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「運用資産額が過去最高」と報じられる年金運用が抱える根本的問題点

(2014年11月26日)
「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が25日発表した7~9月期決算は、収益が3兆6223億円となり、運用資産額は過去最高の130兆8846億円になった。国内株の値上がりに加え、円安で外国資産の評価額が膨らんだ。10月末に公表した新しい資産構成の目安に向けて、国内株は6兆円程度の買い増し余地がありそうだ」(26日付日本経済新聞 「年金運用 黒字3.6兆円」)

アベノミクスの成果によって公的年金の運用資産は7~9月期に3.6兆円増え130兆8846億円と過去最高になったようです。年金資産は4~6月期にも2.2兆円増えていますから、今年度だけで5.8兆円強増えたことになります。消費税率5%の時の消費税収が年間10兆円強でしたから、単純計算では消費税2.5%に相当する分の収益を、上期で確保したことになります。

年金資産が増えることはめでたいことではありますが、運用資産額の規模だけに目を奪われてはなりません。

まず、気を付けなければならないことは「国内債券(時間加重収益率=0.53%)」「国内株式(同5.78%)」「外国債券(同5.51%)」「外国株式(同5.64%)」と、全ての資産がプラスのリターンを記録したことです。

日本の実質GDPが2期連続でマイナスを記録し、実質GDPが12.2兆円減少する中で「国内株式」で同期間に2.36兆円もの収益を上げました。民間エコノミストが全員経済見通しを間違えた中でこれだけの収益を上げたということは、「怪我の功名」「結果オーライ」だということです。もし、民間エコノミストが正しい経済見通しを出していたら、「国内株式」でこれだけの収益を上げられなかったはずなのですから。

また、全ての資産が2期連続でプラスのリターンをあげているということは、「分散投資」の効果が乏しくなっているということです。「分散投資」によるリスク軽減効果が発揮されるのは、各資産が逆相関、或いは低相関である場合です。全ての資産が順相関となってしまえば、「分散投資」を進めても思うようなリスク低減効果は表れません。株式と債券が順相関にあるなかで「分散投資」と称してリスク水準が高い株式への投資比率を高めるということは、単純にポートフォリオ全体のリスクを上げて行くことになるということを認識する必要があります。

GPIFのポートフォリオは、「国内債券」の比率が高いことで計算上「分散」は低いものになっています。しかし、「国内株式」と「国内債券」が順相関になるなかで計算上の「分散」を高めるために「国内株式」の比率を上げて行くということは、ポートフォリオ全体のリスクを単純に高めることで、「分散」を高めることによるリスク低減効果に大きな期待はかけられません。直近の新発10年国債利回りは0.435%ですから、「国内株式」が下落した場合に「国内債券」の金利低下が資産の毀損を抑える効果は限定的になっていることを忘れてはなりません。

【参考記事】無責任なGPIF日本株比率引上 ~ そして、日本株が10%下落したら公的年金制度は破綻する

日本経済新聞は、GPIFの7~9月期の収益が3.6兆円になったことを「年金運用 黒字3.6兆円」と報じています。しかし、「黒字」というのは、「収益」から「経費」を差引いたものですから、3.6兆円の運用収益が上がったこととは全く意味が違います。さらに、「黒字」という言葉は、いかにも公的年金の運用が上手く行っているかのような誤解を与えるものです。こうしたことを知っていて「黒字」という単語を使ったのか、知らないで使ったのか、どちらにしてもメディアとしての資質を問われるものだと思います。

根本的な問題は、年金運用が「黒字」か否かではなく、現時点でGPIFがどれだけの負債(将来受給者に支払わなければならない年金の総額)を抱えているかが明らかにされていないことです。日本経済新聞は「運用資産額は過去最高の130兆8846億円になった」と資産規模にのみ注目して報じていますが、この「資産規模」は「負債」と比較して論じなければ意味がありません。

仮に、GPIFが抱えている「負債」が150兆円だとしたら、「運用資産額は過去最高の130兆8846億円」であったとしても約20兆円の「負債」を抱えているわけですから「運用資産額が過去最高」であること自体に大きな意味はありません。

一方、GPIFが抱える「負債」が130兆円だとしたら、現在の資産規模で将来の年金給付が可能になるわけですから、GPIFはリスク資産を増やすのではなく、全資産を安全資産に移す必要が出て来ます。

要するに、現在の年金運用の最大の問題点は、GPIFが今どの程度の「負債」を抱えているのかが明示されていないことです。今年実施した財政検証によって、GPIFが抱えている「負債」は把握されているはずなのですが、一切公表されていません。

現在の130兆円という資産規模に対して、「負債」がどの位あるのかが分からなければ、運用計画など立てようがありません。個人投資家とは異なり、公的年金の目標は「将来の年金支給を確実に出来る資産を持つ」ことで、儲けられるだけ儲けることでも、円安・株高を演出することでもないのですから、どれだけの収益を上げる必要があるのかを明らかにすることが重要です。

GPIFが抱えている「負債」が明らかにされず「運用目標」が定まらないなか、各資産の関係が順相関を強める中で「資産配分」だけが「分散投資」というスローガンの下で「国内株式」を始めとしたリスク資産を増やす方向で決められていくことに、大きな疑問と不安を感じずにはいられません。

GPIFのガバナンス改革によって、こうした運用に関する根本的な問題点に関する議論が、国民の目に見えるところで行われるようになることを願うばかりです。

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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

著書

202X 金融資産消滅

著書

1989年12月29日、日経平均3万8915円~元野村投信のファンドマネージャーが明かすバブル崩壊の真実

著書

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