「Sell in May」後~「景気は穏やかに回復している」ことにしたい日米央銀行の共通点と相違点

「5月の株式市場は記録ずくめの相場展開になった。日経平均株価は29日も前日比11円高で取引を終え、連続上昇日数を11日に伸ばした。月間の上げ幅は1043円で、経験則で株価が下げやすいとされる5月としては1994年以来、21年ぶりの大きさだ。好業績を背景とした株高の力強さを示すデータといえる」(30日付日本経済新聞 「5月株式相場、記録ずくめ」)

日米ともに「Sell in May(5月に株を売れ)」は杞憂で終わりました。

「リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられます」(2015年5月25日 日本銀行 総裁記者会見要旨)

その真偽はともかく、日銀総裁が国内にはリスク要因が見当たらないと明言するほど日本経済は「緩やかな回復を続けている」のですから、米国株式市場でダウ平均のほかナスダック、S&P500が揃って5月中に最高値を更新したうえ、中国株式市場でも上海総合指数が史上最高値を更新するという外部環境下で、相場の格言の出る幕はなかったのも当然かもしれません。

「Sell in May」が杞憂に終わったことで、株式市場に死角はなくなったといえるのでしょうか。

「Sell in May」は杞憂に終わりましたが、NYダウはこの2日間で150ドル強、上海総合指数は27日に最高値を更新した後月末にかけての2日間で▲6.7%という大きな下落を記録しています。その結果、NY株式市場でのVolatility(21日)の低下は一旦止まり、月末時点での上海総合指数のVolatility(21日)は40.3%と、過去の平均値である20%の倍の水準に上昇して来ておあり、世界の株式市場は不安定さを増す方向に向かう気配を見せ始めています。

さて、月末にNYダウが下落した一つの要因は1-3月期のGDP改定値が速報値の前期比年率0.2%から、同▲0.7%に下方修正されたことです。GDP改定値がマイナスに落ち込むことは市場のコンセンサスとなっていましたから、これ自体はネガティブサプライズにはなりませんでした。

今回のGDP改定値の注目点は、下方修正の原因が「製造業や卸売りの在庫投資も減少した」(日本経済新聞)ことだったことです。GDP速報値が出たあとに「元ファンドマネージャー近藤駿介の実践資産運用サロン」では指摘しました、前期比年率0.2%成長を記録した速報値は、在庫投資(寄与度+0.74%)によって嵩上げされたものでした。こうした在庫の高まりは、その先の景気の抑圧要因になるものです。今回GDP改定値が在庫投資の減少で下方修正されたということは、米国で3月から在庫調整が始まっていることを示唆するものだといえます。

今回GDP改定値が前期比▲0.7%に下方修正されましたが、この1-3月期の落ち込みに関して、イエレンFRB議長は「ドル高」「原油安」「悪天候」「西海岸港湾スト」などの一時的要因によるもので、それが剥落する4-6月以降景気は穏やかに拡大するという見解を示して来て、それが市場のコンセンサスになっています。その結果、GDP改定値が前期比▲0.7%に下方修正されたあとも、市場が見込むFRB年内利上げの可能性は57%(CME Group Fed Watch 29日時点)と、高い水準を維持しています。

つまり、足下の米国株式市場は、米国経済が穏やかな拡大を続けているなか、一時的要因が重なったことによってソフトパッチ(一次的停滞)を迎え、利上げは先送りされたという、年内利上げを前提とした「穏やかな景気拡大+低金利」というシナリオに基づいて動いていることです。

ですから、今後の注目点は、一時的要因が剥落していく4-6月以降、米国経済がFRBの想定通り「穏やかな景気拡大」が続くかということになります。仮に「穏やかな景気拡大」というシナリオに陰りが見えて来るとなると、年内利上げという市場のコンセンサスが崩れることになりかねませんから、市場への影響も大きくなることが想像されます。それと同時に、イエレンFRB議長に対する信認も低下していくことになりかねませんから、今後FRBの舵取りが難しくなっていく可能性も否定出来ない状況にあります。

ちなみにアトランタ連銀が公表している「GDP Now」では、4-6月期GDPは年率0.8%(5/26時点)と、2%台後半以上という市場コンセンサスと比較すると、かなり低い水準に留まっています。こうしたことからいえることは、海外要因以外にリスクが見当たらないと目されている日本経済にも、徐々に海外要因が忍び寄って来ているということです。

忘れてならないことは、日本の1-3月期GDPも、米国と同様に在庫投資によって嵩上げされた状況にあるということです。日本の2015年1-3月期GDP速報値は前期比0.6%増、年率換算では2.4%増でしたが、0.6%増の内の民間在庫の寄与度が0.5%と、GDP拡大に最も寄与したことです。

米国GDPと同様に、日本でも在庫投資が下方修正されれば、GDPがほぼ0%成長になる可能性もあります。もしGDPが0%成長付近に下方修正された場合、5月22日に景気判断を「緩やかな回復を続けている」と上方修正したばかりの日銀はどのような対応を見せるのでしょうか。

再び円安圧力が高まって来ているなかでの日本のGDP下方修正について、株式市場は、日銀の追加緩和期待を高め、「好業績を背景とした株高の力強さ」を確認する出来事と受取るかもしれません。しかしそれは、イエレンFRB議長が米国経済停滞の一時的要因に挙げるドル高が、一時的要因ではないことを示すものであるということを忘れてはなりません。

イエレンFRB議長が米国経済のソフトパッチの一時的要因に挙げているドル高が、米国の穏やかな景気拡大の中でのFRBの利上げ期待ではなく、「穏やかな回復を続けている」と景気判断を上方修正した日銀による追加緩和期待によって一時的要因ではなくなってしまったとしたら、市場の注目は日米中央銀行の思惑の違いに集まるかもしれません。

足下の景気状況はともかく、「穏やかな回復を続けている」ことにしたいという点では同じである日米の中央銀行。しかし、その認識の下で利上げに踏み切り金利を正常化する方向に動きたいFRBと、追加緩和で円安、物価上昇を果したい日銀との間には思惑に大きな格差があることは念頭に置いておかなければなりません。

GDPが下方修正された場合、景気認識も下方修正して追加緩和の余地を残す方向に動くのか、上方修正した景気認識を維持しつつ追加緩和も辞さない姿勢を貫くのか。どちらにしても日銀の信頼に傷を付けることになることだけは間違いありません。幸いなことは、日銀に対する市場の信頼が高くないこと。

注目の日本の1-3月期GDPの2次速報の発表は6月8日(月)8時50分です。

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近藤駿介

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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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