2016年、金融政策の限界を知る年~世にも馬鹿げた「異次元の金融緩和」

「金融庁は、銀行が保有する住宅ローンや国債などで市場金利の上昇によって損失が生じかねない『金利リスク』を厳しく点検する新たな監督の枠組みを検討する。資産耐久度調査(ストレステスト)を義務付け、金利変動リスクを大量に抱える銀行に対し、早期に報告や業務改善の命令を発動しやすくする」(6日付日本経済新聞 「銀行の金利リスク精査」)

金融庁が銀行の「金利リスク」を厳しく点検する方針であることが報じられました。

その理由は、「日銀による金融緩和で日本国債の金利は歴史的な低水準にあるが、先進国で最悪の財政状況を考えれば、金利が急騰する恐れもある」(同)というものだそうです。

一見尤もらしく感じるかもしれませんが、この記事の中に異次元の金融緩和がいかに金融的に出鱈目な政策であるかが凝縮されています。

「日銀による金融緩和で日本国債の金利は歴史的な低水準にある」(同)

日銀の金融緩和によって日本国債の金利は低く抑えられている、というのが通り相場になっています。この指摘自体も本質からずれたものですが、日銀が金融機関から大量に国債を買い入れることで、期間の長い金利を押し下げようとしていることは事実です。

日銀が金融機関から保有国債を買上げているということは、国債保有に基づく「金利リスク」は金融機関から日銀に移転しているということです。

「日銀によると、銀行と信用金庫は金利が1%上昇すると全体で10兆円ほど損失が発生する。2000年代前半は6兆円程度だったが、近年はリスク量が高止まりしている」(同)

記事では、銀行と信用金庫が負っている「金利リスク」が10兆円ほどまで高まって来ていることに警鐘を鳴らしています。

ここで考えなければならないことは、日銀が、金融機関から大量の国債を買上げる異次元の金融緩和を続ける中で、何故、銀行と信用金庫の抱える「金利リスク」が増えて来たのかということと、異次元の金融緩和によって「金利リスク」が金融機関から日銀に移転されることで、日銀が抱える「金利リスク」は、銀行と信用金庫が負っているそれよりもずっと大きくなっていることです。

銀行と信用金庫の抱える「金利リスク」が増えて来たのは、日銀が異次元の金融緩和と称して期間の長い金利を押し下げ、イールドカーブをフラットニングしようとして来たことが一つの要因です。

金融機関のビジネスモデルは、相対的に金利が低い短い資金を調達して、相対的に金利が高い長い資金を貸し出すことによって、その利鞘(=長期金利-短期金利)を得るものです。

従って、イールドカーブをフラットニング化させ、金融機関の利鞘を奪い取る異次元の金融緩和政策は、金融機関のビジネスモデルを崩壊させるものでもあります。金利体系は、期間が長いほど金利が高いのが基本ですから、金融機関が利鞘を確保しようとすれば、貸出資金の期間を長くしていくことは論理的には正しい選択です。

通常の銀行融資において、最も期間が長い融資は住宅ローンですから、金融機関が利鞘を求めて期間の長い住宅ローンに注力していくのは当然のことでしかありません。

一方、「金利リスク」というのは、期間が長くなれば長くなるほど上昇していくものですから、金融機関が利鞘を求めて融資期間の長い住宅ローンを増やせば増やすほど、金融機関の「金利リスク」は高まっていくことになります。

日銀によってイールドカーブのフラットニングが推し進められるなかでは、金融機関には、「金利リスク」を負ってでも必要な利鞘を確保するか、「金利リスク」を避けて利鞘を放棄するかしか選択肢がありません。しかし、「金利リスク」を避けて利鞘を放棄するというのは、座して死を待つ行為ですから、結局は生きるために「金利リスク」を負ってでも利鞘を求める以外に道はないということになります。

こうして「金利リスク」を負ってでも利鞘を求めざるを得ない状況に追い込まれた金融機関に対して、「金利リスク」に応じた自己資本の積み増しを求めるというのはおかしな方針だといえます。

まず。日銀がイールドカーブをフラットニングさせる目的は、金利を下げることで投資を促進させるためです。その方針にそって長期融資を増やした結果、自己資本の積み増しを求めるというのでは、全く意味がありません。

投資家が自己資本に求める期待利回りは、概ね8%程度です。ですから、金融機関側からすれば、8%の資本コストをかけて、住宅ローンなど利鞘が薄いものに資産を増やすことは合理的な判断ではありません。資本コストを考えると、利ザヤの薄い融資を増やすことは、全体としては逆ザヤになってしまいかねないからです。

このような理由で金融機関が期間の長い融資を行わなくなってしまえば、何のために異次元の金融緩和と称してイールドカーブをフラットニングさせるのか、その意義が完全になくなってしまいます。

日銀が金融の専門家であったならば、金融機関が自己資本の積み増しを迫られずに貸出資産などを増やせる環境作りを目指すべきだったといことです。そして、貸出資産を増やすためには、異次元の金融緩和と称してイールドカーブをフラットニング化させ、金融機関の利鞘を奪うのではなく、融資期間を長くしなくても一定の利鞘を確保出来る環境作りを行ったはずです。

