2020/03/30
よいフェイクニュース?
「戒厳令まで出すといったデマが流れているようだがそんなことは全くない。デマやフェイクニュースに気を付けなければならない」(30日付日経電子版 「緊急事態宣言「1日発令説」 首相が否定」)安倍総理も菅官房長官も、27日ごろからネットやSNSで出回っている「4月1日に緊急事態宣言が発令される」との臆測をフェイクニュースだとして完全否定した。
小生も28日にはこの情報を受け取っていた。そしてお付き合いのある企業経営者等に情報提供すると同時に、知り合いの2人のジャーナリストに情報の出元の確認を依頼した。それはこの情報がある意図をもって放たれた観測気球の可能性を感じたからだが、さすがにそこまでは確認できなかった。
官邸やリアルタイム危機管理情報サービス「Spectee」はこの情報をフェイクニュースと断定しているが、今回の情報は「プーチン大統領が外出禁止令を守らせるためにライオンとトラ800頭を街に放った」という類のフェイクニュースとは根本的に違うというところが重要なところ。
もう一つのポイントは、この情報を「フェイクニュース」に出来るのは、緊急事態宣言を出す総理だけだということだ。「4月1日に緊急事態宣言が発令されるとの臆測」をフェイクニュースにするには、その日に発令しなければいいだけだからだ。公文書や経済統計をいじることさえ厭わない政権にとって、4月2日に緊急事態宣言を発令して「4月1日に発令するという噂はフェイクニュースだといったが、緊急事態宣言を発令しないとは言っていない」という説明をすることくらい朝飯前のはずである。
気になるところは、この情報が経営層を中心に流れたと思われることだ。こうした情報に接した経営者たちは、例えフェイクニュースの可能性があると感じても、何をするか頭の体操やシミュレーションなどをしてその時に備えようとしたはずである。そこが空売りを誘うような市場のうわさとの違い。
総理と官房長官が噂を完全否定したその日に、自民党の有力支持団体である日本医師会の釜萢敏常任理事は、個人的な意見と断りながらも「爆発的に患者が増えてから緊急事態宣言を出しても手遅れだ。もう発出してよい状況ではないか」と述べた。
緊急事態宣言を提言する政府の諮問委員会のメンバーである日本医師会の常任理事がこうした発言をしたということは、緊急事態宣言発令がカウントダウンに入っていることを示唆するものだ。
こうした切迫した状況下で流された「フェイクニュース」は多くの企業に準備を促すという目的をもった「役に立つフェイクニュース」だったといえる。
90年代くらいまでは「総理は衆院解散と公定歩合に関しては嘘をついてもいい」といわれてきたが、公定歩合がなくなった今日では「衆院解散と非常事態宣言に関しては嘘をついてもいい」に変わったと考えるべきだろう。