」とは商品性が全く異なるし、運用方針も全く違ってくる。

広義での「追加型」であるため、運用方針は「株式の組⼊⽐率は、原則として⾼位を基本とします」と「追加型」とほぼ同じ。したがって、パフォーマンスは市場動向次第で運用担当者が提供する付加価値が入る余地はほとんどないのが実情。

記事を読んだ際に、「単位型」の運用経験のあるファンドマネージャーがほとんどいない中で大丈夫かという懸念を感じたが、「実質追加型」であることを知って納得。

「追加型」のパフォーマンスは投資家の「自己責任」。一方「単位型」は「パフォーマンスは運用担当者責任」で「商品を選ぶのは投資家の自己責任」という二重性を持っている。ヘッジファンドはともかく、サラリーマンファンドマネージャーで「パフォーマンスは運用担当者責任」を負って運用できる人間はほとんどいないはず。

「早期償還条項付」というのも懐かしい。90年代半ば、野村アセットマネジメントで国内株式のファンドマネージャーだった小生は「繰上げ償還条項付国内株式投信」を提案したことがあるからだ。

日本初のETFである「日経300上場投信」の設定に社内で唯一反対し続けたことに対する意趣返しだったのか、小生のその企画提案書は当時の商品企画部部長の怒りを買い、「こんなアイディアは昔からあるものだ」という罵声と共にゴミ箱に直行となった。サラリーマンファンドマネージャーだった小生は意に反して日本初のETF である「日経300上場投信」設定の責任者の重責を担わされ成功裏に上場させたが、最後まで強硬に反対し続けたというマイナス点の方がずっと大きかったようだ。それは「日経300上場投信」の上場を成功させたとして企画部門は「社長賞」を受けた一方で、運用責任者であった小生には何のご褒美も出なかったという明らかな形で示された。

ともかく「高位組入れ」を謳ってしまって資金流出はあれど追加設定のない「追加設定なき追加型」の運用は難しい。パフォーマンスは市場動向頼み、神頼みといったところ。

記事に紹介されている「日本企業価値向上ファンド(限定追加型)」は、ほぼ7年間の運用ののち21%強の上昇で償還となっている。21%強というパフォーマンスを聞くと素晴らしい運用成績と思われるかもしれないが、年率に直すと2.78%程度。このファンドの運用期間中日経平均が44.3%、Topixが26.5%上昇していることを考えると、結果論としてはインデックスファンドに投資しておいた方がよかったということになる。

さらに、その期間NYダウの上昇率は93.4%、ナスダックに至っては173.4%だったので、日本株に投資するという投資判断自体に問題があったということ。とても1057億円を集めた「日本企業価値向上ファンド(限定追加型)」が株式市場の起爆剤になったとは思えない。実態は力強く上昇したNY株式市場の金魚の糞として最低限のパフォーマンスを出せたというところで、日本株の起爆剤からはほど遠かったといえる。

「久しぶりの大型設定に日本株買いの号砲かと市場は色めきだつ」(同日経電子版

株式市場ではこうした期待が出ているようだが、高々1000億円程度でパフォーマンスは市場動向次第という「追加設定なき追加型」が株式市場の救世主になると考えは90年代から変わっていない。Good Luck。

近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

著書

202X 金融資産消滅

著書

1989年12月29日、日経平均3万8915円~元野村投信のファンドマネージャーが明かすバブル崩壊の真実

著書

中学一年生の数学で分かるオプション取引講座(Kindle版)

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