GPIFの運用委託手数料は安過ぎる? ~いえいえ、まだまだ下げられます

「運用会社から見ると、GPIFは巨額の運用資金を受託できる一方、利幅は薄い。GPIFが2013年度に払う運用委託手数料は国内株式が78億円。運用資産額の0.04%だ。個人向けの投資信託では年間の手数料が1%を超えることもある。運用資産の規模が大きいほど、手数料率は下がる傾向にあるが『それでもGPIFは安すぎる』とみる業界関係者は多い」(1日付日本経済新聞 「対話の費用、GPIFどう考える」)

GPIFの運用委託手数料は安過ぎるという指摘があるようです。確かにETFの信託報酬ですら0.2%程度ですから、表面的な運用報酬率としては低いといえるかもしれません。

しかし、運用会社はGPIFから無理矢理運用を押付けられている訳ではなく、公募に応募して契約を締結しています。つまり、運用を委託される時点で運用報酬が低いことは分かっているわけで、運用報酬が低いのが不満なのであれば応募しなければいいだけの話しのように思えてなりません。

GPIFは「選定においては、どの様な運用手法を得意とした運用受託機関を加えるか等の検討を行い公募を実施」(GPIF HPより)しており、選定される運用会社はその運用スタイルで実績を持っていると判断された会社です。つまり、採用された運用スタイルの運用を行うための体制が既に整っているということです。

製造業など一般のビジネスでは、販売量が増えればそれだけ仕入の量を始めとした原価が増えますが、資産運用ビジネスでは運用資産が増えたとしても新たな仕入、原価が発生するわけれはありませんから、一般のビジネス以上に手数料率が下がるのは当然のことでもあります。

市場全体のパフォーマンスとは関係なく、例えば5%の運用収益確保を求められるという付加価値の高い運用ならともかく、基本的にベンチマークの動きを準える低付加価値の運用で「預り資産増≒収益増」になるのですから、手数料が安過ぎるという批判は的外れのように思えます。

GPIFは2015年3月末時点で日本株に20.8兆円投資しています。そのうち、87.7%に相当する18.3兆円はTOPIXなどに連動するパッシブ運用であり、アクティブ運用は12.3%に相当する2.6兆円に過ぎません。

パッシブ運用は10社に委託していますが、TOPIXに連動する運用を委託する会社には1社当たり3.5兆円、JPX日経400に連動する運用を委託する会社には1社504億円、その他のインデックスに連動する運用を委託する会社には1社当たり1,000億円の資金を預けています。

さらに、アクティブ運用は14社に委託しており、1社当たりの委託資産は単純平均で1833億円ですが、1,000億円以上預けている会社が10社、最も多くの資産を預かっているのは野村アセットマネジメントで、5,275億円となっています。

「野村アセットマネジメントが先月25日から募集していた投資信託 『日本企業価値向上ファンド』 の販売を停止した。・・・(中略)・・・ 一般に投信は1カ月間で1000億円を集めれば大ヒットといわれる。同ファンドは今月3日の当初設定額が1057億円だった。当初設定額が1000億円を上回ったファンドは2年ぶりで、16日時点の資産額は2176億円に上る」(4月16日付日経電子版 「野村の日本株投信、3週間で販売停止」)

投信が、広告宣伝や営業パワーをかけて「1カ月間で1000億円を集めれば大ヒット」といわれるなかで、一度に2,000億円~3.5兆円の運用資産を預かれるわけですから、運用会社から見てコストパフォーマンス的に「手数料が安過ぎる」ということはないように思います。

むしろ不思議なのは、「運用資産が急拡大して保有株を増やすと、自らの売買で株価に影響を与えてしまい、機動的な銘柄の入れ替えなどがしにくくなる」(同日経電子版)という理由で、2,000億円を上回ったところで販売を中止した野村アセットが、GPIFからアクティブ運用(ベンチマークは「野村RAFI基準インデックス」)としては最高の5,275億円を委託しているというとこです。

