2012/10/27
第三極結集 … 「大異を捨てて小同につく」ことなかれ
「大眼目はやっぱり官僚の硬直した日本支配を壊していくことだ。原発をどうするとか消費税をどうするとか、これから先、ある意味大事な問題かもしれないけど、ささいな問題だ」「近いうちに」あると言われている総選挙の主要な争点とされている、原発問題や、消費増税問題を「ささいな問題だ」と言い切ってしまうところが、石原都知事の魅力であり危うさである。こうした独特の断定的な表現は、最大の目標である官僚支配を打ち破るために、いわゆる第三極を結集する必要があり、そのためには政策の違いを超えて連携をするべきだという考えを強調したもの、だと報道されている。
「薩長土肥も関心、考え方は違ったけど、幕府を倒して新しい国家をつくるということで大連合があった。一緒にやったらいいんだ、選挙は。みんなで大連合をつくって…」
石原都知事は、日本人の大好きな「維新」に準えて、民主、自民両党に対抗する「第三極」の結集を、「近いうちに」あるとされる総選挙の最大の争点に据えようとしているようだ。
第三極の結集。「近いうちに」実施され総選を睨んで、これが一つのキーワードとなって来ている。しかし、「第三極」という表現は、何とも危うさを孕んだものである。
第三極。この表現の表面的定義は、「自民党でもない、民主党でもない」ということなのだろう。しかし、消費増税という政策面で完全に一致し、官僚制度の抜本的な改革を先送りし、財界との繋がりを重視するという、国のありようでもほとんど同じである自民党と民主党を、第一極、第二極と別々の極としてカウントすることに意味があるのだろうか。少なくとも「消費増税原理主義」にとってはどちらが政権を取っても大勢に影響はないし、この両党に政策や理念の大きな違いがあるのだとしたら、有権者が投票先に困ることはないはずである。
一方、第三極に括られている各政党。憲法改正や領土問題、消費増税容認については、石原新党と自民党に殆ど差はない。これに対して、その人気に陰りが出てきたと言えでも、依然、第三極で中核的な役割を果たしている日本維新の会は、憲法問題や消費増税に関する考え方は、石原都知事と異なっている。さらに、みんなの党は、官僚支配の打破という理念では完全に一致しているものの、消費増税絶対反対の立場であり、こちらも石原都知事とは政策的に全く異なっている。
政策に殆ど差のない民主党と自民党という第一極、第二極に政権を委ねるのか、第一極、第二極を倒すという理念で一致しているが、政策的にバラバラな第三極に政権を委ねるのか。有権者にとっては究極の選択である。
第一極、第二極に政権を委ねれば、大きな政策転換はないという安心感はある。しかし、これは「失われた20年の継続」であり、「経済退国日本」に向かうということと同義である。一方、第三極に政権を委ねるということは、現時点では政策的にバラバラな各党に「白紙委任状」を渡すようなものである。第三極の選択は、現時点では「鬼が出るか蛇が出るか」といった一昔前の福袋を買うような危うさが残る。
「そんなに大きな広がりになるとは思えない」
新党「国民の生活が第一」の小沢一郎代表は26日、石原東京都知事が結成する新党についてこのように述べた。この発言も、現時点で持つ「第三極」の危うさを表現したものなのかもしれない。
「小沢とは組まない」
都知事を辞職し、新党結成を発表した石原都知事は、自民党時代からの長年の天敵だとされる国民の生活が第一の小沢代表とは組まないことを、記者団からの質問に先駆けて表明した。これは、「薩長土肥も関心、考え方は違ったけど、幕府を倒して新しい国家をつくるということで大連合があった。一緒にやったらいいんだ、選挙は。みんなで大連合をつくって…」と発言し、「小異を捨てて大同につく」必要性を強調した発言とは完全に矛盾するもの。「陽」の独裁者は、「陰」の権力者を毛嫌いしている様子。
「政策が一致したからといって、ただちにグループ化とはならない。政策一致は必要条件だが十分条件ではない」
このように述べ、政策一致を「第三極結集」の必要条件と考える維新の会橋下代表。これに対して「しさいな」政策的な不一致よりも、官僚の硬直した日本支配を壊していくという「大眼目」のもとに結集を図ろうとする石原都知事。「第三極の結集」が今後広がるかどうかは、この両者の「大異」をどのように埋めて行かれるのかにかかっている部分も大きい。
「政策を必ず一致させるが、その後は人間関係だ。ここはもう理屈じゃない」
政策の一致が必要条件だという考えに続いて、日本維新の会橋下代表はこのように言葉を続けた。この言葉は多分に石原都知事と小沢代表との険悪な関係や、石原都知事とみんなの党渡辺代表との微妙な関係を想像させるもの(みんなの党渡辺代表の亡父渡辺美智雄は、石原都知事と共に1973年に自民党タカ派の政策集団「晴嵐会」の結成メンバーであり、政策的に近かったが)。
自民党、民主党を中心とした今の既存政党による政治は完全に行詰っており、新たな政治体制が必要なことは多くの国民が感じていることである。しかし、「政権交代」という言葉に酔って大きな失敗を経験した多くの国民が、「政策的不一致」という「大異」を捨てて、「自民党、民主党による官僚の硬直した日本支配を壊していく」という「大眼目」のもと、政権交代という「小同」につくという行動を受け入れるかどうか、定かではない。
石原新党の結成によって、「第三極結集」が「広がりを見せるか」は、「小異」と「大同」を「近いうちに」国民に明確に示せるかにかかっている。国民が期待しているのは、「政権交代」という単発の政治イベントではなく、「政権交代後の日本」なのだから。