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黒田バズーカで「デフレからの脱却」が出来るのか ~人々の「物価観」と「収入観」

「人々の物価観」がデフレの原因なのか
「日銀の黒田東彦総裁は27日、都内で講演し、15年も続いたデフレから脱却するには『ロケットのように大きな推進力が必要』 と指摘し、人々の物価観が2%で安定するまで大規模な金融緩和を続ける必要性を説いた」(27日付ロイター「デフレ15年、脱却にはロケットの推進力必要」)

はたして「人々の物価観が2%」を下回っていることが低インフレの「原因」なのでしょうか。物価が上昇しない「原因」が「人々の物価観が2%」を下回っていることなのであれば、物価を上昇させることは有効な解決策の一つかもしれません。しかし、「原因」が他にあるとしたら、物価を押し上げることは「押し上げ損」でしかありません。

「内閣府は25日、日本経済の需要と供給の差を示す『需給ギャップ』が2014年10~12月期はマイナス2.2%になったとの試算を発表した。金額に直すと約11兆円の需要不足だった。マイナス2.6%(実額で約13兆円)の需要不足だった7~9月期に比べて改善はしたが、日本経済は依然として供給過剰の状態から抜け出ていない」(26日付日本経済新聞 「需給ギャップマイナス2.2%」)

「需給ギャップ」は内閣府が公表するものの「内容や意見は執筆者個人のものであり、必ずしも内閣府の見解を示すものではない」(内閣府)という非公式の情報であることもあり、メディアでの取り扱いは小さなものになっています。しかし、この「需給ギャップ」は、2008年第3四半期から26四半期連続でマイナスを記録しており、日本経済が供給に対して需要が不足している状態が続いていることを表しています。

モノの価格は原則需要と供給が一致するところで決まりますから、需要が不足しているということはその分価格に低下圧力がかかり続けているということ。そして、その需要不足を生み出しているのが賃金の低下であることは、総理自らが財界に賃上げ要請をしていることからも明らかなことです。

黒田総裁は「15年も続いたデフレから脱却するには『ロケットのように大きな推進力が必要』」だと指摘したようですが、そのために必要なのは「人々の物価観」はなく、「人々の収入観」です。

安倍政権は「15年も続いたデフレ」というフレーズをよく使いますが、2000年以降の15年間(60四半期)で名目賃金指数(所定内給与)が前年同月比でプラスになったことは10回しかありません。2014年に入り、直近では2四半期連続(7-9月期と10-12月期)で前年同期比プラスに転じていますが、それでもピークであった2000年4-6月期と比較すると▲7.7%低い水準にあります。

賃金指数

つまり、「人々の物価観」の低下がデフレの原因であるというのは表面的な現象であって、根本的な原因は「人々の収入観」がデフレマインドになってしまっているところにあると考えるのが自然です。「人々の物価観」は金融緩和による円安などで変化させることは出来るかもしれませんが、15年間収入減を体験して来た「人々の収入観」は、総理が財界に賃上げ要請をするくらいで融けるものではありません。

FRB議長の見立てが正しいとすると・・・
「議員との質疑でイエレン氏は、米の物価上昇率が2%を大きく下回っている理由について『ドル高と原油価格(の下落)で輸入物価が低下していることが非常に大きく影響している』 と説明した。ただ物価下落の動きは『一時的』であり、中期的に雇用の勢いが続き期待インフレ率も安定するとの自信が持てれば、利上げは可能だとの見解を示した」(26日付日経電子版)

イエレンFRB議長は議会証言で、物価が目標の2%を下回っている原因として「ドル高」と「原油価格下落」をあげたうえで、これらは「一時的」だと主張しました。

イエレンFRB議長が「ドル高」と「原油価格下落」が「一時的」であると主張しているということは、近い将来少なくとも「ドル安」か「原油価格上昇」のどちらか起きることを見込んでいるということになります。

仮に「ドル高」が「一時的」であるとしたら、それは日本にとって近い将来「円高・ドル安」になるということで、輸入物価の低下を通して日本には物価下落圧力がかかることになるうえ、輸出と外国人観光客増加による景気回復に冷水を浴びせることになりかねません。

一方、「原油価格下落」が「一時的」であるとしたら、日本にとっては物価上昇圧力が高まることになります。しかし、物価上昇は国民の実質所得を落すことになりますから、「需給ギャップ」の改善は進まず、需要不足による物価低下圧力が加わることになります。

このように考えると、日米ともに低インフレという共通の課題を抱えていますが、米国は「ドル高」か「原油価格下落」のどちらかが解消されることでそれを克服できる可能性を秘めているのに対して、日本は「円安・ドル高」か「原油価格下落」のどちらかが崩れても、デフレからの脱却を果たすのは容易いことでないと言えます。

これまで「円安」も「原油価格下落」も日本経済にプラスだと主張して来た黒田総裁は、「円高」や「原油価格上昇」が起きた際にも、「総合的に日本経済にプラス」だと主張し続けるのでしょうか。

黒田日銀総裁は「人々の物価観が2%で安定するまで大規模な金融緩和を続ける必要性を説いた」ようですが、頭痛で苦しんでいる人に胃腸薬を処方するような政策で「15年も続いたデフレから脱却」できるのか、甚だ不安でしかありません。


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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

著書

202X 金融資産消滅

著書

1989年12月29日、日経平均3万8915円~元野村投信のファンドマネージャーが明かすバブル崩壊の真実

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