「金融リテラシー」が低い経済紙が「世界の潮流」だと主張する「消費増税と法人税引下げセット」

◆ 「世界の潮流」にのって一緒に「ソブリン危機」?
「気が付けば、消費税率の平均が20%を超えた欧州に対し、日本は今回の税率引き上げ後も一桁台にとどまる。帳尻が合わない部分を借金で補った結果、国の借金は1000兆円超に膨らんだ」(31日付日本経済新聞「エコノフォーカス~消費増税 世界の潮流は」)

消費税率8%を翌日に控えた31日の日本経済新聞は、「消費増税 世界の潮流は」という見出しで、日本の消費税率の低さを改めて確認するような記事を掲載しています。

この記事は、初めに「先進国を見渡せば社会保障費の膨張に対応した消費税率の引き上げは遅れ気味。世界最速の高齢化が進む日本で消費増税への抵抗感がなぜ強いのか」という疑問を読者に投げ掛ける形で、日本の財政悪化の原因が消費税の低さにあるといった印象を与える構成になっています。

「主要国で消費税率がじりじりと上がる一方、法人税率は下がり続けている。かつてはドイツなどで50%を超す税率も見られたが、いまや20%台が中心だ。国際競争にさらされるグローバル企業を自国に引き寄せる必要があるためだ。実効税率が30%台半ばの日本も法人税改革が待ったなしの状況だ。…(中略)… 2013年の欧州各国の非違金法人税率は20.6%まで下がった」(同日本経済新聞「法人税、各国下げ競う」)

消費税の低さが財政悪化の原因であるという印象を擦り込むだけでなく、同じ紙面上に、法人税率は国際的に見て高く、法人税率引下げの必要性と正当性を強調する文言を万遍なく散りばめられています。中身の分析を伴わず、単純に上面的な数字を比較することで、「消費増税+法人税引下げ」が「世界の潮流」であると主張するやり方は、とても一流の経済紙のやり方とは思えないものです。

例え、「小異増税+法人税引下げ」が「世界の潮流」であることが事実だとしても、その潮流が正しいものであるという保証はありません。

単純な疑問は、「世界の潮流」にのって、「消費税(付加価値税)引上げ+法人税率引下げ」を実施して来た欧州主要国の多くが、何故「ソブリン危機」に見舞われたのかということです。

「低い消費税率+高い法人税率」という、「世界の潮流」から取り残された日本は、公的債務残高がGDPの2倍超に膨れ上がる中でも、「ソブリン危機」は起きていません。それどころか、長期金利は消費増税に耐えられるほどの成長をしているなかでも0.6%で推移しています。

日本も「消費増税+法人税率引下げ」という「世界の潮流」に乗ることで、「ソブリン危機」という「世界の潮流」に追いつくべきだということなのでしょうか。そうなれば、「日本国債の金利は急騰する」と言い続けている「オオカミ有識者」の顔は立つことにはなりますが。

◆ 消費増税が遅れ気味でだったことで家計は甘やかされてきたのか?
「消費増税は、法人減税で失った財源を穴埋めする面があり『企業優遇が家計を圧迫する』との批判を招きがち。だが、企業が利益を上げやすくなれば、雇用や賃金、配当などを通じて家計にも恩恵が及ぶ」(日本経済新聞 「法人税 各国下げ競う」)

日本経済新聞が「法人税「企業優遇が家計圧迫を招く」という批判があるという表現をするのは、これまで消費増税が遅れ気味だったことで、「日本の家計は圧迫されていない」「(法人と比較して)甘やかされてきた」という考えを持っているからです。

では、日本の家計は、消費増税が遅れ気味だったことで甘やかされてきたのでしょうか。

OECDが発表している統計によると、1998年時点で10.2%であった日本の「家計貯蓄率(Household saving rates)」は、2014年には0.6%と、韓国(4.3%)はおろか、「ソブリン危機」に見舞われたスペイン(8.2%)、イタリア(3.6%)をもはるかに下回り、「Net saving」を発表している世界24ヶ国の中で22番目、つまり下から3番目という体たらくです。「家計貯蓄率」が日本を下回っているのは、デンマークとポーランドだけという状況で、「日本の貯蓄率は高い」というのは、完全に「過去の栄光」になってしまっています。

