「躊躇」し始めた日米中央銀行 ~ 「経済指標次第」でなくなったFRB、「黒田ムスダン」に格下げされた「黒田バズーカ」

大山鳴動し鼠一匹も出ず

21日のECB理事会を皮切りに始まった金融政策Weekは、ECB、FRB、日銀全てが「現状維持」となり、結局「大山鳴動し鼠一匹」どころか「一匹も出ず」という格好で終わった。

印象的だったのは、今回FRBが利上げ先送りの理由を、前回の「海外経済のリスク」から「米経済減速」に修正したこと。

FRBは法的に「雇用の最大化」と「物価安定」という二つの責務を負っている(ダブルマンデート)。その内「雇用」においては、非農業部門の雇用者数が平均で20万人を突破し、FRBは責務を果しているといえる状況にある。

「物価安定」においても、昨日発表された第1四半期のGDPが前期比年率でプラス0.5%と事前予想の0.7%に届かなかった中、変動の大きい食品とエネルギーを除くコア個人消費支出(PCE)価格指数は前四半期の1.3%から2.1%へと2012年第1・四半期以来の上昇率を見せており、FRBが掲げる「2%の物価上昇」を達成しつつある。

個人消費の伸びが低調だったなかで物価が上昇したのは、税引き・インフレ調整後の可処分所得が前期の2.3%増からは2.9%増にプラス幅を拡大したことによるもの。そうした中、貯蓄は7,123億ドルと前期の6,783億ドルから340億ドル(5.0%)増加しており、所得増が貯蓄に回されたことが個人消費の伸びが鈍かった要因。所得が伸びずに消費が伸びない日本とは状況が異なっている。

「利上げは経済指標次第」だと繰り返して来たFRBが、「雇用の最大化」と「物価安定」というダブルマンデートを達成間近になったこのタイミングで、利上げ先送りの理由に「米経済減速」を挙げるということに何とも言えない違和感を覚えずにはいられない。

ダブルマンデートの達成が間近になった局面で、市場動向に応じて「海外経済のリスク」や「米経済減速」という理由を掲げて利上げを先送りにするFRBの姿勢をみていると、FRBの本音は「経済指標に関係なく利上げをしたくない」というところにあると考えざるを得ない。

それは、ドル高の影響で企業業績や設備投資が低迷する中で、FRBがドル高を誘発しかねない利上げを出来るだけ避けたい事情を抱えているということ。

その背景には、大統領選が保護主義に走るトランプ候補とTPPに反対するヒラリー・クリントン候補の争いになる可能性が高まっていることが考えられる。両候補共に、日本の通貨安政策を批判しており、FRBが利上げをしてドル高・円安を招いてしまえば、「為替操作国」に対する批判を煽り、それがさらに保護主義色を強めさせ、最終的にはFRB批判を招く可能性は否定出来ない。

3月のFOMC声明文に「世界の経済・金融情勢が引き続き危険をもたらしている」という一文を入れたあと、4月11日には2014年11月以来となるオバマ大統領とイエレン議長との非公式会合が設定され、16日のG20終了後の記者会見におけるルー財務長官の「為替市場の動きは秩序的」という発言をしたことまでの一連の動きと照らし合わせて考えると、「利上げは経済指標次第」ではなくなっていると考えられる。

昨年12月に利上げに踏み切って以降の「ブレ続けるFRB」を見ていると、政治的影響を強く受け始めていると考えるのが賢明だ。

FRBが利上げを先送りした理由と共に驚いたのは、日銀が追加緩和を見送ったこと。

「必要と判断した場合には、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる」と繰り返している黒田日銀が、「政策目標とする2%の物価上昇の達成時期をこれまでの『2017年度前半ごろ』から『17年度中』に再び先送りした」(同日本経済新聞)タイミングで「追加的な金融緩和措置」を「躊躇」したことは、明らかな言動不一致。

黒田日銀にとって誤算だったのは、22日(金)に日銀が追加的緩和措置を打出すという観測報道が出てしまったこと。

本来ならば、黒田日銀体制になって3回目となる月末と週末が重なる金融政策決定会合で追加的な金融緩和措置に踏み切り、円安・株高を演出してGWを迎える予定だったはず。しかし、情報が漏れ市場が先行して動いてしまったことで完全に後手に回る結果となった。

市場の期待に沿う形で追加的緩和措置を打ち出しても、織り込み済みになり失望を買いかねない状況では、手を出せなかった格好。期待通りの追加的緩和措置を打ち出しても、見送っても失望売りを誘うならば、弾を温存した方がマシだというのが、市場にサプライズを与えることでしか「中央銀行の権威」を誇示できない哀れな総裁の選択だった。

追加的緩和措置を待ち構えている市場にサプライズを与え、「中央銀行の権威」を維持するためには、規模を予想以上に膨らませるか、市場が気付いていない新たな手法を打出すかしかない。

「必要ならば、いくらでもマイナス金利を深堀出来る」

金融政策決定会合後の記者会見で黒田日銀総裁はこう強がって見せた。しかし、今回黒田日銀が「マイナス金利政策の効果の浸透度合いを見極めていくことが適当だ」という理由で追加的緩和措置を見送ったということは、少なくとも現時点で黒田日銀は市場にサプライズを与える手段を持ち合わせていないことを証明したことでもある。

そしてそれは同時に、黒田日銀自身がマイナス金利政策に対する効果に不安を抱いていることを示したものでもある。もし効果に絶対的な自信を持っているのであれば、市場の期待に関らず「躊躇なく」行動する筈だからだ。今回「躊躇した」ということは、「マイナス金利付量的・質的緩和」はマーケットを円安・株高に動かすことでしか経済に働きかけることが出来ない政策であることを白状したようなものである。

「黒田バズーカ」は、3回連続で打ち上げに失敗した北朝鮮の中距離弾道ミサイル「ムスダン」と同様に「張子の虎」だということが明らかになった。今後市場は「黒田バズーカ」ではなく「黒田ムスダン」と呼ぶことになるかもしれない。

今回の金融政策Weekが、「大山鳴動し鼠一匹も出ず」で終わったことから推察されることは、FRBの利上げが「経済指標次第」ではなくなって来たことと、「黒田バズーカ」が「黒田ムスダン」に格下げになったことだ。

この2つの事が金融市場にもたらすものが、日本の政策当局にとって歓迎せざるものになるということは覚悟しておく必要がありそうだ。

※ 当記事は、有料メルマガ「近藤駿介のAnother Sense『マーケット・オピニオン』」 4月29日号に掲載されたものです。




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