歪められる政治 ~ 本当のように報じられる「本当とは言えない話」

「前半と後半で際立って違った。前半は前回の衆院選のマニフェスト(政権公約)で掲げた子ども手当や高校無償化など家計重視の政策にこだわり、財政負担も増えた」「ただ菅直人首相になってからは法人実効税率を5%引き下げ、企業向けの政策が少し進み始めた。野田佳彦首相が実現した消費税増税を含む社会保障・税一体改革の関連法の成立も、大きな成果の一つだ」

28日付日本経済新聞の特集記事「’12 衆院選 政治は何を成すべきか ~ 政策実現できる連立を」のなかで、米倉経団連会長はこのように述べている。

「子ども手当や高校無償化など家計重視の政策にこだわり、財政負担も増えた」というが、果たして本当なのだろうか。

確かに、鳩山内閣が組んだ平成22年度予算で、公立高校の授業料無償化及び高等学校等就学支援金の創設として3,933億円、子供手当で約2兆2500億円が計上され、「子供手当や高校無償化など家計重視の政策」によって、合計で2兆6500億円程の財政負担が生じている。

しかし、だからと言って「菅直人首相になってからは法人実効税率を5%引き下げ、企業向けの政策が少し進み始めた」という米倉会長の主張が正しいとは言えない。

2009年から「海外子会社配当益金不算入」という、日本の親会社により、発行済株式等の25%以上の株式等を保有されており、かつその保有期間が配当の支払義務が確定する日以前6ヵ月以上継続している外国子会社から受ける配当などの額の95%を非課税に出来る「企業向けの」制度が導入された。こうした「企業向けの施策」によって、企業が益金不算入(課税対象としない利益)にした総額は3兆9417億円に上っている。もし仮にこの益金に30%の法人税が課税されていたとしたら、企業は1兆2000億円近い税金を負担していたことになる。換言すれば、国の財政は「企業向け施策」によって、1兆2000億円程の税収源を失ったということである。

同じ記事の中で米倉会長は、「大規模な財政出動が難しい中で次期政権に期待する経済政策とは」という質問に対して、「研究開発と規制緩和が重要だ」と述べ、さらなる「企業向け施策」を求めている。因みに2010年度に企業が受けた「研究開発費減税」の総額は3,726億円、そのうち89.6%にあたる3,340億円が資本金10億円以上の大企業が受けている。

1兆6000億円近い税金を、「海外子会社配当金不算入」と「研究開発費減税」という「企業向け施策」によって免除されている企業のトップが、2兆6500億円程度の「家計重視の政策」に物申すというのは、あるべき姿なのだろうか。

ちなみに、米倉会長が、会長を務める住友化学から受け取っている2011年度の役員報酬は122百万円と、前年度比20%以上(2010年度までは1億円未満ということで開示なし)急増している。 2011年度の住友化学の決算は、売上高が1兆9479億円と前年度比▲1.74%、最終利益が5,587百万円と前年度比▲77.13%であり、経営成績からは役員報酬が大幅に増加する状況にはない。また、監査役と社外取締役を除いた11人の役員の報酬総額は610百万円と、前年度の10人、609百万円から実質10%減となっていたことを合わせて考えてみると、米倉会長の報酬増額は突出したものと言える。これも「企業向け施策」の恩恵なのだろうか。

話は少し逸れるが、経済産業省の「海外事業活動基本調査結果概要確報」によると、日本企業の海外現地法人の2010年度経常利益は10.9兆円、前年度比56.3%増加、当期純利益は7.7兆円、同64.3%増加した。しかし、2010年度の現地法人からの日本側出資者向け支払い(配当金、ロイヤルティ等)は255百億円、前年度比▲0.3%とほぼ横ばいにとどまり、当期内部留保額は4.7兆円、同150.9%増加とそれぞれ大幅に増加し、内部留保残高は20.7兆円、前年度比15.3%増加となった。

好調な海外現地法人が、海外で支払った法人税額は2兆8000億円強と、国内の法人税7.8兆円の約36%にまで達している。「アジアの成長を取り込む」日本企業の利益は、日本の税務当局が手を付けられないところに行ってしまっている。こうした傾向が続く限り、いくら「企業向け施策」によって日本の財政再建を図ることは難しい。その結果、財政再建を成し遂げるために、「財政再建待ったなし」「次の世代に借金を残すな」というキャッチフレーズを振りかざし、国内から逃れようのない個人の懐に手を突っ込む愚策が繰り返され、徴税の「家計重視」が鮮明化して行く。

「3年間を振り返ると、できないこともあった。深くおわびをしなければならない」

日本経済新聞は、野田総理が27日の民主党衆院選マニフェスト発表記者会見で、前回衆院選のマニフェストについて、このように陳謝したことを報じている。しかし、野田総理が国民に陳謝すべきは「できないこともあった」ということではない。国民が野田総理を「嘘つき」と非難し支持しないのは、「やらないという約束を破った」からである。要するに、野田総理は、マニフェストに違反した消費増税に関しては、全く非を認めていないということ。「やらないという約束を破った」非を、「できないこともあった」という似て非なるものにすり替えている。こうしたすり替えこそが、野田政治の専売特許である。

「あつものに懲りてなますを吹くとはこのことか。民主党が発表した衆院選のマニフェスト(政権公約)は何をいつまでにどれだけやるのかが分かりにくい。前回選のような帳尻の合わない公約は論外だが、国の針路がみえないのも困る」

28日付日本経済新聞は、「あいまいで国の進路みえぬ民主の公約」と題する社説を掲載し、民主党マニフェストのわかり難さを批判した。しかし、こうした批判は、マニフェストの中身の問題であり、野田政権には当てはまらないもの。何故ならば、野田政権の問題点は、マニフェストに書いていないことを「勝手に実行する」ことであり、マニフェストに記載してあることを「できなかった」ところにないからである。「何が書いてあるか」よりも、「何が書いてないか」の方が重要度が高い可能性があることが政治不信を生んだ根源だ、という認識に立たない陳謝や批判など、何の意味もない。

「嘘の公約は許されないが、無意味な美辞麗句の羅列もよくない。公約は何のためにあるのか。それを政党も有権者もよく考え直す選挙にしなくては日本の政治はよくならない」

この社説はこうした文章で結ばれている。この結びから想像されることは、日本経済新聞は「嘘の公約は許されないが、記載していない政策を勝手に実行することは許される」と考えている可能性があるということ。「公約は何のためにあるのか」。それを考え直すべきなのは、「マニフェストに書いていないことを勝手に実行した政党」であり、それを非難するどころか旗振り役を務めてきたマスコミのはずである。

近藤駿介

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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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