前倒し債発行最高額へ ~ 異次元の金融緩和が消費増税を正当化する?

「財務省は次年度に発行する予定の国債を1年早く発行する『前倒し債』の上限額を、2016年度は48兆円に引き上げる。15年度の当初計画に比べ16兆円増え、過去最高額となる。日銀の異次元緩和で市場に出回る国債が少なくなっている。需給の逼迫で金利が乱高下するのを防ぐため、需要に応じてすばやく追加発行できる態勢を整える。長引く金融緩和で生まれている市場のひずみに対応する」(27日付日本経済新聞「国債前倒し発行 最高に」)

「長引く金融緩和で生まれている市場のひずみに対応する」ということは、異次元の金融緩和が「市場のひずみ」を生み出していることを財務省が認めているということでもあります。

「市場のひずみ」を生み出している原因が日銀による異次元の金融緩和であるのなら、「市場のひずみ」を修正するためには異次元の金融緩和を止めるのが最善策だと考えるのが自然かと思いますが、そうはならないところが日本の金融政策の不思議なところです。

安倍政権と日銀が一体となって掲げた「2%の物価安定目標」という異次元金融緩和の目標達成時期は、MRJと同様に何回も先延ばしされ、達成時期のみならず、その目標自体に疑問符が投掛けられ始めています。

目標も効果も怪しい異次元金融緩和が生み出した「市場のひずみ」を、「前倒し債」の発行上限を引き上げることで修正しようという動きの裏には、国民に隠されたストーリーが練られているのではないかと疑ってしまいます。

仮に、仮に、アベノミクスの効果で経済が好転し、近い将来インフレの時代が訪れるのだとしたら、歴史的低金利のこの時期に将来必要な資金を確保しておくという、「前倒し債」の発行増額自体は、ファイナンス的には理に叶った部分があります。

しかし、「前倒し債発行増」によって「市場のひずみ」を修正するというのは、日銀の金融政策に対する客観的評価を見え難くするものでもあり、日銀の金融政策の客観的検証をし辛くするものです。

「国の借金である国債の発行減は財政の改善につながるが、同省内には『発行が急減すれば投資家が計画的に買いづらくなり、市場を不安定にさせる』との懸念があり、17年度の発行分を16年度に大量に回せるようにすべきだと判断した」(同)

財務省は「前倒し債」の発行を増やす理由として、「市場の安定化」を挙げているようです。しかし、市場で計画的に国債を購入しようとする投資家が存在する中で国債発行が減ったとしたら、常識的には国債の価格が上昇(金利が低下)するはずですから、財務省が懸念する「市場が不安定化」するリスクはいうほど高くないはずです。

「市場の不安定化」は、一般的に「計画的に国債を購入する投資家」が減っていくことによって起こるもので、国債の流通量が減るから起きるものではないからです。つまり、「市場の不安定化」は供給側の問題でなく、需要側の問題ということです。

気に掛かるのは、「前倒し債」の発行増によって、一時的にせよ国債発行残高が増えることです。

日本の国債は「60年償還ルール」に基づいて償還されていくので、均してみれば「前倒し債」の発行増自体が国債発行残高を増やすわけではありません。

しかし、国債発行残高が838兆円(長期債務を加えると1,062兆円;2016年度末政府予想)に達し、国債だけで国民1人当たり約664万円の借金を抱えていることが繰り返し報じられるなかでの「前倒し債の発行増」は、一時的にせよ国民一人あたりの借金額を膨らませる効果を発揮するものです。

つまり、「前倒し債の発行増」は、本来の姿以上に国の借金を大きく見せることになるわけで、財政健全化のために2017年4月からの消費税引上げ止む無しという世論形成を強めたい財務省の策略の一つであったとしても不思議ではありません。

間接的に国民に財政負担を強いている異次元の金融緩和が生み出している「市場のひずみ」を修正するという名目で「前倒し債」を増額し、それによって本来の姿以上に国家財政が逼迫しているように繕い、財政健全化という錦の御旗のものとに消費増税を正当化するというストーリーが描かれているのかもしれません。

このストーリーの中では、知らないうちにコストを払わされた上に増税を受け入れる無垢な国民は「悲劇のピエロ」でしかありません。

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コメント

近藤様、

ブログ、拝読しました。

市場の不安定化は供給サイドに起因するのではなく、需要サイドから来るものだとのご指摘、同感です。官僚による政策の理由付けは、しばしば極めていい加減なものです。前倒し債の発行に消費増税正当化の意図を感じるとのご指摘、興味深い推察だと思います。

ただ、政策の裏にある官僚の意図はともかく、消費増税自体は避けて通れない絶対に必要な措置だと、強く感じています。この観点からは、国民一人一人が、増税は(残念なことではあるが、事ここに至っては)前向きに受け入れるべき措置だと理解し、政治家に対して「税率をどんどん上げ、後顧の憂いを絶て」と圧力をかけるくらいにならないと、この国の未来はないと思っています。

しかし、そのような雰囲気は全く見られず、消費増税は自分が損する(ように見える)から悪だとの、近視眼的発想の国民が多い。軽減税率などという小手先の馬鹿げた措置を糾弾するどころか、歓迎し要求する人が多数を占めている。これではこの国の未来はないというのが、私の診断です。

  武田

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近藤駿介

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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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