時価総額はバブル期を超すが、6割に留まるTOPIX

日本株が好調だ。6月1日には日経平均株価が27年ぶりに12連騰を記録し、東証1部の時価総額も607兆7387億円(政府保有株除く)と、バブル経済期(1989年12月)の水準590兆9087億円を約25年ぶりに上回り、過去最高となった。

東証1部の時価総額が過去最高を記録したことについて、甘利大臣は「健全な評価という認識」を示している。確かに株価上昇によって時価総額が過去最高を更新したことは日本経済にとって好材料かもしれないが、同時に現在資産運用で主流になっているベンチマーク運用が内包する問題点を炙り出すことにもなった。

◆ 時価総額はバブル越え、TOPIXはバブル時の6割以下
東証1部の時価総額が過去最高を記録したと聞くと、「昭和43年(1968年)1月4日の時価総額を100として、その後の時価総額を指数化したもの」(日本取引所グループHP「TOPIXとは」より)であるTOPIXも過去最高値記録しているか、それに近い水準にいて当然のような印象を持つはずである。

しかし、現実はそうなっていない。バブル経済期のTOPIXの過去最高値は1989年12月18日に記録した2884.80である。一方、約25年ぶりにバブル経済期の時価総額を越えた6月1日のTOPIXは1678.56と、89年に記録した最高値の58%強の水準に留まっている。

「TOPIX 等の算出において、算出対象銘柄の増減や増資など市況変動によらない時価総額の増減が発生する場合は、その連続性を維持するため、次に示すとおり基準時価総額を修正する」(日本取引所グループHP 「東証指数算出要領」より抜粋)

マスコミでは、時価総額がバブル経済期を上回って来るなかで株価がバブル経済期を大きく下回った水準に留まっていることについて、上場銘柄数が増えたことなどが原因であるかのようにと伝えている。しかし、TOPIXは、「算出対象銘柄の増減や増資」などの変動を受けず、「連続性を維持」するように算出されている株価指数であり、上場銘柄数が増えたことをTOPIXがバブル経済期の約58%の水準に留まっている要因だとする説明は論理的とはいえない。

このように時価総額とTOPIXの間に大きな乖離が生じているのは、上場銘柄数の増加が原因ではなく、TOPIXが2005年10月末から2006年6月30日にかけて「時価総額加重平均型株価指数」から「浮動株基準株価指数」に移行したことによるものである。一言で言えば、TOPIXという指数はその前後では「連続性は保たれていない」のである。

◆ TOPIXは発行済み株式数の54%だけで算出されている
TOPIXが「時価総額加重平均型株価指数」であった時代には、時価総額は「発行済み株式数×株価」で算出されていた。しかし、「浮動株基準株価指数」に移行して以降、TOPIX算出に用いられる時価総額は「発行済み株式数×浮動株比率×株価」で算出されるようになっている(厳密には「発行済み株式数」ではなく「指数用株式数」)。

つまり、TOPIXは「浮動株基準株価指数」に移行したことで、親会社や持ち合いなどによる安定保有株比率分だけディスカウントされる(安定保有株比率=1-浮動株比率)ようになったのである。

2014年4月末時点での東証1部1876銘柄の浮動株比率は単純平均で54.5%となっている。つまり、安定保有株比率は45.5%(=100%-54.5%)に達しており、その分TOPIXは実際の時価総額からディスカウントされているということになる。

例えば、時価総額トップのトヨタの浮動株比率は65%である。つまり、発行済み株式数をベースにした時価総額が約28.9兆円であるのに対して、「浮動株基準株価指数」に移行した現在TOPIXに反映される時価総額は18.8兆円(浮動株式数×株価)と、10兆円強少なくなっているのだ。

日経平均株価に大きな影響力を持つファーストリテーリングも同様である。同社は浮動株比率が30%と低いため、TOPIXに反映される時価総額も、発行済み株式数をベースにした時価総額の30%になっており、TOPIXベースの時価総額は約3.8兆円分ディスカウントされている。

浮動株比率が最も低いのはルネサスエレクトロニクス(6723)で、実に5%しかない。さらに、TOPIXに占める比率が高い(28位)NTTドコモ(9437)は30%、ヤフー(4689)は20%となっており、「浮動株基準株価指数」に移行したことに伴う影響は無視し得ないものである。

TOPIXは2006年6月までに「浮動株基準株価指数」に移行したが、その際に過去にさかのぼってTOPIXの修正は行われていない。つまり、バブル経済期に記録した2884.80というTOPIX最高値は、発行済み株式数をベースにした「時価総額加重平均型株価指数」で算出されたものがそのまま残されている。これに対して、直近のTOPIXは「浮動株基準株価指数」で算出された指数になっているため、東証1部の時価総額がバブル経済期の時価総額を上回ったといっても、TOPIXは安定保有株数分ディスカウントされ、バブル経済期の最高値の約58%の水準にとどまっているのである。

◆ 運用上の理由で市場全体の価値から恩恵を受けられなくなった投資家
問題は、TOPIXが投資信託や年金運用においてベンチマーク(BM)になっていることである。TOPIXが「浮動株基準株価指数」に移行して来ていることで、一般の投資家は、市場全体の時価総額から安定株主が保有する時価総額を控除した収益しか得ることが出来ない構図になっている。つまり、株価の動きを準えることは出来るが、株式の市場価値全体を準えることは出来なくなっているということ。東証1部の時価総額がバブル期越えを果たしたといっても、安定株主以外の投資家にはその恩恵は行き渡らないのだ。

