AIJ事件判決確定~葬られる真実と残された教訓

「AIJ投資顧問(東京・中央、現MARU)の年金詐欺事件で、最高裁第1小法廷(山浦善樹裁判長)は14日までに、詐欺と金融商品取引法違反(契約の偽計)の罪に問われた元社長、浅川和彦被告(63)ら3人の上告を棄却する決定をした。12日付。浅川被告を懲役15年とした一、二審判決が確定する」(15日付日経電子版)

日本の年金問題に大きな衝撃を与えたAIJ事件で実刑が確定した。

判決確定によって事件は終幕を迎えたが、同時にそれはAIJ事件の真相が闇に葬られることでもある。

「AIJ投資顧問が厚生年金基金や企業年金基金から委託された資金約1500億円の大部分が取引の失敗などで消失」(同)

このように報じられているAIJ事件だが、メディアが報じているような「取引の失敗」を「虚偽の運用実績を示し、水増し価格でファンドを販売」したというレベルの犯罪だったとはとても思えない。

一般の人には説得力のある説明に聞こえるかもしれないが、「金融」という観点から考えると、こうした説明は全く説得力のないものだからだ。

個人的意見に過ぎないが、この事件の本質は「取引の失敗」でない可能性がかなり高いと思っている。最初のきっかけは小さな「取引の失敗」だったかもしれないが、実際に「資金約1500億円の大部分が取引の失敗などで消失」するというのは「金融の現実」からは信じ難いこと。

簡単に言えば、取引自体行われていなかった可能性が高いということ。勿論推測に過ぎないが、業界内で知られている情報を組合わせると、AIJは資金を集め、それを特定のところに流す役割をしていた可能性も否定出来ない。
こうした推論を大手メディアの記者に説明したこともあるが、裏を取ることが極めて難しい内容であったこともあり結局記事になることはなかった。

裁判の終了と共に、「社会事件」としてのAIJ事件は幕引きとなる。それは「金融」面での闇が暴かれることがなくなったことを意味するものであり、この点に関してはとても残念。

話しは変るが、事件が発覚する前に、AIJが顧客に配っていた販売説明資料を見たことがある。

その資料の最初の3行には、運用上あり得ないことが謳われており、オプション取引を理解している人間が見ればウソだということが直ぐに分かるような代物だった。

にも関らずこうした商品が年金資金基金に広がって行き、厚生年金基金制度を崩壊させるほどの大事件になってしまった。

最初の3行を見れば運用上あり得ないと分かる商品が蔓延して行った理由は2つある。

一つは、運用商品を「相場」から考えてしまうこと。

もう20年近く前の事だが、所属していた大手資産運用会社で、デリバティブが絡む運用商品を企画されていたことがあった。小生は運用部門の代表として打合せに参加させられていたが、それは商品的に欠陥のあるものだった。
小生がそのような商品的な欠陥を指摘したところ、幾つかの驚くべき反論が返って来た。

「お前のいうリスクは株価が上昇すれば出てこない」
「お前のいうリスクは俺が定年になるまではない」

確かに、リーマン・ショックを見ても明らかなように、価格が上昇している間には問題が生じることはない。しかし、金融取引に関る商品である限り、価格が上昇し続けることはあり得ないので、株価の上昇を前提に商品的欠陥に目を瞑ることは許されるものではない。

「もし、こうした商品上の欠陥に気付いていながら商品を販売したら、それは詐欺だ。また、もしこうした商品上の欠陥に気付けないのだとしたら、我々は人様の命の次に大切なお金を預かる能力を持ち合わせていないことだ。私は詐欺師にも、無能にもなりたくない」

このように言い放った40歳前の小生が、サラリーマンとしてファンドマネージャーを続けることが難しくなるのは当然のこと。

セミナー等で必ずいうことだが、「相場」からアプローチしようとする限り「金融・経済」はおろか、「投資」や「運用」の本質を知ることは出来ない。それは、何時までも「ギャンブルとしての投資」を続けなければいけないということでもある。

