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経常赤字転落?~「税金を取れない国富」と「税金をとり易い国民の財布」

「財政再建原理主義者」は、どんな材料でもすべて「消費増税による財政健全化」と「TPPによる成長戦略」にむけての「レシピ」に仕立て上げてしまう天才である。難点は、出来上がった料理が不味いこと。

日本の2011年の貿易収支が31年ぶりに赤字となったことを受け、日本経済新聞では26日から「黒字が消える」という特集記事を掲載した。

「黒字が消える」という特集記事は、「南欧諸国を中心に先進国が直面する国債問題に対応するには、消費増税などとともに、経常黒字につながる成長戦略の二正面作戦が不可欠だ。環太平洋経済連携協定(TPP)で市場を広げ、アジア・太平洋地域の活力を取り込む。(中略)持続的な成長へ総力を挙げる時だ」という主張で締め括られている。

この主張の問題は「国債問題(=財政再建)」と「TPP(=成長戦略)」を単純に結び付け、あたかも「TPP参加」が「財政問題」の解決策であるかのように捉えていることである。しかし、現在の日本の制度では「アジアの成長」を取り込むことでは「財政問題解決」は難しいと思われる。

26日付の日本経済新聞は「輸出に頼らず投資で稼ぐ構造に転換を」という社説を掲載し、次の様な主張をしている。

「製造業が海外に軸足を移し、世界で稼ぐ姿を目指すのは自然な流れだ。このまま貿易赤字が拡大して、経常収支の赤字に陥らないためにも、海外の子会社や投資先から受け取る配当金、技術ライセンス料を日本に還流し、国内では新しい産業と雇用を伸ばす循環を生み出す必要がある」。

おそらく、これは尤もな常識的な「模範解答」なのだろう。

しかし、この「模範解答」の問題点は「企業」の立場にたったものあり、「国」の立場に立てば必ずしも「模範解答」ではないところ。

「生産を海外子会社に移し、子会社が獲得した利益を配当金という形で国内に還流させ、その資金を使って国内で付加価値の高い技術や商品の開発を行う」。

こうした流れは企業にとってビジネス上とても美しい流れであり、国民の耳にも美しい調べに響くものである。しかし、「国家財政」からみれば、この流れには、「税金が取り難い」という大きな問題点がある。

生産を海外子会社に移し、利益をあげた場合、「海外に進出した日本企業が外国で法人税を払う場合、その分を日本で払う法人税から差し引く」という「海外子会社配当金不算入制度」によって、配当金という形で国内の「企業に還流した」子会社の利益は、殆ど「国には還流しない(税金が取れない)」。

また、国内に還流した子会社の利益で研究開発をすれば、「企業が製品開発や技術改良のために支出した試験研究費の一定割合を法人税額から差し引ける」という「研究開発減税」によって、国内の本社からもまともに税金をとることは出来ない制度になっている。さらには研究開発を行う施設を国内に作る際には「立地補助金」という国民の税金が使われ、財政に負担を掛けることになる。

企業が海外に拠点を設けることで、海外での日本の「国富」は積み上がって来ている。投資効率はともかくも、所得収支の黒字は2007年の16.3兆円から減ったとは言え、2011年で約14兆円と貿易赤字を埋めるに十分な規模になっている。

一方法人税は、2009年度に「海外子会社配当金不算入制度」が採用されたこともあり、2006年度の14.9兆円から2011年度には7.8兆円と半減している。

日本の企業が「生産を海外子会社に移し、子会社が獲得した利益を配当金という形で国内に還流させ、その資金を使って国内で付加価値の高い技術や商品の開発を行う」という「模範解答」を実行に移して行けば行くほど、「国には還流しない国富」が「企業」に溜まっていく構図になっている。

「税金を取れない国富」を増やす政策を推し進めた結果としての「財政悪化」を、「税金をとり易い国民の財布」から吸い上げることで埋め合わせようというのが「消費増税」の背景にある。

日本の課題は、企業が「TPPで市場を広げ、アジア・太平洋地域の活力を取り込む」ことが出来ても、そこからあがる収益が「企業部門」に留まり「国家財政」に還流し難い制度になっていることである。

こうした制度的な歪みがある限り、「TPPで市場を広げ、アジア・太平洋地域の活力を取り込む」ことが出来たとしても、「財政再建」「持続的な成長」には繋がらない。

雇用主である企業が「アジアの成長」を取り込み易く、国内で研究開発をし易い政策を推し進めると「税金のとれない国富」が「企業部門」に溜まり、膨らんでいく社会保障費の財源を「税金のとり易い国民の財布」に求める圧力が高まって来る。
そして、「消費増税」が実施されれば、国内の有効需要は減少し、企業は「アジアの成長」を追い求めざるを得なくなり、国内の空洞化は進む。国内の空洞化が進めば、年金だけでなく、失業手当や生活保護費といったセーフティーネット関係の支出も増え、財政はさらに悪化する。

日本の抱える問題は、「多元方程式」になっている。「消費増税」や「TPP参加」という単純なもので解決出来る代物ではなくなって来ており、多面的に問題を考える、或いは発想の転換が必要になって来ている。

オバマ大統領は24日、一般教書演説を行い、富裕層への増税を実現する決意を示したうえで、国内の雇用を守るため「海外へ雇用を移した企業に増税する一方、雇用増に貢献した企業に対する減税措置を含む法人税改革」を打ち出した。

こうした方針を「保護主義的動き」と非難するのは簡単である。しかしそれは、暴漢に襲われた人に「首を絞めたり、噛みついたり、金的は反則だ」というようなもので、余り意味のないものである。「国益」を守る最後の一線は「断固たる措置」であるのだから。

日本経済新聞は、「日本の貿易収支が、第2次石油危機の1980年以来、31年ぶりに赤字となった。モノの輸出で稼ぐ日本の成長モデルが、歴史的な曲がり角に来たと考えるべきだ」と主張している。

「歴史的曲がり角に来た」とするならば、「消費増税」や「TPP参加」すれば日本が抱える問題は解決出来る、かのような錯覚を与えるべきではない。そして、「国民の生活が第一」であるとするならば、行き過ぎたとも言える「企業優遇」という今の国の形をこのままにしていいのか、という問題定義を国民に対してするべきである。世界は国内の雇用を守るために「断固たる措置」をとる方向に動き出す気配を見せていることにも目を向けるべきである。

近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

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著書

1989年12月29日、日経平均3万8915円~元野村投信のファンドマネージャーが明かすバブル崩壊の真実

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