投信では2,000億円強で「機動的な銘柄入れ替えなどがしにくくなる」という運用上の支障が生じるのに対して、GPIFの運用では5,000億円を超えても運用上の支障は生じないというロジックには疑問を覚えてしまいます。

日本経済新聞が報じているように、運用会社が機動的な運用を行っていくためには預り資産規模面で限界があるなかで、運用資産GPIFの運用報酬は低過ぎると考えているのであれば、GPIFからの預り資産を減らしてでも投信残高を殖やそうとするのが経営上の合理的判断になるはずです。

こうした行動がとられていないというのは、名目的な運用報酬が0.04%であっても、ブランド力を含めた資金獲得コストなどを勘案すればGPIFの報酬率は魅力的だと見做している証左だといえます。

個人的には、GPIFが支払う運用委託手数料はまだまだ無駄があり、さらに削減する余地があると思っています。

それは、「資本の効率的活用や投資者を意識した経営観点など、グローバルな投資基準に求められる諸条件を満たした、『投資者にとって投資魅力の高い会社』で構成される株価指数」(「日経平均プロフィル」より)を謳ったJPX日経インデックス400が登場したことです。

このJPX日経インデックス400は、「東京証券取引所(第一部、第二部、マザーズ、JASDAQ)を主たる市場とする銘柄(普通株式を原則とする)から選定された400銘柄」(同)で構成されたものです。

JPX日経インデックス400が登場した直後に「新指数『JPX日経400』がもたらす効果 ~ 付加価値を奪うか、リスクを高めるか」という記事でも指摘しましたが、IPX日経インデックス400は、TOPIXを上回る収益を狙うアクティブ運用のポートフォリオに近いものになるはずです。運用会社の運用報酬は、パッシブ運用と比較してアクティブ運用の方が高いですから、TOPIXをベンチマークとしたアクティブ運用を全てJPX日経インデックス400に連動するパッシブファンドに変更すれば、GPIFはパフォーマンスをほとんど変えずに、運用会社に支払う運用報酬を引下げることが出来ることになります。

平成25年度までのGPIFの国内株式の運用収益を見ると、パッシブ運用の超過収益率は直近8年で年率0.02%、直近4年で年率▲0.08%なのに対して、アクティブ運用のそれは、直近8年で年率▲0.36%(2勝6敗)、直近4年で年率▲0.25%(1勝3敗)となっており、高い運用報酬を支払ってまでアクティブ運用をする必要があるとはいえない結果になっています。

「改革に直面する金融機関の間でくすぶる不満に、GPIFは対話の費用をどうとらえるだろうか」(1日付日本経済新聞「対話の費用、GPIFどう考える」)

日本経済新聞の記事は、このようにGPIFの運用報酬が低いことに対して疑問を投げ掛ける形で締め括られています。この疑問に対しては、実際にはまだまだ引き下げる余地があるうえ、過去の運用実績からいっても引き下げられても仕方がない状況にあるというのが答えではないかと思います。

スポンサーサイト

コメント

なるほど、ですね。
ただ、単にメンツからシェアを競合先に奪われたく無い…などの後ろ向きな動機、も考えられませんか?

Re: タイトルなし

> なるほど、ですね。
> ただ、単にメンツからシェアを競合先に奪われたく無い…などの後ろ向きな動機、も考えられませんか?

個人的にはGPIFの資金を運用したことがないので確定的なことは言えませんが、運用報酬のコンペはしていないのではないかと思います。
非公開コメント

近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

入会キャンペーン 実施中!

著書

アラフォー独身崖っぷちOL投資について勉強する

Anotherstage LLC

金融に関する知見を通して皆様の新しいステージ作りを応援

FC2ブログランキング

クリックをお願いします。

FC2カウンター

近藤駿介 facebook

Recommend

お子様から大人まで
町田市成瀬駅徒歩6分のピアノ教室

全記事表示リンク

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

QRコード

QR