家計貯蓄率

ところで、この「家計貯蓄率」というのは、「可処分所得」から「消費支出」を引いた「貯蓄」を、「可処分所得」で除したものです。数式で表すと、次のようになります

家計貯蓄=(可処分所得-消費支出)/可処分所得=1-(消費支出/可処分所得)

ここの「可処分所得」というのは「労働の対価として得た給与やボーナスなどの個人所得から、支払い義務のある税金や社会保険料などを差し引いた、残りの手取り収入のこと」(マネー辞典 m-Words)です。

つまり、「家計貯蓄率」が下がるということは、「消費支出」が増えているか、「可処分所得」が下がっているかのどちらか、あるいは両方ということになります。「可処分所得」が減らずに「消費支出」が増えているのであれば「需要不足」でデフレに陥ることはないはずし、その他の統計との整合性からしても、「家計貯蓄率」が低下した主な原因は、「可処分所得」の低下にあると言えます。

この「可処分所得」は、「所得-税金・社会保障費」ですから、「可処分所得」が低下するということは、「所得」自体が下がったか、「税金・社会保障費」が増加したか、はたまた両方の可能性があるわけです。

日本経済新聞は、「企業優遇が家計圧迫を招く」という表現で、暗に「家計は圧迫されて来なかった」と主張しています。しかし、「家計貯蓄率の低下」の原因は、「所得の低下」と「税金・社会保障費の増加」にあるわけですから、前回の消費増税後ずっと「家計が圧迫を受けて来た」ことは確かだと思われます。

前回消費税が3%から5%に引上げられた1997年当時の法人税率は37.5%と、現在の25.5%より12%も高い水準でした。したがって、円高等の逆風には晒され続けましたが、法人税率という面では「法人が圧迫を受けて来た」とは言い難い状況です。

◆「法人税引下げ」と「企業利益拡大」の間に直接的因果関係はない
「企業が利益を上げやすくなれば、雇用や賃金、配当などを通じて家計にも恩恵が及ぶ」(日本経済新聞)

このように、日本経済新聞は、平然と法人税減税が家計に恩恵を及ぼすかのような報道をしています。しかし、法人税は「利益(課税所得)」に対して課せられるわけですから、「法人税率引下げ」と「企業が利益を上げられる」ということには、直接的な因果関係はありません。

逆に、「雇用や賃金」は、「企業の利益」に直接影響を及ぼします。しかも、コストである「雇用や賃金」が増えれば、「企業の利益」が減るという、反比例の関係にあるのです。

「法人税率引下げ」によって、支払う税金が減ることで増えるのは「利益処分額」です。

そして、この「利益処分」の使い道は「配当金」「役員賞与」「内部留保」ですから、「法人税率引下げ」との直接的因果関係としては、「雇用や賃金」よりも「役員賞与、配当」の方がずっと強いのです。また、長年「貯蓄から投資へ」というスローガンが空しく叫ばれていることから明らかなように、一般個人はほとんど株式を保有していませんから、「配当などを通じて家計に及ぶ恩恵」は極めて限定的です。

会計の仕組上、「法人税率引下げ」と「雇用や賃金」の間には直接的因果関係がないことは明らかなのに、何故日本を代表する経済紙は「企業が利益を上げやすくなれば、雇用や賃金、配当などを通じて家計にも恩恵が及ぶ」と、見え透いた作り話をするのでしょうか。

【参考記事】 
高い実効税率が企業収益を圧迫する…?~ 覚悟をもって抜本改革に臨むべきなのは御社です  
「故意」か、「過失」か、はたまた「素人」なのか~日経が報じる「配当収入増による個人消費刺激期待」

ことある毎に「金融リテラシーの向上」の必要性を主張する日本を代表する経済紙。その地位とブランドは、読者の「金融リテラシー」が少し向上しただけで揺らいでしまうほど危ういものなのかもしれません。

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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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