法人実効税率の引き下げが成長戦略の「本丸」か?

「期待したいのは国税と地方税を合わせた法人実効税率の引き下げだ。日本の税率は12年度に40%強から35%強(復興増税を含めると12~14年度は約38%)に下がったものの、国際標準といわれる25~30%よりもまだ高い」

30日付日本経済新聞の「本丸の法人税率の引き下げを忘れるな」という社説では、日本の法人実効税率が「国際標準と言われる25~30%よりもまだ高い」という理由で、法人税率の引き下げを求めている。

一方、30日の一面を飾った「企業と国、富奪い合い激しく 国境またぐ節税拡大  TAX ウオーズ」という記事では、「いま、財政赤字にあえぐ国家は課税強化に動き、企業は成長へ守りを固める。経済のグローバル化が加速するなか、税を巡る攻防『タックスウオーズ』が激しさを増してきた」ことが報じられている。

そして、この記事の中では、「税引き前の利益に対する法人税の負担割合を示す税負担率でみると、グーグルは19%。米国の法人実効税率(約40%)を大きく下回る」ことや、「日本企業の税負担率は30%台が多いが、米ファイザーやスイス・ノバルティスはほぼ10%台だ」ということが報じられている。

報じられている通り、知的財産の寄与度の高いITや製薬業界などのグローバル企業の、実際の課税負担率が、世界各国の税制の合法的な抜け道を利用した節税対策によって10%台に留まっているとしたら、日本の「国際標準と言われる25~30%」という水準まで法人税率を引下げは、こうした企業の日本進出を促す動機付けとして「本丸」になるのだろうか。

知的財産など付加価値の高い資産からの収益割合の高いグローバル企業にとって、実効税率よりもタックスヘイブンなどを利用しやすい税制を採用しているかの方が重要だとしたら、法人税率の引き下げはグローバル企業の誘致の「本丸」だとは言い切れない。

知的財産などに基づいた研究開発型グローバル企業にとっての海外進出の判断基準がタックスヘイブンなどを利用し易い税制であり、労働集約型のグローバル企業にとっての日本進出の障害が労働コストの高さだとしたら、こうした企業の日本進出を図る目的での法人税率引き下げは正しい選択ではないということになる。

政府だけでなく、中央銀行までもが「雇用」に対する責務を負わざるを得なくなって来ている今日、政府が、合理化・リストラによって利益をあげることの出来る企業から、合法的な抜け道があることによって税を徴収出来ない構図は、世界経済にとって悲劇である。国の財政は、その国から逃げられない国民に対する増税によって雇用対策や社会保障に必要な資金を調達するという、「弱者に頼る財政」になってしまうからだ。こうした状況の中でのさらなる法人税率の引き下げは、国民への負担をさらに増加させかねないもの。

「日本政府は28日、企業などの課税逃れ防止を目的とする税務行政執行共助条約の受諾書を経済協力開発機構(OECD)に提出した。多国籍企業の課税逃れが世界的な問題になるなか、日本も同条約に加わることで、税徴収や情報交換などで加盟国間の協力を深め、脱税や過度の節税への対策を強化する狙い。10月1日から日本に適用される」

29日の日経夕刊では、日本がOECDに「課税逃れ防止条約の受諾書を提出」したことが報じられている。「同条約に署名しているのは55カ国で、発効済みおよび発効を予定しているのは米英仏など29カ国。低税率国として挙げられるスイスなどは署名していない」が、先日の北アイルランで開催されたG8でも多国籍企業の「課税逃れ」対策強化で合意しており、同条約の強化はG8各国の国際公約ともいえるもの。

TPPを始めとした自由貿易の拡大が世界経済の成長のエンジンであるかのような論調が強いが、自由貿易の拡大より先にグローバル企業に対する課税ルールの統一化を進めなければ、世界経済の成長は難しい。世界経済の発展に必要なのは、「課税ルールの統一化あっての自由貿易」であり、「課税ルールの統一化なき自由貿易」ではない。自由貿易の拡大により「労働コストの均一化」が進み、企業誘致を目的とした不毛な「法人税率引き下げ競争」が続けられる限り、自由貿易を信仰する学者が主張するような「世界経済の拡大」や「国家財政の健全化」など絵に描いた餅でしかない。
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近藤駿介

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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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