東証マザーズ指数先物登場で取引の厚みが増す・・・?

「マザーズは個別銘柄の価格変動が大きくなりやすく、取引を敬遠する機関投資家も多かった。先物を使ったヘッジ取引ができるようになり、取引の厚みが増す効果が期待できる」(16日付日本経済新聞 「4商品が19日に上場 マザーズ指数先物に関心」)

「東証マザーズ指数先物」が連休明けの7月19日に上場する。

「東証マザーズ指数」が登場した1999年当時、投資信託会社で運用をしていた筆者のところに「東証マザーズ指数連動ファンド」「東証マザーズ指数ETF」を作れないかという企画が持ち込まれたことを思い出す。先物オプションのトレーディングにインデックスファンドの運用経験、さらに日本初のETFの立上責任者を務めていたことがあったからだ。

しかし、それは机上では出来ても、実務上不可能に近い企画だったので、ゴミ箱行きとなった。

それから17年近い年月が経ち、当時と比べて運用に関する環境は大幅に進歩した今日でも、「東証マザーズ指数ETF」は登場していない。

5月末時点で202本のETFが東証に上場しているが、マザーズ市場を対象としたETFは、東証マザーズ上場銘柄を代表する15銘柄に投資する「マザーズ・コア(1563)」1本に留まっている。

なぜ「東証マザーズ指数ETF」が登場しないのか。それは、指数との連動性を維持し続けることが難しいからだ。

勿論一定の誤差の範囲の中でということになるが、東証株価指数(TOPIX)や日経平均株価、JPX日経400などの指数に連動させることはそれほど難しくない。同じ株価指数でありながら、東証マザーズ指数に連動させることが難しいというのは、成長市場ゆえの特性があるからだ。

成長企業を中心とした東証マザーズ市場では、企業が成長していくとマザーズ市場を卒業し、東証一部などへ市場変更していくのが一般的である。

ここでの問題は、東証一部に市場変更していく企業は時価総額が大きくなっており、指数構成比率も高くなっているという点である。つまり、成長した企業が卒業する際には、ポートフォリオの管理上最も構成比率の高い銘柄の売却を迫られ、卒業していない銘柄を買い増す必要が出てくるため、大きな売買を強いられる。

一方、構成比率の高い銘柄がマザーズ市場を卒業していっても、指数の連動性は保たれる。指数の連続性が維持される中で、ファンド内では最も構成比率高い銘柄を売却し、卒業しない構成比率の低い銘柄を買い増すというコストのかかる売買をしていかなければならない。簡単に行われる指数の連続性と、手間とコストのかかる調整売買を強いられるポートフォリオというギャップが、指数との連動性が失わせる要因になってしまうのだ。

TOPIXや日経平均といった指数も銘柄入替等によって指数構成銘柄が変わることはあるが、指数構成ウェイトが高い銘柄、例えばTOPIXならばトヨタが、日経平均株価であればファーストリテイリング、KDDI,ソフトバンクが抜けることはほとんどあり得ない話。

仮に構成ウェイトの高い企業が、シャープや東芝、オリンパスなどのように不祥事等で存続の危機に陥った場合、株価が下落することで自然と構成ウェイトが下がっていくことになる。この株価下落は株価指数に反映されるので、これによって指数との連動性が失われることはない。

TOPIXや日経平均株価など東証一部の株価指数は、「落第」はあっても「卒業」はない。これに対して東証マザーズ市場には「落第」も「卒業」もあるという大きな違いがる。

このような成長市場特有の事情が、「東証マザーズ指数ETF」や「東証マザーズ・インデックスファンド」が出来ない最大の理由になっている。

こうした事情があるなかで、「東証マザーズ指数先物」の取引がスタートする。

先物の登場で、投資家はヘッジ手段を得られるという指摘が多い。しかし、「東証マザーズ指数先物」がヘッジ機能を発揮するに十分な流動性を保てるかは定かではない。

それは、日経平均などのように裁定取引の対象になりにくい可能性があるからだ。

「東証マザーズ指数先物」で最大の懸念材料は「SQ清算」。

先物やオプションといった派生商品は原資産との受け渡しが可能であることが前提に成り立つもの。株価指数においてはこの受け渡しをする場が「SQ」になるわけだが、東証マザーズ市場の場合、SQで流動性が低い銘柄を含む全銘柄を売り切る、買切れる保証はない。

現物株を買切る、売り切ることが出来なければ「裁定取引」は成立しない。これが出来ないとしたら、裁定取引が「相場取引(アウトライト取引)」になってしまう。

東証マザーズ市場を卒業する銘柄が出てきた際に指数との連動性を保つことが難しい上に、「SQでの決済リスク」があることを考えると、「裁定取引」の対象になり難いといえる。

「裁定取引」に伴う売りが出てこなければ、投資家は「買ヘッジ」に高いコストを支払わなければならないことになる。

また、「東証マザーズ指数先物」の登場によって「売りヘッジ」が出来るようになることが期待されているが、一方的な動きになりやすい市場で機動的に「売りヘッジ」をかけられるのは逆張りをする投資家に限られる。逆張りをする投資家は、これまで通り市場全体が強気の時に保有銘柄を売却して持ち高を減らせば事足りるわけであるから、「東証マザーズ指数先物」の登場によって投資行動が大きく変わるわけではないため、先物の重要性がそれほど高いわけではない。

頭に入れておかなければならにことは、一方的な動きになりやすいマザーズ市場では、市場が弱気に傾いたときの「売りヘッジ」は、東証一部市場以上に難しいということだ。

「相場観」以外の価値観で参加する「裁定取引業者」が増えなければ、マザーズ市場はこれまで通り「相場取引」中心の市場となり、「東証マザーズ指数先物」の登場によって取引の厚みが増すことは期待しにくい。「取引の厚みが増す」ためには、様々な価値観を持つ投資家が参加することが必要用条件である。同じ価値観の投資家ばかりが参加する市場の「取引の厚み」には限界がある。

「東証マザーズ指数先物」の登場によって取引の厚みが増し、機動的なヘッジ取引が行えるようになるという期待を持ち過ぎない方が賢明だといえる。


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