クラウドファンディングによる未上場株投資解禁 ~「投資家保護」はあれど、「社会的リスク」への備えなし?

「金融庁はインターネットを使った未上場株への投資の勧誘を解禁する。金融商品取引法(金商法)を改正し、1人当たり50万円を上限に投資できるようにする。仲介業者の規制も緩める。約1600兆円に上る家計の金融資産の一部を活用し、ベンチャー企業の資金調達を支える。今の通常国会に金商法の改正案を提出し、2015年春の施行を目指す」(26日付日本経済新聞 「未上場株 ネット投資解禁」)

個人金融資産をリスク資産に誘導するためには形振り構わず、手段を択ばずということのようです。金融庁は、これまで日本証券業協会の自主規則で原則禁止されていた未上場株に対する投資勧誘を、インターネットを使ったクラウドファンディングに限り認めるよう金商法を改正する方針のようです。

「ベンチャー企業の資金調達を支える」とのことですが、本当にこれが目的ならば、ネットを使ったクラウドファンディングに限定して規制緩和をする必要性はありません。ネットを使ったクラウドファンディングという「プル型」に限って投資勧誘を解禁するというのは、金融庁は、金融商品取引業者の営業マンを介する従来型の「プッシュ型」投資勧誘を認めると、詐欺事件などの危険度が増すと考えている証左だと思います。

金融庁は、「プッシュ型」の投資勧誘に制限を設けることに加え、1人あたりの投資上限を50万円と、投資額に制限を設けることで、不測の事態が生じた場合の被害を最小限に止める方針のようです。しかし、こうした制限は、個人投資家が被る損失を抑えるという投資家保護という面では一定の効果を発揮するかもしれませんが、未上場株投資に不可欠なリスクに対する備えにはなっていません。

金融庁が、ネットを使ったクラウドファンディングに限って未上場株への投資勧誘を認める方針であることが報じられたのと同じ26日付の日本経済新聞では、「反社会取引 3段階で排除」という見出しで、「金融庁は金融機関が反社会的勢力との取引の排除を進めるための具体的な手順をまとめた」ということが報じられています。

融資や出資を行うものに課せられている重要な使命の一つは、反社会的勢力に対して資金を流さないようにすることです。そのために、ベンチャー投資を行っているベンチャーキャピタルは、投資検討の最初の段階で投資対象となる企業と「秘密保持契約(Confidentiality Agreement、CA)」を締結して、株主名簿や財務諸表などを確認させてもらうのが一般的です。

株主や経営者の中に反社会的勢力や反市場勢力(不公正ファイナンス、株式市場における不正な取引を行う者など)およびそれに準じるものが存在する場合、基本的に株式公開(IPO)をすることは出来ません。また、上場企業であっても、こうした事実は上場廃止基準に抵触するものです。

記事の中で「未上場企業への投資は経営が軌道に乗り、上場した場合に利益が大きくなる」という説明が加えられていますが、そもそも反社会的勢力や反市場勢力と関係のある会社だった場合、IPOは出来ないことで投資家がリターンを得る可能性が低くなってしまいますし、結果的に反社会的勢力や反市場勢力に資金を流すことになってしまいます。

問題は、具体的に誰がこうした反社会的勢力及び反社会的勢力に相当するのか、一般に公開されていないことです(それゆえ、みずほ銀行の暴力団融資事件も起きた)。ですからベンチャーキャピタル各社は、こうした反社会的勢力及び反市場的勢力に関する情報を、各社が実務を通して積み上げて行く形になっています。

ベンチャーキャピタルは投資検討対象となるベンチャー企業とCAを締結し検討に必要な書類の提出を受けますが、まず確認するのは株主名簿です。IPOに伴うキャピタルゲインが目的であるベンチャーキャピタルにとって、事業以外の部分でそもそもIPOが困難である企業は検討する価値がないからです。

筆者も、ベンチャー企業から書類の提出を受け、株主名簿を確認した時点で検討を止め、財務諸表に目を通さなかった経験があります。反社会的勢力や反市場勢力に属すると見做されている可能性が高い株主が株主名簿に記載されていたからです。困ったことは、ベンチャー企業の社長様から「是非出資を」と依頼されても、「反社会的勢力、反市場勢力と思われる株主が存在する」とは言えなかったことです。

クラウドファンディングで未上場株投資を解禁する場合、こうした株主チェックは誰がどのようにして行うのでしょうか。誰もチェックをしないのであれば、個人金融資産が反社会的勢力や反市場勢力に流れる道筋を作ることになってしまいます。

また、ベンチャー企業の財務諸表は、上場会社のように監査法人の監査を受けていないのが一般的です。さらに、利益が出ている企業は税金を減らすために経費を多めに計上したり、金融機関等から資金調達が必要な企業は、計上すべき経費を圧縮して利益を多めに見せたり、保有資産の評価を時価より高く見積もることで債務超過に陥らないようにするなど、その殆どは「合法的な範囲内での広義の粉飾決算」といった内容になっています。つまり、上場会社とは異なった財務諸表分析手法が必要になって来るのです。

筆者の長男は公認会計士で、筆者と比較して高い会計知識を持っているうえ、大企業の監査業務をしておりましたが、中小企業の財務諸表の分析においては、経験値の高い筆者の方が長けていました。それは、見るべき点が大企業と未上場企業とでは異なって来るからです。こうした現実を考えると、上場株投資に慣れており、有価証券報告書をチェックできる程度の会計知識を持っている投資家であっても、未上場企業の経営状況を正しく判断できる可能性はかなり低いと思われます。

国を挙げて反社会的勢力や反市場勢力に資金が流れないようにする仕組みづくりをしているなかで、クラウドファンディングを使った未上場株への投資勧誘を解禁するのは、反社会的勢力や反市場勢力に資金を流す新たなルートを作るような話のような気がしてなりません。金融庁や自民党は、どのようにしてこうしたルートを遮断するつもりなのでしょうか。

金融庁や自民党が、ベンチャー企業投資に関わる実務上のリスクを正しく認識しているのであれば、反社会的勢力や反市場勢力に資金が流れないようにする仕組みを備えていない規制緩和策を実行することはないはずです。

投資金額の上限を一人50万円にすることで、個人投資家が大きな損失を被るリスクは限定的なものになるのかもしれません。しかしこうした「投資家保護」を目的とした制度は、霞が関流のリスクヘッジでしかありません。肝心なことは、反社会的勢力や反市場勢力に資金が流れるという「社会的なリスク」に対してどの程度の対策が講じられているのかということです。何も講じられていないとしたら、反社会的勢力や反市場勢力に資金が流れることは必至でしょうし、マネーロンダリング(資金洗浄)などに利用される可能性があることは認識しておくべきです。個人金融資産が反社会的勢力や反市場勢力の資金源になるという愚だけは避けなければなりません。

改正案の内容が明らかになっていないので軽々に断言することはできませんが、反社会的勢力や反市場勢力に資金が流れる可能性があるという「社会的リスク」を冒してまで、個人金融資産を未上場株投資に向かわせる必要性があるのでしょうか。個人的には甚だ疑問です。

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近藤駿介

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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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