「やらせ騒動」が見せる日本社会の現状~「自然の議論」がし難い社会

「仮に国が特定の意見表明を誘導していたという事実があれば、大変申し訳なく思う。」

海江田経産相は、原発に関する国主催の公開シンポジウムで「やらせ質問」や社員らの動員を行っていた電力会社が6社に上ることが29日に明らかになったことを受け、記者会見でこう謝罪した。

原子力発電所の安全性を厳しくチェックすべき立場にある原子力保安院が「やらせ質問」を依頼したりする行為は、多くのマスコミが指摘する通り「言語道断」である。しかし、「やらせ質問」問題を、電力会社や原子力保安院(=経済産業省)に対する批判の材料として受け取るだけでよいのだろうか。今回の調査は原発のない沖縄と、過去5年間原発に関する説明会を開催していない関西、北陸電力を対象外としており、「電力会社6社」というのは、実質「全電力会社」ということ。要するに、個々の電力会社の体質の問題と簡単に片付けられるものではない。

「国が特定の意見表明を誘導」するような今回の行為は、本当に特異な出来事なのだろうか。所謂「やらせ」が原子力という特異な分野固有のもので、原子力以外の分野に「やらせ」は存在しない、と断言出来る国民がどれほどいるのだろうか。

原子力発電に関しては、利害関係者でもある「御用学者」と称される学者が、科学的見地から安全性にお墨付きを与え「特定の意見表明を誘導」して来た。
本質的に同じ様な行為は、経済の分野でもみられることだ。例えば、震災復興の財源に関する政府審議会などのメンバーには、「復興コストのツケを将来世代に回すな」と「増税」を提言している経済学者が多く登用されているという指摘がなされている。こうした政府による「特定の意見表明を誘導」する努力により、多くの国民は東日本大震災の復興財源を臨時増税で賄うことに寛容な姿勢を見せ、それを受けて菅内閣は、復興財源のために増税、原子力損害賠償支援機構法案で増税、B型肝炎訴訟の被害者救済でも増税と、「増税オンパレード社会」に向かって加速し始めている。

政府による「特定の意見表明を誘導」を可能にしているのは、昨今の日本で「サイレントマジョリティー(声なき声)」に対する抑圧が強まって来ているからである。

経産省が謝罪会見を行ったその翌日、今度は九州電力の玄海原子力発電所の運転再開を巡る「やらせメール」問題で佐賀県の古川知事が記者会見し、運転再開へ向けた国主催の説明会の直前、九電で原子力部門を統括する前副社長らと面会し「原発再稼働を容認する意見が経済界にあるなら、その声を表に出すことも必要だ」などと伝えたことを明らかにした。

佐賀県知事が原発の再稼働問題で経済界の声を表に出すように要請していたことに対し、31日に長野・茅野市で開かれたエネルギー問題の集会に出席した菅首相は「自然の議論ではなく、意図された議論にした由々しきこと」と不快感を示した。

確かに知事の発言は、誤解を招く「軽率な発言」であった。しかし、「議論を深めるには賛成、反対双方の立場から幅広い意見を寄せてもらうことが必要」という知事自身の認識自体は至極まっとうなもの。
知事の発言を「やらせ」を助長しかねない発言だと非難することは簡単だが、別の視点から見ると、所謂「サイレントマジョリティー」の取り扱いをどうするか、という難しい政治的問題であるとも言える。

原発再稼働問題に関する県民説明番組という特異性を鑑みると、賛成意見を表明し難い状況(実際に賛成意見がどの程度あったかは不明だが)で、菅首相の言う「自然の議論」が難しい状況にあったことは想像に難くない。知事が「軽率」であったのは、本来であれば、県民に向かって「賛成意見を持っている人は勇気を持って発言して欲しい」と直接要望すべきところを、事業者である九州電力との面会という密室で自らの考えを示したことである。

ただ、古川知事のこうした「軽率な発言」を誘発した原因として、日本では「サイレントマジョリティー」が抑圧され、「自然の議論」がし難くなって来ているという現実にも目を向けなければならない。

民主党の代表選挙の際、メディアは一斉に「反小沢」色を打ち出し、菅首相誕生の原動力となった。しかし、ネットで実施された支持率調査では、「小沢支持」が圧倒的であった。
こうした傾向は今でも続いており、今月ロイターが個人投資家向けメールマガジン購読者である全国の個人投資家698人を対象に実施した調査では、「次期首相に最もふさわしい政治家」として小沢元代表(22.3%)は、自民党の石破茂政調会長(22.5%)に次ぐ支持を集めている。
さらにウォール・ストリート・ジャーナル日本版が実施したネット投票でも、小沢元代表は断トツの支持を集めており、「小沢支持」が「サイレントマジョリティー」を形成していることが証明されている。しかし、こうした意見がネット以外の公の場所で大きく語られることはないのが今日の日本の現実である。

日本では、小泉元首相や菅首相のお家芸である、「巨大悪に立ち向う弱小正義の味方」という幼稚な政治的演出、「政治的やらせ」にマスコミが加担し過ぎたことによって、「サイレントマジョリティー」が掻き消され、「自然の議論」が成り立ちにくくなって来ている。

今回の一連の「やらせ騒動」は、日本社会全体が「やらせ体質」になりかけていることを露呈した出来事である。今回の騒動を、電力会社という特定業界の体質や、一知事の「軽率な発言」として片付けるのではなく、「政治的やらせ」を許さず、「自然の議論」が出来る「脱やらせ社会」への転換の好機と捉えるべきである。

「脱やらせ社会」実現の条件は、国民が「審美眼」を養うことである。そして国民の「審美眼」を養うために必要なのは、マスコミが「サイレントマジョリティー」を含めて、政策当局にとって都合がよくない情報も公平に議論の俎上に載せることである。国民が「審美眼」を養うための絶対条件は「本物」に触れることであり、「やらせ(偽物)」を見せられ続ける国民が「審美眼」を持つことは不可能だからだ。マスコミの責任は重い。




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近藤駿介

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