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論理的整合性に欠ける国会経済論戦 ~「デフレ」なんですか、「インフレ」なんですか?

■ 「物価下落」によって上昇する「賃金」
「『消費税の3%の引き上げ分を除けば、総雇用者所得は昨年6月以降プラスだ』。首相は予算委で、就任以来、経団連に要請してきた賃上げの効果が上がっていると主張。さらに 『今年の4月には消費税率引き上げ効果は剥落して(実質で)プラスになっていく可能性は十分ある』 と訴えた」(17日付日本経済新聞 「首相 『来月に実質賃金増』」

参院予算委員会でアベノミクスの功罪に関して論戦が行われたようです。取り上げられたのは「実質賃金」でした。物価上昇分を考慮した「実質賃金」がマイナスになっていることをアベノミクスの失敗として追求しようとする民主党に対して、アベノミクスによる賃上げ効果を主張する安倍総理。

毎度のことですが、今回の国会での経済論戦もお粗末なものでした。特に今回の論戦は、質問する方も、答弁する方も、論理的思考能力に乏しいことを露呈したようなものでした。

まず、「実質賃金」の低下というアベノミクスの負の部分の追及を受けた安倍総理は、「今年の4月には消費税率引き上げ効果は剥落して(実質で)プラスになっていく可能性は十分ある」と答弁しました。しかし、4月に「実質賃金」がプラスになるのは、景気回復によって賃金が上昇するからではなく、多分に統計的要因によるものです。

直近1月の生鮮食品を除くコア消費者物価(コアCPI)は、前年同月比2.2%のプラスになっていますが、その内の1.7%が消費増税の影響分だと言われています。消費者物価上昇率は対前年同月比で計りますから、2014年4月から2015年3月までの消費者物価上昇率は、消費増税を反映した価格と反映されていない前年の価格を比較しているのに対して、この4月以降は消費増税を反映した価格どうしを比較することになります。したがって、4月以降、足下で1.7%と言われている消費増税の影響分が剥げ落ちますから、物価が変わらなくても物価上昇率は計算上その分下がるのは当然のことです。

また、「実質賃金」は、物価上昇率を引いたものですから、賃金が上昇しなくても物価上昇率が下がる分だけ上昇することになります。要するに、賃金も物価も変らなくても、消費者物価上昇率が計算上下がるために、計算上賃金が上がるということになるのです。極端に言えば、計算上下がる消費者物価上昇率の範囲内であれば、賃金が下がっても「実質賃金」が上昇することになります。

2014年10月をピークに低下傾向にある消費者物価が、仮に1月の水準を維持したとしたら、4月のコアCPI上昇率は前年同月比▲0.4%となる計算になります。1月の「名目賃金指数」は前年同月比△1.3%ですから、名目賃金がこの上昇率を維持すれば、4月の「実質賃金指数」は前年同月比△1.7%(=1.3%-▲0.4%)上昇することになります。

CPIと賃金

しかし、消費増税の影響が剥落することによる「実質賃金」の上昇は計算上のもので、実際の消費者の購買力を上昇させるものではありません。

4月時点での前々年同月比の上昇率(推計)を比較してみると、コアCPIが△2.8%であるのに対して、「名目賃金指数」が足元の上昇率、前年同月比△1.3%を維持したとしても△2.0%に留まり、名目賃金が大幅に増えない限り「実質賃金」は依然としてマイナスとなる可能性が残されています。要するに、大幅な賃金上昇がなければ消費者の購買力は増えない、言い換えれば、消費増税前と比較して消費者の購買力は落ちる可能性が高いということです。

「実質賃金」の論戦を仕掛けた民主党議員は、「『5月になったら(数値を)聞きましょう』と矛を収めた」(同日本経済新聞)ようですが、論戦を挑むのであれば、総理の論理的でない答弁を追求できる位まで経済統計について勉強して欲しいものです。

■ 「デフレ脱却」を前提に国内株式の組入れを増やす公的年金
安倍総理は賃金に関して、「今年の4月には消費税率引き上げ効果は剥落して(実質で)プラスになっていく可能性は十分ある」(同日本経済新聞)と主張しました。

こうした主張は、直近1月時点で前年同月比△2.2%であるコアCPIが4月以降下がることを認識したものです。1月時点で消費増税の影響は△1.7%とされており、消費増税を除いたコアCPIの上昇率は前年同月比で△0.5%に留まっています。

つまり、4月になれば計算上「実質賃金」は上昇する一方、「消費増税の影響を除いて2%の物価安定目標」というアベノミクスが掲げた目標が達成出来ないことが明らかになるということです。例え、ベア等による賃金上昇によって物価が上昇するとしたら、今度は物価上昇によって「実質賃金」が低下するというジレンマに陥ることになります。

「先ほど申し上げましたが、デフレ局面からデフレ脱却局面へ入りつつあるわけでありますから、その中においてですね、当然ポートフォリオの変更を行うべきだろうとこう思う訳でございます」

先週の衆議院予算委員会でGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用に関する質問に対して、安倍総理はこのように答弁されました。「デフレ局面からデフレ脱却局面に入りつつある」という認識のもと、「フォワードルッキングな運用をしていく」として、内外株式への資産配分を増やす判断の正当性を主張した総理が、今度はコアCPIが低下することによって「実質賃金」が増加すると答弁していることに、民主党議員は違和感を覚えなかったのでしょうか。

GPIFの基本ポートフォリオにおける国内株式の比率を引き上げることに伴うリスクの増加に対しては「デフレ脱却局面」という主張で正当化すると同時に、「実質賃金」がマイナスになっているとの追及に対してはコアCPIが低下することを以て「実質賃金」が上昇に転じると、矛盾しているかのような安倍総理の答弁が、国会で何の指摘も受けずにまかり通ってしまっていいのでしょうか。

統計上消費増税の影響が剥落することで「実質賃金」は上昇することになりますが、一方では安倍政権が掲げて来た「消費増税の影響を除いて2%の安定的物価上昇目標」の達成が困難であることが白日の下に晒されることになります。17日に行われた記者会見で「2年で2%の物価安定目標」を達成できないことが確実になったことを追及された黒田日銀総裁がしどろもどろの答弁に終始したように、アベノミクスは曲がり角に差し掛かって来ています。

アベノミクスが曲がり角に差し掛かるなか、野党の議員には、国会で経済論戦を挑む際には、「政治とカネ」の問題と同じ位真剣に、細かなところまで勉強して望んで頂きたいものです。


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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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