TOPIXが「時価総額加重平均株価指数」から「浮動株基準株価指数」に移行したのは、世界の潮流に合せたということであるが、その背景にはベンチマーク運用の主流化がある。TOPIXをBMとした資金が、東証1部の全銘柄が一斉に買い付けた場合、浮動株が少ない銘柄は必要以上に高くなってしまい、株価の乱高下が起こりやすくなることで、トラッキングエラー(BMと実際の運用のパフォーマンスの乖離)が大きくなりやすいという運用上の問題が生じて来たためである(このトラッキングエラーの影響は裁定取引にも大きな影響を及ぼす)。

こうした運用上のリスクを軽減するという運用サイドの理由のために、一般の投資家は株式市場全体の時価総額の上昇から恩恵を受けることは出来なくなったのは皮肉なことである。運用に「たられば」は禁物だが、もし、BM運用が主流になっていなければ、もし、運用上のトラッキングエラーの問題に目を瞑っていれば、TOPIXに連動するファンドの資産価値もバブル経済期を上回っていたかもしれない。

しかし、トラッキングエラーという運用上の短期的リスクを軽減するという運用サイドの事情でBMであるTOPIXを「浮動株基準株価指数」に変更してしまったことによって、TOPIXに連動する運用をしているファンドの資産価値は、東証1部の時価総額がバブル経済期の時価総額を上回ったなかでも、バブル経済期の資産価値の約58%に留まる結果になってしまった。

運用サイドも一般投資家も、TOPIXに連動する運用がいいのか、時価総額という市場価値が反映される運用がいいのか、改めて議論する時期に来ている。「東証1部時価総額バブル経済期の超え」は、BM運用に傾斜し過ぎた運用に対する警鐘でもある。

スポンサーサイト

コメント

TOPIXの算出方法変更について

はじめまして。私は某大学の学生です。
非常に興味深い内容でしたので拝読致しました。そこで、一つ疑問に思ったのですが、
日本証券取引所が公表しているものに、旧東証株価指数(TOPIXの計算時の浮動株比率を1.00としたもの)があり、これは算出方法変更前のTOPIXだとは思うのですが、
現TOPIXと、その旧東証株価指数を比較すると平均的な乖離幅は数%に過ぎないように見えます。
TOPIXが浮動株数基準になったことが、本当に現在のTOPIX低水準を招いていると言えるのでしょうか。

Re: TOPIXの算出方法変更について

student さん

この度は拙Blog記事に興味を持って頂き、またコメントを寄せて頂きありがとうごじます。

さて、ご質問に関してですが、日本証券取引所が公表している旧TOPIXと現TOPIXの比較チャートをみると、確かに兆指数にはほとんど差がないように見えると思います。

確認して頂きたいのはチャートの期間です。HPに掲載されている比較チャートは、2005年10月28日以降のものです。

さて、TOPIX の時価総額指数から浮動株指数への移行は、2005年10月末から2006年6月末にかけて3回に分けて段階的に行われています。ですから、HPに掲載されているチャートは、浮動株指数に移行した後の期間のものですから、ほとんど乖離がないのです。

TOPIXは2005年10月末から浮動株指数として公表され続けていますが、浮動株指数として遡って再計算されてはいません。

つまり、2006年6月末以降のTOPIXは浮動株指数として連続性は保たれていますが、時価総額指数だった時代のTOPIXとは連続性が保たれている訳ではないのです。

ちなみに、1989年12月のTOPIX史上最高値は2884.80ですが、この値は時価総額指数時代のTOPIXの最高値ですが、修正されたことはありません。何故修正されなかったの理由は明らかにされていませんが、おそらく各銘柄の浮動株比率を遡って把握することが出来なかったからだと思います。

日本証券取引所のHPに掲載されているチャートは、浮動株指数に変更されて以降のものですから、時価総額ベースの指数と大きな乖離は出ていないということです。

以上でご理解頂けましたでしょうか。

蛇足になりますが、大学生の方に興味を持って頂きとても嬉しく思っています。

以前も読者の大学生の方から質問を頂いたこともありますが、その内のお一人は資産運用会社に就職し、もう一人の方は証券会社に就職されました。

彼らとは小生が開催している金融講座や、主宰している「元ファンドマネージャー近藤駿介の実践資産運用サロン」などを通じていまでもお付き合いが続いております。

こうした専門的なテーマにご興味を感じられたというのは、studentさんも金融や資産運用に関心を持たれているからだと思いますが、もし金融や経済、資産運用等に関していろいろと学びたいと考えられているのであれば、是非サロン等にご参加頂き、いろいろな議論に加わって頂きたいと思います。

以上、ご回答まで。




> はじめまして。私は某大学の学生です。
> 非常に興味深い内容でしたので拝読致しました。そこで、一つ疑問に思ったのですが、
> 日本証券取引所が公表しているものに、旧東証株価指数(TOPIXの計算時の浮動株比率を1.00としたもの)があり、これは算出方法変更前のTOPIXだとは思うのですが、
> 現TOPIXと、その旧東証株価指数を比較すると平均的な乖離幅は数%に過ぎないように見えます。
> TOPIXが浮動株数基準になったことが、本当に現在のTOPIX低水準を招いていると言えるのでしょうか。
非公開コメント

近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

入会キャンペーン 実施中!

メルマガのお知らせ

著書

アラフォー独身崖っぷちOL投資について勉強する

Anotherstage LLC

金融に関する知見を通して皆様の新しいステージ作りを応援

FC2ブログランキング

クリックをお願いします。

FC2カウンター

近藤駿介 facebook

Recommend

お子様から大人まで
町田市成瀬駅徒歩6分のピアノ教室

全記事表示リンク

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

QRコード

QR