もう一つの要因は、「オプション取引」など専門的で馴染のない言葉の前では多くの人が思考停止に陥ってしまうことだ。

オプション取引の本質は決して難しいものではない。しかし、「相場」から理解をしようとする人のほとんどは思考停止になる。

これも毎回言うことだが「株価には必要性はない」。それにも関らず多くの人達は、どこかに株価を正しく推測出来る方法や理論があると思い込んでいる。

存在し得ないものを存在していると思い込むわけだから、論理的思考が出来るわけはないし、思考停止になるのも当然のこと。

AIJ事件が明らかになった直後、厚生年金基金や年金コンサル会社を回ったが、AIJが提案している運用が現実に不可能であることを説明できる人は皆無だった。

多くの人の認識は「多額の損失を出したから悪い運用だった」というもの。こうした風潮は今の公的年金の運用に対する非難と同質のもの。このようなアプローチをする限り、残念ながら進歩することはない。

年金基金にアドバイスするコンサルの多くは「理解出来ないから推奨しない」という立場だったが、何故AIJの運用を採用してはいけないのかという論理的説明に基づいて「採用してはいけない」という姿勢を持っているところは1社もなかった。

業界大手のコンサルタント会社の部長は、小生の説明を聞いて「そういうことだったんですか。初めて知りました」という驚いている状態だった。

小生が先物やオプション取引が金融・経済、金融市場にどのような影響を及ぼすかをお伝えする講座やセミナーを始めたのは、このAIJ事件がきっかけとなっている。「オプション」という言葉に接して思考停止に陥らなければ、1500億円もの年金資金が消失し、厚生年金基金制度が廃止されることもなかったと考えているからだ。

重要なことは、金融・経済や投資、資産運用を「相場」からアプローチしようとすると、本質を見失うということだ。

日本の投資家のほとんどは「投資=相場(観)」だと思い込んでいる。しかし、株式市場には「相場」以外の基準で参加している投資家が数多く存在している。

こうした現実に目を向けずに株式市場に参入するというのは、丸腰で戦場に出向くようなもの。

「彼を知り、己を知れば百戦危うからず」という孫子の兵法に照らし合わせれば、多くの日本人投資家は負けるべくして負けているといえる。

「相場」以外の価値観で株式市場に参戦して来ている投資家が存在している。こうした事実を認識したうえで、ではどのような価値観で参戦しているのかを知れば、彼らがどのような動きをするかを推測することが出来るようになり、「百戦危うからず」に一歩近付くことが出来る。

投資家として生き残って行くために必要なのは、相場観以外の価値観で参加している投資家に勝つことではなく、調和、共存して行くことだ。

こうした認識に基づいた講座「元プロファンドマネージャーの多次元株式市場分析法講座」を、4月23日(土)10:30~13:00新宿で開催しますので、少しでも多角的市場分析法を身に付けたい方は是非ご参加ください。

多角的な見方を身に付ければ、AIJはもとより、怪しげな投資話を盲目的に信じたり、カタカナの専門用語を前に思考停止に陥ることはなくなります。何故なら「本質は難しくない」から。

当講座は、相場予想や所謂儲け方をお伝えするものではありません。投資家として生き残って行く可能性を高めるために必要な知識をお伝えするものです。

ご興味のある方はこちらから詳細をご確認の上お申込み下さい。15日18時時点で残席「4」となっています。
https://www.facebook.com/events/218358715200502/

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コメント

お初

一般の人の耳目を集めやすい陰謀論を唱えるのは面白いとは思いますが、、申し訳ありませんがAIJの取引は行われていたはずです・当時、海外からの巨額な国債先物オプションの注文は誰なのか我々の間では話題になっていました。「オイルマネーなのだろうか?いや国内のAIJらしいよ」と。おそらく当時1兆円を超えるポジションを持っていたのではないでしょうか。デリバティブは合成ポジションなのでなんとも言えませんが、1兆円のポジションの100億円は僅か1%に過ぎませんから、数年の間に2000億円を溶かすことも十分可能です。むしろ取引せずに1千億円以上もの多額の資金を消失させるのは不可能です(多額の銀行送金をすれば必ず足が付くため)。
あとデリバティブと聞くとすぐに日経平均オプションを思い浮かべますが、AIJがやっていたのは国債先物オプションですのでお間違いなく(ボリュームが全然違います)。

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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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