自己資本の5割の株を持つメガバンクと、自己資本の172%の株を持つ中央銀行

「金融庁は3日、2014年の事務年度(14年7月~15年6月)に検査した金融機関の課題をまとめた報告書を発表した。3メガバンクについては持ち合い株の自己資本に対する保有割合が高く、『株価下落時の影響は無視できない』と警鐘を鳴らし、15年度は持ち合いを含めた保有株の圧縮を促す方針だ」(4日付日本経済新聞 「株価変動リスク警鐘」)

金融庁は「持ち合い株の自己資本に対する保有割合が高い」ことを理由に、3メガバンクに対して「持ち合いを含めた保有株の圧縮を促す方針」であることが報じられています。

「3メガ銀の中核的な自己資本(ティア1)に占める株式保有比率は約5割に上るとの試算を提示。欧米大手銀行は約1割にとどまるため 『株価変動リスクの縮減を含め、財務基盤のさらなる強化が必要になる』 と言及した」(同日本経済新聞)

金融庁は、3メガバンクの株式保有比率は自己資本の約5割と、欧米大手銀行の約1割を大きく上回る水準であることを問題視しているようです。

「株式市場で日銀の存在感が高まっている。2015年上期(1~6月)の購入額は1兆6737億円と14年下期(7~12月)の約2倍になり、外国人投資家に次ぐ買い手になった。日銀の購入は株価を直接押し上げるうえ、投資家に心理的な安心感を与える効果が大きい。日銀という公的マネーの存在が日本株の底堅さを支える大きな要因になっている」(4日付日本経済新聞 「日銀、第2の買い手に」)

金融庁が3メガバンクに保有株の圧縮を促す方針であることを報じる記事と同じ紙面では、倍以上の紙面を割いて、「日銀、第2の買い手に」という見出しで、日銀が株式市場で「外国人投資家に次ぐ買い手になった」ことが報じられています。

日銀が2015年上期に上場投資信託(ETF)を1兆6737億円購入した結果、日銀のETF保有額は6月末時点で総資産の1.6%に相当する5兆3894億円となっています。

意外に知られていないことですが、日銀の資本金は僅かに1億円に過ぎません。その他法定準備金が3兆1385億円積まれていますので、日銀の自己資本に相当する「純資産の部」は3兆1386億円となっています。

金融庁は、3メガバンクの株式保有比率が自己資本の約5割になっていることを問題視していますが、日銀のETF保有比率は、3兆1386億円の「純資産の部」に対して5兆3894億円ですから、金融庁が注目する自己資本に対する保有割合は172%に達しているということになります。

金融庁は、中核的自己資本に占める株式保有比率が5割に上るとみられる3メガバンクに対して「株価変動リスクの縮減を含め、財務基盤のさらなる強化が必要になる」と言及しましたが、自己資本の172%に相当するETFを保有している日銀に対してはどのような言及をするつもりなのでしょうか。

もし、日銀も「株価変動リスクの縮減を含め、財務基盤のさらなり強化」を求められたとすると、保有するETFを売却するか、法定準備金を積み増す必要に迫られます。株式市場で2番目の買い手となった日銀が、保有するETFの売り手に転じれば株式市場に大きな影響を及ぼすことは想像に難くありません。

また、法定準備金を積み増すとしたら、一般会計に組み込まれる「国庫納付金」が減ることとなりますから、厳しい国家財政に負担を与えることになります。

金融庁が3メガバンクに対して「株価変動リスク」の警鐘を鳴らしたという記事の横には、メガバンクの一角である三井住友FGが、持ち合いなどの長期保有株を削減する方針を正式に表明たことが報じられています。金融庁が3メガバンクに保有株の圧縮を求めたことを契機に、128兆円に及ぶ株式を保有する金融機関が「株価下落時の影響は無視できない」という理由で削減する方向に動き出すとしたら、株式市場の「第2の買い手」である日銀が保有株を縮減する方向に動くことは難しい状況です。

日銀によるETFの買入れは、マネタリーベースを年間80兆円増加させ、2015年末に350兆円にするための一つの手段として実施されているものです。マネタリーベースは6月末時点で313兆円にまで順調に増えて来ており、年末には目標の350兆円に達することは確実な情勢です。

マネタリーベースが目標の350兆円に達したとしたら、マネタリーベースを増加させる手段の一つとして実施されているETF購入はどうなるのでしょうか。異次元の金融緩和を終了する一方、ETF購入を続けることは、ETFの購入が株価操作を目的としていたことを明らかにすることで、中央銀行の信頼を失うことになりますから取り得ない選択肢といえます。

また、ETF購入を続けるために金融緩和の継続を図るとしたら、これまで日銀が行って来た異次元の金融緩和が景気の回復と2%の物価安定という目的達成に効果がなかったことを認める必要が出て来てしまいます。これまで異次元の金融緩和の効果をアピールし続けてきた日銀に、こうしたアベノミクスを否定するようなことが出来るのでしょうか。

日銀が抱え込んでいる「価格変動リスク」を民間金融機関がリスク管理に利用するVaR(Value at Risk)を使って計算すると、1%の確率で日銀が10営業日後に負う株式の最大損失は5,003億円と、純資産の部の16%に及ぶことになります。そして当然ながら、この最大損失額は、日銀がETFを購入し続ける間は増え続けることになります。

マネタリーベースを350兆円にまで増やすという日銀の目標が達成間近になってきたことで、日銀がその後どのような選択をするにしても、投資家は市場が 「out of control」 となる時期は近いという覚悟を持つ必要性も高まって来ていることを忘れるのは危険だといえます。

ちなみに金融緩和の出口に向かっているFRBは株式を保有していません。ですから、純資産の部の172%に及ぶETFを既に保有してしまっている分だけ、出口への道のりは日銀の方が厳しいといえます。

記事では「日銀の購入は株価を直接押し上げるうえ、投資家に心理的な安心感を与える効果が大きい」と指摘されています。しかし、中央銀行が自己資本の172%に相当する株式を保有し、さらに増やしていることが、今後国民の間に不安感を高めていくであろうことにつては全触れられていないところに不安感を覚えます。

日銀が株式市場での「第2の買い手」を下りることになったら・・・。日銀が出口に向かうことになったら・・・。投資家は、「祭りの後」の寂しさはより厳しいものになるという覚悟をもって、今の株高を謳歌するべきかもしれません。
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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