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景気に「まさか」の下振れ ~ 「まさか」なのか、「道に背けば必ず負ける」という先人の教え通りなのか

(2014年8月31日)
「よく言われるように、景気には3つの坂がある。上り坂、下り坂、そして『まさか』である。 景気指標の実績と市場の事前予想を比べてみよう。実績が予想を上回ることもあれば、下回る場合もある。過去3カ月の指標は上振れと下振れのどちらが多かったか。その比率を米シティグループが、景気の体感温度を測る物差し(経済サプライズ指数)に用いている。指標の実績がすべて予想を下回る場合をマイナス100%として、足元の日本はマイナス80%近辺まで落ちている」(31日付日本経済新聞 「経済解読~景気に「まさか」の下振れ」)

恥ずかしながら、シティグループが日本版「経済サプライズ指数」を出していることをこれまで知りませんでしたので、この記事には少々驚かされました。しかし、それ以上に驚かされたのは「景気には3つの坂がある。上り坂、下り坂、そして『まさか』である」という部分です。こちらも初耳でした。

ご存知の通り、このフレーズは2007年10月に小泉純一郎元総理の「人生には上り坂もあれば下り坂もあります。もう一つ坂があるんです。『まさか!』という坂であります」という有名な発言の「人生」を「景気」に置き換えたものです。この記事は「良く言われるように」と書いていますが、小泉元総理のこの迷言は「良く知られている」ものですが、「景気には3つの坂がある」ということは「良く言われている」ものではありません。

「見通しに比べて、消費税引き上げ後の景気は『まさか』の下振れを起こしている。夏風邪の引き始めのような悪寒というべきだろう」(同日本経済新聞)

この記事は、「消費税引き上げ後の景気」について「まさかの下振れを起こしている」という判断を示しています。しかし、「消費増税後の景気」が下振れする可能性が高いことは筆者を含め、多くの人が増税前から指摘している当たり前の見方で、単に日本経済新聞を始めとした永田町と霞が関の広報部門に成り下がった人達が、彼らの意を汲んで取り上げなかっただけのことです。つまり、日本経済新聞の常識では「まさか」かもしれませんが、世間一般の常識では「常識の範囲内」の出来事でしかありません。

「もともと雇用は好転しているのだから、企業がため込んでいたおカネを使うことによって、賃金に上向きの力が働くことも期待できる」(同日本経済新聞)

この新聞が、「消費税引き上げ後の景気の下振れ」を「まさか」と捉えるという素人以下の失態を犯すのは、「もともと雇用は好転している」と決め付けているからです。

「もともと雇用は好転している」と決め付ける根拠となっているのは、「有効求人倍率」が1.10倍とリーマンショック前の水準を上回り、22年ぶりの高水準になって来ていることです。しかし、何度も指摘して来ていますが、「有効求人倍率」はあくまで「求人」を表す指標でしかなく、「雇用」を表す統計ではありません。

「有効求人倍率」は、厚生省が発表する「一般商業紹介状況(職業安定業務統計)」に含まれるもので、この統計では「正社員有効求人倍率」や「就職件数」なども公表されています。この「正社員有効求人倍率」も「有効求人倍率」の上昇に伴って上昇して来ていますが、それでも7月時点で0.68倍に過ぎません。

有効求人倍率と就職件数

さらに、7月のパートを含む全体の「就職件数」は172,736件とピークの2011年12月の188,747件から▲8.5%低下している状況にあります。なかでも「正社員就職件数」は71,951件と直近のピークを記録した2005年5月の86,089件から▲16.4%も低い水準にあります。これに伴って「正社員の成約率」も7.41%と、2009年12月の13.08%の半分近い水準まで低下して来ています。

重要なことは「有効求人倍率」は「雇用」を表す統計ではないということです。永田町や霞が関、そしてその利害関係者に成り下がった日本経済新聞や有識者と呼ばれる人達は、「雇用」が回復していない実態を覆い隠すために、「雇用」を示すわけではない「有効求人倍率」の回復をことさら強調しているのです。

ちなみに、求職者の4人に一人が希望する「一般事務の職業」の有効求人倍率は僅か0.22倍と、パートを含んで5人に一人しか希望する職に就けない状況にあります。

日本経済新聞が「消費税引き上げ後の景気の下振れ」を「まさか」と捉えているのは、「もともと雇用は好転している」という前提が間違っているからに他なりません。

「7~9月期が持ち直すにせよ力強さに欠けるなら、財政面から景気にカンフル剤を打ちつつ、再増税の環境を整えることも考えられる」(同日本経済新聞)

日本経済新聞は、再増税の環境を整えるために、「財政面から景気にカンフル剤を打つ」ことにも言及しています。しかし、「財政面から景気にカンフル剤」を打って再増税の環境が整ったようにお化粧を施したとしても、増税によってさらに景気は下振れするわけですから、それを誤魔化すためにはさらに大きな「カンフル剤」が必要になります。

財政再建のために必要だという消費増税を実施できる環境を整えるために「財政面から景気にカンフル剤を打ち」、消費増税実施後の「まさか」の「景気下振れ」を誤魔化すためにさらなる「財政面から景気にカンフル剤」を打つのであれば、財政再建など達成出来るはずはありません。

この記事では「人生には上り坂もあれば下り坂もあります。もう一つ坂があるんです。『まさか!』という坂であります」という小泉元総理の迷言を取り上げて、消費増税後の景気の下振れが「気象庁が『平成26年8月豪雨』と名付けた夏の天候不順」によってもたらされた「まさか」の事態であると強調しています。

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」

野村克也元監督が引用したことで有名になった、「道を守れば不思議に勝ち、道に背けば必ず負ける」という心理術理の妙を教えている剣術の達人松浦静山のこの言葉を知っている人は、消費増税後の景気の下振れは「まさか」でなかく「道に背けば必ず負ける」という教え通りだと受け取っているはずです。

永田町と霞が関、そしてその利害関係者であるマスコミや有識者達には、都合の良い統計を持ち出し詭弁を弄しても「道に背けば必ず負ける」という先人の教えを今一度思い出して貰いたいものです。

小泉元総理は、今回日本経済新聞が持ち出した「人生には上り坂もあれば下り坂もあります。もう一つ坂があるんです。『まさか!』という坂であります」という迷言のあとにこう続けています。

「まさかあのような形でね、安倍さんが退陣するとは思わなかった」と。

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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

著書

202X 金融資産消滅

著書

1989年12月29日、日経平均3万8915円~元野村投信のファンドマネージャーが明かすバブル崩壊の真実

著書

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