実際に、1990年前後にS&L危機に見舞われたFRBは、政策金利を引き下げる一方で、貸出金利は高めに維持することを認めることで、銀行の利鞘を確保させ、危機を回避したことがあります。

日銀自らが金融機関が保有する国債を買上げ、イールドカーブをフラットニング化させることで金融機関の貸出期間を長期化し、「金利リスク」を増やさせてから、自己資本の積み増しを求めることで、金融機関が利鞘を確保出来る融資を行えなくするという異次元の金融緩和政策は、本当に「異次元のバカげた緩和政策」だと言わざるを得ません。

次に問題なのは、銀行や信用金庫以上に、日銀の抱える「金利リスク」が増えて来ていることです。

日銀は昨年から期間の長い国債の買い付け量を増やして来ており、昨年12月末時点で日銀が保有する国債は325兆強に達しています。日銀が保有する国債ポートフォリオのリスク特性(修正デュレーション)が、日本国債全体のそれとほぼ同じ(修正デュレーション=8.83年)だと仮定すると、日銀が抱える「金利リスク」は28.7兆円と、10兆円といわれる銀行と信用金庫が抱えている「金利リスク」の約2.8倍に及びます。

日本経済新聞の記事では、金融庁は「リスク量が自己資本の一定割合を超えた場合、報告命令や業務改善命令を出す」方針であると報じられています。

この自己資本ですが、全国銀行協会に加盟する銀行 116 行の2015年3月末の「純資産の部」の合計は54兆6846億円と、10兆円ともいわれる「金利リスク」の4倍以上の自己資本を持っています。

これに対して、28.7兆円と銀行と信用金庫の約2.8倍の「金利リスク」を抱える日銀の資本金は僅かに1億円に過ぎず、8兆円強ある「準備金」を含めても、日銀が抱える「金利リスク」は「純資産の部(自己資本)」の3.5倍以上にあることになります。

つまり、日銀は金融機関から大量の国債を買い入れることで、民間金融機関を遥かに上回る「金利リスク」を抱えるようになっているのです。

「剰余金の処分については、日本銀行法第53条第1項により当期剰余金の5%相当額を法定準備金に積み立てることが義務付けられているが、『量的・質的金融緩和』の実施に伴い、従来よりも収益の振幅が大きくなると見込まれることを踏まえ、財務の健全性確保の観点から、これを超える2,522億円(当期剰余金の25%相当額)を、同条第2項に基づく財務大臣の認可を受けたうえで、法定準備金に積み立てることとした」(日銀HP「第130回事業年度(平成26年度)決算等について」)

異次元の金融緩和による「金利リスク」の拡大に対応するため、日銀は法定準備金を2,522億円積み増しています。これは日銀の国庫納付金が2,522億円減額されたこと、財政的に苦しい国の歳入が同額減ったことを意味します。

民間金融機関をはるかに上回る「金利リスク」を抱える日銀に対しても、金融庁は「報告命令や業務改善命令」を出すつもりなのでしょうか。それとも目を瞑るのでしょうか。

日銀が異次元の金融緩和と称して金融機関から国債を大量に買い入れることによって長期国債の金利が低下させるということは、国債全体の修正デュレーションを上昇させることで、日銀を含め国債保有者の「金利リスク」を高めるものです。

つまり、日銀は金融機関から国債を大量に買い入れることで、規模と修正デュレーションの長期化の両面から自らの「金利リスク」を高めるという、金融的に信じ難い政策を推し進めているのです。

新年を迎え、専門家と称される人達が株価や為替の見通しを披露していますが、日銀による追加緩和に関しては市場にポジティブな影響があるという意見が大半を占めています。しかし、世界の金融の専門家が、FRBがQE(量的緩和)を止め、金利を含めて金融政策の正常化に向かい始めているなかで、さらに自ら「金利リスク」を生み出す「金利リスク」を抱えようとする日銀の追加緩和をポジティブに受取る保証はあるのでしょうか。

日銀が追加緩和に踏み切ったとしても、専門家と称される人達が指摘する様な都合の良い「円安・株高」になるとは限りません。追加緩和が日銀の財務内容に対する信頼を失墜させることになれば、「とんでもない円安、大幅な株価下落、大幅な長期金利上昇」という事態を招きかねないからです。

異次元の金融緩和の本来の目的である「2%の物価安定目標」の達成がほぼ不可能になるなかで、国家財政に負担を掛けてまで、中央銀行の財政不安を招きかねないこれ以上の追加緩和をする必要があるのか大いに疑問です。

日銀の追加緩和に期待を寄せ過ぎている国内投資家は、追加緩和が先送りされれば失望観を強めていくことになると思いますが、追加緩和に踏み切れば世界の投資家から「自爆緩和」として呆れられる可能性も否定出来ません。

追加緩和に踏み切るも地獄、追加緩和を止めるも地獄・・・。

2015年は「中央銀行試練の年」でしたが、2016年は「金融政策の限界を知る年」になりそうです。

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近藤駿介

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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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