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甘利経財相 「消費増税、失敗できない」? いえいえ、必ず失敗します 

やっぱりな、という感じでしょうか。

29日付東京新聞に、鈴木亘学習院大教授と西沢和彦日本総研上席主任研究員の討論記事、「<ザ・闘諭>社会保障と税一体改革 受け入れる?」が掲載されました。

西沢氏は、2012年11月から、社会保障制度改革国民会議委員をされているようで、「消費増税は必要悪」という消費増税実施に消極的賛成という立場の専門家として登場しています。その西沢氏は、この記事の中でこのように発言しています。

「委員として参加してみて、議論の中身の95%は官僚がコントロールしており、有識者は事務局が用意した原案に修正を申し入れる程度。変えられるのは全体の5%程度にすぎない。参加者にも利害関係を背負った覆面レスラーのような人が多い。役所が書いたと思われる 『ご発言いただきたい事項』 というメモを見て発言している人までいた」

「有識者が変えられるのは全体の5%程度に過ぎない」とありますが、おそらくこの5%程度も初めから有識者達に修正させるために官僚が「お土産」として用意していた可能性が高いですから、「有識者会議」は、実際には官僚の描いたシナリオ通りに進むように仕向けられていた儀式だったということでしょう。このような会議でなされた議論を、霞が関及び永田町界隈では「予断を持たない議論」と呼ぶのでしょうか。

「ご発言頂きたい事項」というメモをみて発言するのであれば、日本語が読めればいいわけですから、「有識者」である必要など全くないわけで、「有識者会議」が、政権にとっては「国民向けパフォーマンスの場」であり、財界にとっては「利権を確保する場」、「有識者」達にとっては「将来政府関係の公職に就くための面接の場」であったということが明らかになりました。こんなありがたい「有識者会議」の決定が、10月1日にも安倍総理が正式表明する予定の「消費増税予定通り実施」にお墨付きを与えるものになるとは、本当に情けない話しです。

【参考記事】 専門知識など不必要だった集中点検会合 ~産業界にとって陳情の場、エコノミストにとって面接の場  

消費増税に関する有識者会合の旗振り役でもある甘利経財相は、29日にフジテレビ系で放送された「新報道2001」で、「消費税率の8%への引き上げに失敗したら、そこから先はない」と発言されました。

ニュースなどではこの発言だけが取り上げられて報じられています、この発言では、何を以て消費増税の成功、失敗を測るのかという「判断基準」に触れていませんから、「消費増税を実施出来たら成功、実施出来なかったら失敗」であるかのように誤って受け取られてしまう可能性もあります。

甘利経産相はこのコメントをする前に、「名目GDPが上がって行く、そして実質も上がっていくという姿を目指しているんです」と発言されていますから、消費増税実施後に「名目GDPも実質GDPも共に上がっていく」かどうかを「消費増税の成功、失敗の判断基準」に置いていると捉えるのが自然だろうと思います。

もし、「名目GDPも実質GDPも共に上がっていく」ことを消費増税の成功失敗の判断基準だとしたら、消費増税予定通りの実施は、「誤った状況判断による負け戦」であるといえそうです。

「名目GDPが上がっていく、そして実質GDPも上がっていく姿を目指している」と発言されているということは、常識的には甘利経産相はGDPデフレーター(総合的な物価を示す指標)がプラスである状況を念頭においていると考えていいはずです。

9月9日に発表された2013年4-6月期の実質GDP(季節調整後)は、前期比年率+3.8%となり、消費増税実施に向けての大きな追い風となりました。しかし、GDPデフレーターは▲0.0%、国内需要デフレーターは▲0.1%とマイナス水準にあり、日本経済が依然としてデフレ経済から脱却出来ていない状態にあることが示されています。その結果、名目GDPは前期比年率+3.7%と、実質GDP成長率+3.8%を下回っています。

日本経済が依然としてデフレ経済から脱却出来ていない状況下で、国民負担を約8兆円増加させるとされる消費増税を断行し、「名目GDPが上がっていく、そして実質GDPも上がっていく姿」が実現したら、それはこれまでの経済常識を覆す奇跡的なことで、安倍総理はノーベル経済学賞の筆頭候補になることでしょう。

約8兆円といわれる国民負担増に伴う景気腰折れを防ぐために、5兆円規模の経済対策を打つとされていますが、候補として挙げられている対策では腰折れを防ぐことは極めて難しい状況です。

それは、約8兆円と目されている国民負担増は、規模の正確性はともかく、この先毎年「確実に発生するもの」(現在と比較して国民負担が約8兆円増加した状態が続く)であるのに対して、打ち出される経済対策は、今年1回限り、あるいは「実際に政府支出を伴うか定かではないもの」ばかりだからです。

約5兆円という経済対策のうち、「確実に」支出がなされる「真水」と呼べるものは公共事業(逆算すると約3兆円といったところ)や、低所得者向けの現金給付(約0.3兆円)位です。対策の目玉である総額1.2兆円規模とされている企業向けの減税は、「企業が設備投資をしたら」とか、「企業が賃金総額を増やしたら」という仮定の上のものですし、住宅購入者への現金給付や減税措置(約0.4兆円)も、「個人が住宅を購入したら」という仮定のお話しでしかありません。

では、消費増税後に企業や個人は投資を増やすでしょうか。企業が設備投資や雇用を増やすための判断基準になるのは、売上が伸びることで利益が増えるか否かだけであり、利益が出ない限り払う必要のない法人税減税は投資判断をする上での判断材料として優先順位が低いというのが金融・経済の常識です。個人の住宅購入も同様で、今後住宅ローンを払い続けられるかどうかが最重要事項であり、購入時に30万円貰えるかどうかが、それに優先することはあり得ないことです。

この先、今より国民負担が8兆円増加した状態となる日本経済を、1回限りの対策や、支出されるか定かでない対策を掻き集めた5兆円の経済対策で「名目GDPも実質GDPも共に上がっていく」ことを目指すなど、常識的には出来ない相談です。もし、安倍政権が、「消費増税を失敗するわけにはいかない」と考えているのであれば、「失敗」を隠し続けるために、この先毎年5兆円規模の経済対策を打ち続ける必要に迫られることになるはずです。これで、果たして財政再建を果たし、社会保障体制を維持出来るのでしょうか。

約8兆円に及ぶ消費増税と5兆円規模の経済対策という組み合わせは、「利権の分配」という点においては「効率的政策パッケージ」かもしれませんが、「所得の再配分」という観点においては「最悪の政策パッケージ」と言えそうです。


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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

著書

202X 金融資産消滅

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