杭打ち工事データ改竄問題 ~ 理想と現実の違い

案の定、新たなデータ改竄・流用が見つかった。発注した地方公共団体もメディアのコメンテーター達も、こぞって建設会社の体質などに問題があるという怒りのコメントを繰り返している。

お怒りはご尤もだが、忘れて欲しくないことは「施工の品質とデータの改竄・流用とは別の問題」だということ。ちゃんと施行された物件でも、データの改竄・流用と指摘されても仕方ない行為は行われることは多々あるのが現実。

今回新たに見つかったデータ改竄・流用は4件だが、興味深いのは4件とも公営住宅、中学といった公共のもの、つまり公共事業として行われたものだというところ。

公共事業では、工事が完成するまでに数回の検査が実施される。ここでの問題は、検査する側の人間が必ずしも「専門的知見」を持っているとは限らないらこと。例え大学等で建築や土木の勉強をしていても、実務経験が0である限り、実務的な「専門的知見」は身につかない。

「専門的知見」を持たない人達による検査は、必然的に必要な書類が揃っているかという「形式検査(マニュアル検査)」になる。特に杭打ちとか、薬注といった完成した状況を目で見て確認できない部分はほぼ100%「マニュアル検査」になる(民間工事でも本質は同じ)。

つまり、施行者側からいうと、必要な書類・データを揃えておくことが目的化するということ。これは施工の品質とは別問題。

当り前であるが、杭打ち工事は外で行われる。雨も降れば雪も降るし、風も吹く。当然機械が故障することも電子機器類が故障することもある。作業環境を同一に保つことで、不良品を限りなく0に近づけるように運営されている工場とは環境が180度異なるのだ。

流量計が故障する、データ用紙が詰まる、データが雨に濡れて滲むということは、現場では想定されるトラブルでしかない。

例えば、コンクリートを注入し始めた時にこうした想定されるトラブルが起きた場合、データが正確にとれるまで作業を中止するだろうか。そんなことはない。

コンクリートを打ちは始めたら途中で止めることは出来ない。止めてしまうと、そこに継ぎ目が生じ、所定の強度を保てなくなるうえ、作業を止めてしまえば、コンクリートがミキサー車や配管の中で固まってしまい、コンクリートの品質が低下するといった、品質の面で大きな障害が生じるからだ。品質のいいコンクリートを打つということは、時間との戦いでもある。

こうした品質上の問題があるため、作業中に想定されるトラブルが生じた場合、作業続行を優先するというのは、品質管理を優先する現場監督としては当然の判断になる。

しかし、データがないと検査が通らない。検査に通らなければ施行代金を受取ることが出来ない。そこで現場監督は事務所に戻ってから、検査に必要なデータを準備することになる。こうして施工品質とは関係なく、データ改竄・流用が行われていくことになる。

公共事業における検査は、通常何回かに分けて実施される。杭打ち工事は工期の最初に行われるものであるから、最初の検査の段階でチェックを受けているはず。問題は、この検査の時点でデータの改竄・流用が見落とされていること。それは、検査が「専門的知見」を持たない検査官たちが、必要な書類が揃っているかをチェックする「マニュアル検査」になっているからだ。

杭打ちなどは施行後に正しく施行されているかを確認することは、技術的にも物理的にもほぼ不可能なこと。それゆえ「再調査」は「マニュアル検査」に提出された施行データの再検査にならざるを得ない。

その結果、施工の品質とは無関係に行われたデータの改竄・流用が大量に見つかることになる。そしてそれは、住民や発注者に対して不安感を与え、業界不信へと繋がっていく。

本当に正しく施行しているか確認するためには、現場に立ち会う以外にない。しかし、それは現実的ではない。私も30年前に元請会社の技術者として杭打ち工事を担当した経験があるが、一日中つきっきりで立ち会うのは無理なことで、下請け会社の責任者に任せる以外にない。

データ改竄・流用があったとしても、そのことが即施工品質に問題があることには繋がらないという現実をまず認識することが重要だ。

実際に建物や構造物に不当沈下が生じていなければ、杭打ちに問題があったと決め付けずに、「マニュアル検査」を通るための書類に不備があったと考えるのが現実的。

この件で建物等の資産価値が低下することは避けられないが、それはお金等で解決する以外に方法はないのではないだろうか。「疑わしくば解体・建て直し」を迫られるのでは、施工を請け負う会社がなくなってしまいかねない。

杭打ち工事のデータの再調査は、パンドラの箱を開けてしまう行為となった。これによる混乱を拡大させないためには、施工会社のモラルや体制を非難するだけではなく、施工品質と施行データは別物であるという現実的な認識を持つことも重要だ。施行データは主に「マニュアル検査」を通るためのものなのだから。

エアコンの効いたオフィスで仕事をしている方々が、様々な自然現象のなかで行われている工事現場に関して、自分達と同じ環境で工事が進められていると思い込むことは、本質的ではない問題を拡散させかねない。

データの改竄・流用は無いに越したことはないが、「マニュアル検査」がある以上、現実的になくなることはない。もし本当に再発防止を目指すのであれば、施行時に派遣社員ではない「専門的知見」を持った元請会社の技術者を立ち会わせることを義務付けるなどと対策が必要になる。当然これは請負金額を上昇させることになる。

今回の問題は、「理想と現実の違い」の部分を割引いて議論するべきである。そうでなければ収拾がつかなくなり、無用な混乱を招くだけだ。

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コメント

以前この業界に身を置いていた者です。
貴殿の記事を偶然拝見し、意見を述べさせて頂きます。
コンクリート製基礎杭には既成杭と現場打ち杭の2種類があります。既成杭の利点は工場で製造された物なので製品の均一性が保たれ、現場の環境には左右されません。難点は工場から現場までの搬入にコストがかかる点と建築現場の支持層が深い場合は複数の杭を溶接で継手しなければならない点です。(各杭の先端に巻かれている鋼管同士を溶接)対して現場打ち杭はミキサー車で搬入できるので搬入コストは抑えられますが、貴殿のおっしゃる通り、現場環境に左右されます。現場打ちの場合は円筒状の鋼管を掘削した穴に挿入して支持層に達したことを確認してから生コンを流し込む手順です。
今回発覚した偽装は低中層建築なのでほとんど既成杭だと思われます。この場合は支持層まで杭が達していない分、地面から突き出た杭を切断する“杭頭処理”を行います。ですからどちらにしろミキサー車や配管で生コンが固まる恐れがある時間との戦いというのはあり得ません。
 貴殿のおっしゃる通り、工期の最初に行われる杭打ち時点での「専門的知見」を持たない検査官の存在が原因の一つと思いますが、元請と下請けの絶対関係が根底にあるため、この問題は業界内の自浄努力だけで解決できる問題ではないと思います。マスコミが論じているような施工会社のモラル、体制だけを非難するのではなく「専門的知見」を持った検査官の派遣を義務付ける法整備が必要だと思います。

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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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