「硬直した価値観」で作られたマニフェスト ~「 法人減税で企業の国際競争力強化を目指す」?

「中央官僚の硬直した価値観でつくった規定は通用しない。それに使われている国会議員はダメだ」「官僚では絶対にできないようなポイントを示した」

29日、日本維新の会の衆院選の政権公約「骨太2013~16」を発表記者会見に出席した石原代表と橋下代表代行は、このように述べ、官僚主導政治の打破を目指す考えを示した。

発表された公約の5本柱は、(1) 経済・財政 (2) 社会保障 (3) 国家のシステム (4) エネルギー供給体制 (5) 外交安全保障。

しかし、「官僚では絶対にできないようなポイントを示した」と強調する割には、「骨太2013~16」というネーミング自体、数年前何処かで耳にしたことのあるものであるし、「政府と日銀の間で物価安定目標などに関するアコード(協定)を締結」「法人税減税で企業の国際競争力強化を目指す」という政策も、他の党のマニフェストにも記載されている、一見 「一般的な価値観で作った政策」。

やや目新しいのは、経済政策で「所得減税で消費を活性化させ」という文言を「法人税減税で企業の国際競争力強化を目指す」という文言の前に付けることで、「家計重視」の雰囲気を作り出したところ。

しかし、「最低賃金制度の廃止や解雇規制の緩和」「消費税は道州制の実現に合わせて11%に引き上げ、すべて地方税化。うち6%分は地方間の財政格差の調整に充てる」という主張も盛り込まれており、維新の会の政権公約は「家計に厳しい」、どちらかと言うと「企業重視」の内容になっている。「所得減税」は、消費税を地方税化することによって、国税を原資とした地方交付税が不必要になるというカラクリに基づくレトリックで、「所得減税で消費を活性化させる」という主張は「中央官僚の硬直した価値観」を髣髴させるもの。

「法人税減税で企業の国際競争力強化を目指す」

「骨太2013~16」に限らず、日本では、こうした主張がごく当然のように繰り返され、国民の多くもごく当然のように受け入れている。しかし、こうした主張は現実問題として正しいのだろうか。

「法人実効税率(国の法人税と地方税を調整した後の表面上の税負担率)の水準を国際的に比べると、 我が国はアメリカ以外の先進諸国を上回る水準となっています」

財務省HP内の「税制について考えてみよう」というコーナーでは、日本の法人税率について、このような説明が加えられている。
財務省法人税率推移

しかし、「法人税収の推移」からも明らかのように、法人税率は、1990年前後の40%から、足元では25.5%まで引き下げられている。では、その間「日本企業の国際競争力」は上がったのだろうか。ソニーやシャープ、パナソニックにNEC…。こうした日本を代表する企業が苦境に陥っている事実から窺えることは「日本企業の国際競争力は落ちている」ということである。

では、「日本企業の国際競争力が落ちている」理由は、「法人実効税率が国際的に高いこと」にあるのだろうか。答えはおそらく「No」である。極論すると、「法人実効税率の高さ」と「日本企業の国際競争力」の間には、皮肉にも逆相関の関係にある。

内閣府が今年に2月末に発表した「「企業行動に関するアンケート調査」によると、2010年度の上場企業の海外現地生産比率は17.9%と1987年の調査開始以来最高を記録し、11年度も18.4%へ上昇することが見込まれている。そして海外移転理由として上げられているのは、「現地・近隣国の需要」が42.9%と最多で、「労働力コスト」(23.0%)などが続いている。調査票の選択肢に無いこともあり、「日本の法人税実効税率が高い」ということは理由として上げられていない。

海外現地生産比率推移(内閣府)

日本の法人税率が引き下げられる中で、「現地・近隣国の需要」と「労働力コスト」を理由に海外移転を進めて来た日本企業が「国際競争力」を失って来ている構図は、何とも皮肉である。

こうした事実から言えることは、「現地・近隣国の需要」や「労働力コスト」が原因で日本企業が海外移転をしているのだとしたら、「法人税減税で日本企業の国際競争力が高まる」という保証はどこにもないということである。

企業が「現地・近隣国の需要」や「労働力コスト」に惹かれて海外移転を進めて「国際競争力」を落とし、残された国内では法人税が引下げられて法人税収が減少し、税収減少の穴埋めのための消費増税による有効需要が失われる…。こうした経済状況下で、所得税減税は一つの有効な手段であるが、企業の「労働力コスト」を引き下げるための「最低賃金制度の廃止や解雇規制の緩和」は逆行する政策である。

「最低賃金引下げ」による所得額減少によって課税所得が減るので、税収は掛け算で減ることになる。また「解雇規制の緩和」によって失業者が増加すれば、そもそも所得税が入らなくなるうえ、失業保険や生活保護費という財政支出が増加してしまうからである。要するに、国内で「労働コスト」を下げる政策は、日本を「経済退国」へ追い落とす「悪魔の政策」である。

日本経済の復活を図るためには、企業にとって「労働コスト」が上昇しない形で「国内の有効需要」を増やす必要がある。その一つの方策として、「法人税からの所得税控除」を検討してはどうだろうか。

「法人税からの所得税控除」は、雇用者の給与にかかる所得税の一定割合を、法人税から控除するというもの。このような制度を設ければ、雇用を増やした企業だけが法人税減税の恩恵に与れることになり、企業に雇用のインセンティブを与えることが出来る。

国内の雇用を守り、増やすことは、有効需要の維持・拡大に繋がり、企業は「国際競争力」を落としてまで、「現地・近隣国の需要」を求めて無理な海外移転をする必要がなくなる。そうすれば、結果的に日本の税収は増えて行くことになる。

ちなみに、日本で源泉徴収される所得税は、24年度予算で約11兆円、これに対して法人税は同じく8.8兆円である。単純計算でいうと、源泉徴収される所得税を1割法人税から控除するだけで、企業にとっては12.5%の法人税減税になる計算である。また、実務的にも、企業が源泉徴収した所得税の9割を納税するという形で対応が可能なはずである。

「アジアの成長を取り込む」というキャッチコピーのもと、現地法人が挙げた利益を国内に還流する際95%を非課税にするような税制優遇策を設け、無意味に企業に海外移転のインセンティブを与えたり、単純に法人税減税を実施して税収を減らしたりするよりも、企業に国内雇用の維持・拡大に対するインセンティブを与える政策の方が、すっと「国益」に適っているはずである。

「法人税からの所得税控除」…。その実現性は定かではないし、全くのピンボケかもしれない。しかし、石原日本維新の会代表が指摘する通り「中央官僚の硬直した価値観」から脱却しないかぎり、日本が「経済成長と財政再建」という相反する課題を克服することは困難である。そのためには、「中央官僚の硬直した価値観」の延長線上にある「法人税減税で企業の国際競争力強化を目指す」という言い古された政策ではなく、この程度の発想の転換が必要な時期に来ている。
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近藤駿介

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