企業年金は「法的にプロの投資家」か?~監督責任を見え難くする「財政再建原理主義者」

「AIJ投資顧問が運用を受託した企業年金資産の大半が消失した問題を受け、金融庁は多くの企業年金を『プロ投資家』と扱う現行の仕組みを見直す検討に入る。資産規模が小さく運用体制が不十分な場合は『一般投資家(アマチュア)』と見なし、金融商品を提案する際にはきめ細かい説明を金融機関に求める方向だ。中小年金基金に対し、リスクが高い金融商品への投資を実質的に制限する内容だ」。

28日付日本経済新聞は「高リスク運用 制限 小規模年金、AIJ問題で」という記事の中で、このように報道している。

また、25日付の「AIJの年金消失、なぜ防げなかったか 租税回避地で運用 当局の監視に限界」という題名の解説・コラムでは、「AIJと契約した厚生年金基金などは、法的にはプロの投資家だ。国がその主体的な投資判断に物言いを付けることは適切ではなく、投資顧問と企業年金の関係は事実上、当事者間の自己責任に委ねられている。当局は実際に問題が起きてから動く事後対応になっているのが現実だ」と伝えている。

確かに、投資実態が不明な商品に投資した一義的な投資責任は年金基金側にあることは間違いない。しかし、日本経済新聞の報道は、「AIJと契約した厚生年金基金などは、法的にはプロの投資家だ」「当事者間の自己責任に委ねられている」といった年金基金の自己責任を前面に出すことで、監督当局の責任を過少に伝えるかのような仕立てになっている。

気にかかることは、「多くの企業年金を『プロ投資家』と扱う」「AIJと契約した厚生年金基金などは、法的にはプロの投資家だ」と繰り返して強調しているところ。

厚生年金基金などは、もともと「法的にはアマチュア」投資家である。

金融商品取引法上、年金基金も「特定投資家(プロ)」申請をすれば「法的にはプロ」になれるし、「厚生年金基金・企業年金基金で、直近の貸借対照表上において純資産が100億円以上あるものとして金融庁長官に届出を行った者」は「適格機関投資家(プロ)」になることは可能である。しかし、日本経済新聞がいうほど「多くの企業年金」が「法的にプロ」になっているかは定かではない。

実際「多くの企業年金」が「法的にプロ」になるメリットは余り多くない。

今回はAIJ投資顧問が運用していた私募投信が問題になっている。私募投信には、限られた範囲の投資家に対して募集を行う「少人数私募」と、適格投資家に限定した「適格機関投資家私募(プロ私募)」の2種類ある。

仮にAIJ投資顧問が運用していた私募投信が「少人数私募」であれば、年金基金はAIJが運用する私募投信を購入するために「法的にプロ」になる必要はない。また、「適格機関投資家向け私募(プロ私募)」であったとすれば、100件近い「多くの企業年金」が投資することは不可能であったはずだし、「金融庁長官に届出」を行ってまで投資対象が不確かなAIJ投資顧問の私募投信に投資する年金基金が続出したとは考えにくい。

こうした状況の中で、日本経済新聞がことさら「AIJと契約した厚生年金基金などは、法的にはプロの投資家だ」と強調するかのような報道を繰り返すことに違和感を禁じ得ない。

Wall Street Journal電子版は、日本経済新聞の子会社である格付け会社「格付投資情報センター(R&I)」が、2009年にAIJ投資顧問を「不自然な」会社として警告し、金融当局ともこうした懸念について議論したと報じている。

この報道が事実なら、マスコミは金融当局の怠慢を追及するのが筋である。財務局に提出されているAIJの事業報告書には辻褄の合わない数字が羅列されており、監督官庁が目を通しさえすれば「不自然な」会社であることを見落とすはずはなかった。

R&IがAIJを「不自然な」会社だと警告を発した1年前に、同じくR&Iが実施した顧客満足度調査でAIJが第1位に選出されていたこともあり、R&Iは監督官庁に強い要請は出来なかったのかもしれない。

今となっては、「財政再建原理主義」であるR&Iの親会社である日本経済新聞が、同志である内閣府の外局の金融庁を非難することなど出来ない相談なのだろう。消費増税に邁進する「財政再建原理主義者」にとって、「財政再建原理主義者」の監督不行き届きによる多額の年金損失を、消費増税で埋めるような印象を与える訳には行かないからだ。

「財政再建原理主義者」であるマスコミは、ことさら企業年金基金の「自己責任」を強調し、同志の監督官庁の責任を目立たなくするという作戦を展開するつもりのようである。

興味深いことは、現在の金融担当相が、連立与党でありながら、「野田総理は消費税増税の殉教者だ」と痛烈に野田総理を批判している亀井代表率いる国民新党所属の自見大臣であること。

自見金融担当相が、ことさら企業年金基金の「自己責任」を強調し、「財政再建原理主義者」である監督官庁の責任を目立たせなくするという作戦の遂行を黙認するか、「財政再建原理主義者」の監督不行き届きによる多額の年金損失を、消費増税で埋めるような印象を与える「監督官庁の責任」にまで踏み込むのか。国民新党の本気度も試されそうだ。
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近藤駿介

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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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