動き出す「厚生年金基金改革」~「改革」の仮面をかぶった「だまし討ち」

「AIJ投資顧問による年金消失問題を受け、再発防止策を話し合う厚生労働省の有識者会議は29日、最終報告をまとめた。財政難の厚生年金基金が解散しやすくするのが柱。解散するときに、公的年金の積み立て不足を加入企業が連帯して国に返済する制度を廃止する。これまで先送りしてきた厚年基金改革が動き出す」

30日付日本経済新聞の一面では、「厚生年金 連帯返済を廃止 AIJ問題受け改革 解散しやすく」という見出しで、有識者会議が最終報告をまとめたことで、「先送りされてきた」「厚年基金改革」が動き出すことになったことが大々的に報じられている。

こうした記事から推察されることは、日本経済新聞は、「厚年基金改革=財政難の厚生年金基金が解散しやすくする」と考えているということである。しかし、「財政難の厚生年金基金が解散しやすくする」ような制度変更は、「改革」でもなんでもなく、厚生年金基金を監督する厚生労働省の「責任放棄」「救済」に近いものでしかない。

「持続可能な社会保障制度」を謳い、消費増税に「政治生命を懸ける」野田内閣にとって、「持続不可能な厚生年金基金制度」は邪魔者に過ぎないということ。穿った見方かもしれないが、消費増税法案成立後に、「持続不可能な厚生年金基金制度」の問題が注目を浴びることのないように、早めに「トゲ抜き」を急いだということ。

確かに、「財政難の厚生年金基金が解散」しても、失われるのは厚年基金独自の「加算部分」であること、厚生年金基金の運用資産のうち、国の厚生年金の資金を借りて運用している「代行部分」がかなりのウエイトを占めている、という現実を考えると、年金支給額が0になるわけではないので、「財政難の厚生年金基金が解散」しても、直ちにそれが社会不安を引き起こすわけではない。

しかし、企業年金においては、「年金給付に見合うだけの掛け金収入と資産運用益を確保できない」という理由で厚生年金基金の解散を促し、「収入を細くする」という形で国民に負担を強い、国の財政においては「社会保障を維持するだけの税収が確保できない」という理由で消費増税を課し、「支出を増す」という形で国民に負担を強いる政治が、「国民の生活が第一、という原点は踏まえたもの」なのか疑問を抱かずにはいられない。

日本経済新聞が大きな見出しで報じている「厚年基金 連帯返済を廃止」も、「年金連鎖倒産」を防止し、「財政難の厚生年金基金が解散しやすくする」ための方策に過ぎず、「改革」から程遠いもの。

今回の「連帯返済廃止」は、厚生年金基金の参加企業が負ってきた「連帯返済義務」を、厚生年金、つまりサラリーマンの公的年金に押付けるだけのもので、「改革」の仮面をかぶった「だまし討ち」に過ぎない。

「財政難の厚生年金基金」が増えてきた根本的な原因は、日本の政策当局が長年に渡って「デフレ」と「円高」を放置して来たからに他ならない。

厚生年金基金をはじめ、日本の年金制度は「穏やかなインフレ」を前提とした「安定した金利水準」と「安定した株価上昇」に基づいて制度設計されている。こうした現実がある中で、政策当局が「デフレ経済」と「円高」を放置し続ける、さらにはそれを後押しするような政策を採れば、日本の年金制度が「持続可能な年金制度」になり得るはずがないことは、明白である。

政策当局は、日本の年金制度が立ち行かなくなった原因を、リーマンショックや欧州危機、AIJ事件という「想定外の出来事」に求めている。しかし、日本の年金制度が「持続可能な制度」にならなかった本質は、「制度はインフレ、政策はデフレ」という年金制度と政策の「ネジレ現象」にある。従って、日本の年金制度が「持続可能」でなくなったことは、「想定外の出来事」ではなく、「想定された出来事」でしかない。

野田政権は、「財政難の厚生年金基金が解散しやすくする」ことで、被害(政策当局にとっては責任)の拡大を食い止め、その穴埋めを「サイレントマジョリティー」であるサラリーマンの厚生年金にさせようとしている。

しかし、多くの厚生年金基金が財政難に陥ったのは、国の無策に原因がある。さらに、社会保険庁OBが多数を占めている厚生年金基金の常務理事は「みなし公務員」となっており、彼らが受け取っているのは公務員が加入する「共済年金」であることを考えると、「財政難の厚生年金基金」が解散することによって生じる「代行割れ」の穴埋めは、公務員の年金である「共済年金」を使って行うのが筋のはずである。

「財政難の厚生年金基金が解散しやすくする」ことを柱とした「厚年基金改革」を通して浮かび上がってくることは、「国民の生活が第一、という原点は踏まえたもの」とのたまう野田内閣の本質は、「サラリーマンの懐から資金を巻き上げるのが一番」というものである、ということ。

厚生年金基金解散によって生じる「代行割れ」は「共済年金」によって穴埋めし、「みなし公務員」に該当する厚生年金基金の理事の年金は、公務員の「共済年金」から厚生年金と厚生年金基金に移管する、というのが「政治の責任」の取り方のはずである。

「サラリーマンの懐から資金を巻き上げるのが一番」という安易な政治を許してはならない。
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近藤駿介

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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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