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民業押付け

「コンクリートから人へ」というスローガンを掲げている民主党が新たに打出して来た改革案は、「来年度国家公務員新規採用の概ね半減」であった。早期退職勧奨制度の廃止等の兼ね合いもあっての選択だと説明されているが、遂に「人」にも手を付け出したか、というのが正直な感想である。民間が投資や採用を抑える中、国までもが公共投資に加え雇用を縮小するという選択は如何なものだろうか。郵政事業の見直しでは「民業圧迫」が叫ばれたが、公共事業及び新規採用の縮減は景気回復の「民業押付け」である。

こうした政策の根底にあるのは国の財政危機である。メディアを通して「日本の財政赤字は1,100兆円を上回り、GDPの2倍以上に達している」「子孫に膨大な赤字を残す」というネガティブキャンペーンが繰り広げられたことで、「財政赤字=悪」という考えが国民の頭にも刷り込まれてしまった。こうした財政赤字罪悪論が浸透した社会では「公共投資削減」も、今回の「国家公務員新規採用半減」も受け入れられ易い政策になってしまっている。

確かに国の負債は膨大なものであり褒められたものではない。80年代に中曽根首相の「公共事業もゼロシーリング」という方針の下で財政赤字が解消されたことを思い返すと、よくも短期間にここまで財政赤字を拡大させたなと感心するばかりである。しかし、本当に財政赤字は悪なのだろうか。必ずしもそうではない。それは、誰かにとっての「負債」は、他の誰かの「資産」になっているからだ。
例えば銀行預金を考えてみると、それは顧客にとっては「資産」、銀行にとっては「負債」である。銀行が預金を適正な金利で集める限り、世の中から「負債が大き過ぎる」と騒がれることは無いはずである。
この様に考えると「国債=国の負債」は、民間側からみれば「国債=資産」でもあるのだ。要するに、「国の負債が膨大である」ということと、「民間の資産が膨大である」ということは表裏一体の関係で、ほぼ同義語だ(国債の日銀引き受けは除く)。加えて言えば、「子孫に(国の)借金を残すことになる」という指摘は、「子孫に(国債という)資産を残すことになる」ということと大きな違いは無い(国債という有価証券でなく、高速道路や橋などのインフラの形になるかもしれないが)。子孫に「資産」を残すことが言われているほど罪深いものなのだろうか。

さらに見落としてはならないのは、「膨大な資産」を誰が保有しているか、つまり「国は誰からお金を借りているか」という視点だ。日本の場合は幸いにも殆どが国内で調達出来ており、対外債務はGDPの7%程である。この点で国家財政が破たんしたアイスランド(対外債務対GDP比約1,267%)や(ギリシア同161%)とは状況が全く違う。過大な対外債務を伴う財政赤字は、今回のギリシアの様にIMFの管理下に置かれるなど国民生活にもかなり深刻な影響を及ぼすが、幸い現時点では日本は一部の識者が叫ぶような国家が破綻する状況にはない。

要するに、日本の財政に関して議論されるべき現在の問題は、赤字の「額」ではなく、「効率」である。企業を分析・評価する際にも、「資産」の大きさそのもの自体が問題視される訳ではない。日本を代表する企業の「資産」はかなりの規模に及ぶのが普通である。問われるべきことは、その資産を効率的に運用して収益をあげているか(ROA:Return on Asset)なのである(国ベースで論ずる場合には、収益とは、国家の財政黒字額を指すものでは必ずしもない)。

昨今の「事業仕訳」や「公共事業削減」、今回の「国家公務員新規採用の概ね半減」は全て「額」そのものにフォーカスを当てた議論・政策であり、肝要な「効率」の議論がなおざりにされ過ぎている。「額」に拘る議論を繰り返すことよって、これ以上景気回復が「民業押付け」にされることのないよう、国民にも意識転換が求められる時期に来ている。

近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

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1989年12月29日、日経平均3万8915円~元野村投信のファンドマネージャーが明かすバブル崩壊の真実

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