ゼロ金利下での資産運用のリスク ~「分散投資」を進めれば「分散効果」は得られなくなる

「投資信託協会は11日、公募投資信託の8月の運用損失が5兆6718億円(7月は3218億円の損失)に膨らんだと発表した。損失額はリーマン・ショック直後の2008年10月(10兆3181億円)以来、約7年ぶりの高水準。株安や円高で運用が悪化した」(12日付日本経済新聞 「投信運用損5.6兆円」)

中国の人民元切り下げに端を発した世界同時株安の影響が、投資信託の8月の運用損失が1ヶ月で5兆6718億円に達するという形で表れました。株価の下落により5月に100兆円の大台を突破した純資産総額も4カ月ぶりに大台を割り込み96兆6387億円となりました。

投資信託が大きな運用損失を出したことが明るみになったことで懸念されることは、公的年金です。公募投資信託の純資産は100兆円強ですが、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用資産額は6月末時点で141兆円と、公募投信の1.4倍の規模になっていますから、投信以上の損失を受けていることは想像に難くありません。

さらに、公募投資信託の内外株式構成比が27.4%であるのに対してGPIFのそれは45.71%(国内株式23.39%+外国株式22.32%)と、公募投資信託を18.31%も上回っています。そしてGPIFが運用のベンチマークとしているTOPIX(配当込)は8月に▲7.36%下落している上、外国株式のベンチマークも円ベースでは9%以上下落している可能性がありますから、GPIFは内外株式だけで投資信託とほぼ同額の損失を出していてもおかしくありません。

さらに、内外債券のパフォーマンスも円高により円ベースのベンチマークが▲1.73%悪化していますから、内外債券投資でも1兆2000億円程の損失が出ている可能性があります。こうしたことから言えることは、GPIF運用資産合計では8月1カ月の間に7兆円程度の損失を出した可能性があるということです。

GPIFは2014年度に15兆2922億円、2015年4-6月期に2兆6489億円、合計18兆円ほどの運用収益を上げていますが、8月1カ月でこの5四半期に得た運用収益の約4割を失った計算になります。さらに、9月になってからはに外債はほぼ横這いですが、日本株は約▲3.7%下落、外国株式も円ベースでは▲1.5%ほど下落していますから、運用損失は8月末からさらに1.5兆円ほど増えている可能性があります。

GPIFは昨年から有識者の意見を取入れ、内外株式の組入れを増やす形で「分散投資」を進めて来ました。その結果、確かに表面的な資産構成の上では「分散投資」が進みました。しかし、「分散投資」を進めたことが、8月1カ月で5四半期かけて積み上げてきた運用収益の約4割を失うという不幸な結果を招くことになりました。

「分散投資」がリスク低減効果を発揮するのは、投資対象資産が逆の動き(逆相関)をする時です。

しかし、主要国の政策金利がゼロ金利状態となり、長期金利も0.5%を下回る水準にある環境では、株価下落に伴う損失を債券価格の上昇で埋め合わすことが困難だというのが現実です。日本の新発10年国債利回りは0.4%前後ですから、常識的に考えれば債券価格の上昇は0.4%分しかありません。

ゼロ金利下での資産運用の最大のリスクは、債券利回りが限りなく0%に近付いたことによって「分散効果」に期待出来なくなっていることです。

株価は可能性として20%、30%下落することはあり得ますが、利回りが0.4%程度の債券は0金利になったとしても価格は計算上3.2%程度しか上昇しません。つまり、株式と債券が統計上逆相関であったとしても、利回り低下に限界が見えている債券には株価下落を埋め合わせることは出来ないということです。

実際に8月には日本株は▲7.36%下落したのに対して、国内債の収益(価格上昇とインカムゲインの合計)は2%に留まっています。6月末時点でGPIFは国内株式22.0%に対して国内債を39.4%ですから、債券価格の上昇によって埋め合わせることが出来た国内株式の損失は、発生した損失全体の半分程度だった計算になります。

こうした「分散効果」が十分であったか否かの評価は何を優先するかによって異なりますが、GPIFが目指している基本ポートフォリオは、国内債35%、国内株式25%ですから、今後「分散投資」を推し進めていけば行くほど、株式の下落を債券価格の上昇で埋め合わせられることは難しくなっていくことは確かです。

金利が限りなく0%に近付くということは、債券という安全資産だけでは必要な収益を確保することは出来ないということです。こうした収益面での現実が株式を増やす形で「分散投資」を進めるという運用方針を正当化し、強調して報じられています。しかし、それに伴って「分散投資」を進めれば進めるほど、株価が下落した際には「分散効果」は発揮されなくなっていくという負の現実は全く語られることはありません。

「分散投資」という尤もらしい言葉を持ち出し「分散効果」が発揮されないポートフォリオに突き進んでいくことをもっと国民に正しく伝えるのが運用の専門家の責務であるような気がしてなりません。

「分散投資」を進めるという名目でGPIFが日本株の投資を増やすとことで日本株に対する上昇期待が高まるのと同時に、政府が率先して「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げて投資促進をはかったことで、投資信託の純資産残高は100兆円を突破するまでになりました。

今月開催するセミナーでもお伝えするつもりですが、こうした公的年金と個人投資家が相乗りする形での強気相場、投信ブームの恐ろしいことは、株価が下落したら個人投資家は自らの資産を失うのと同時に、将来年金を受け取れる可能性も低下することです。

こうしたリスクがあることは、何故か政府も専門家・有識者も一切触れることはありません。もしこうしたリスクに気付いていながら伝えていないとしたらそれは忌々しきことです。また、こうしたリスクに気付いていないとしたら専門家・有識者と称されている方々は皆似非だということになります。どちらにしても個人投資家にとっては不幸なことでしかありません。

今月開催するセミナーではこうしたリスクにどう対応するべきかのヒントをお伝えするつもりですので、投資や資産運用に対するセカンドオピニオンを求められている方は是非ご参加ください。


【セミナーのお知らせ】
来る9月26日(土)13時から紀尾井フォーラム(ホテルニューオータニ ガーデンコート1階)で「板倉雄一郎&近藤駿介サバイバル投資セミナー~株価変動に翻弄されない投資手法」というセミナーを開催します。

板倉雄一郎氏は「社長失格」等でお馴染みの起業家であり、ウォーレン・バフェットの投資手法も実践されている投資家でもあります。

世界経済の不確実性が増す今日、大切な資産を価格変動に晒す運用だけでいいのか、そうした疑問に対するヒントとなるようなセミナーにする予定です。

セミナー終了後の懇親会では、板倉氏とのトークセッションも行う予定ですので、是非ご参加ください。詳細及びお申込みはこちらから。

スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

入会キャンペーン 実施中!

著書

アラフォー独身崖っぷちOL投資について勉強する

Anotherstage LLC

金融に関する知見を通して皆様の新しいステージ作りを応援

FC2ブログランキング

クリックをお願いします。

FC2カウンター

近藤駿介 facebook

Recommend

お子様から大人まで
町田市成瀬駅徒歩6分のピアノ教室

全記事表示リンク

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

QRコード

QR