事業規模28兆円 ~「大胆な経済対策」で使われる詭弁


「安倍晋三首相は27日、福岡市で講演し、8月2日に閣議決定する経済対策について『事業規模で28兆円を上回る総合的かつ大胆な経済対策をまとめたい』と表明した。国と地方の財政支出(真水)や財政投融資を合計した財政措置は13兆円とする方針も示した。『真水』で6兆円超、財政投融資も6兆円超とする方向だ」(28日付日本経済新聞「事業規模28兆円」)

「大胆な金融緩和」が行き詰まりを見せたことで、安倍首相は「大胆な経済対策」に舵を切ったようだ。

安倍首相は「世界経済のリスクが日本経済にマイナスの影響を及ぼさないよう万全を期していく」ために、事業規模28兆円の大型経済対策を打ち出すことを表明した。

「大規模な対策を求める市場の期待に応える狙い」(同「経済対策 政策を総動員」)とのことだが、問題はその財源だ。

平成27年度の決算では、税収が政府見通しを下回ったことで経済対策の財源となる剰余金は約2500億円しかない。安倍首相が今回打ち出した28兆円という事業規模は、剰余金の100倍超、「真水」部分だけでも24倍という、まさしく「大胆な経済対策」。

経済対策の財源が乏しい中、参院選前に「民進党のように、赤字国債を発行してその給付を全て賄う、社会保障費を全て賄うということは、私は無責任だと思います」(首相官邸HP「平成28年6月1日安倍内閣総理大臣記者会見」)という「赤字国債無責任論」を展開した安倍首相が検討しているのは、使いみちを公共事業などに限った「建設国債」と「財政投融資」。

安倍首相は「建設国債」と「赤字国債」は異なるという理屈で、ブーメラン現象を交わそうという腹積もりのようだが、これは完全な詭弁でしかない。

国債発行の法的根拠の上では「建設国債」と「赤字国債(特例国債)」は別の物といえる。しかし、金融市場では両者の区別はなく取引されており、「赤字国債」だから金利が高いなどということはないし、安倍首相の公約である「2020年度のプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化」においても、「建設国債」と「赤字国債」は区別されていない。

また、「財政投融資」について財務省のHPでは「財投債(国債)の発行などにより調達した資金を財源として…」という説明が加えられていることからも明らかなように、財政投融資のために発行される「財投債」は国の借金だと認識されている。財務省の「国債管理政策の概要」でも「財投債」は「国債発行残高」の一部に含まれている。

「財務省は10日、国債や借入金、政府短期証券をあわせた『国の借金』の残高が2015年度末時点で1049兆3661億円になったと発表した。…(中略)… 今年4月1日時点の総務省の人口推計(1億2698万人、概算値)で単純計算すると、国民1人当たり約826万円の借金を抱えていることになる」(2016/5/10付 日経電子版:「国の借金」15年度末で1049兆円 国民1人当たり826万円))

メディアでは、日本の国債発行残高をもとに「国民一人あたり約〇〇万円の借金を抱えていることになる」という報道が繰り返されている。

こうした主張はそもそもおかしなものであるが、安倍首相の論理に従って「建設国債」と「赤字国債」を分けるのであれば、国民一人が抱える借金に「建設国債」や「財投債」を加えるというのは矛盾した話。

「平成28年度国債管理政策概要」(財務省)によると、28年度末の国債発行残高推計額(931.6兆円)のうち、「赤字国債」は60%弱の551兆円、「建設国債」は30%弱の275兆円、「財投債」は約10%の93.8兆円である。

「建設国債」や「財投債」は「赤字国債」と異なり次世代に資産を残すものであるという理屈が正しいのだとしたら、国の借金も、国民一人が抱える借金も、言われている額の半分だということになる。

安倍首相がどのような詭弁を使おうが、「国と地方の財政支出(真水)や財政投融資を合計した財政措置は13兆円」は、政府が借金をして調達することに変わりはなく、2020年度プライマリーバランスの黒字化という公約の達成を難しくするものである。

安倍首相が財源の裏付けのない「大胆な経済対策」を表明したことで、政府内からは「「政府と日銀は一体感が必要だ」と、暗に日銀に追加緩和促すような発言も出て来ている。

しかし、政府の経済対策に合わせて日銀が追加緩和に踏み切ったとしても、アナウンス効果以上の効果は期待するのは危険である。

安倍首相は「世界経済のリスクが日本経済にマイナスの影響を及ぼさないよう万全を期していく」と強調して、「財源の裏付けなき大胆な経済対策」に打って出た。

しかし、時を同じくして米国で開催されたFOMCでは「短期的な経済見通しへのリスクは低下した」という見解が示された。6月に開催されたFOMCで「ほとんどの参加者が英国民投票が米経済を妨げ、金融市場を混乱させる可能性があると指摘」していたことを考えると、FOMCメンバーは「世界経済のリスク」は低下しているという認識を持っていることになる。

FRBが「世界経済のリスク」が低下する方向にあるという認識を示すなかで、「世界経済のリスクが日本経済にマイナスの影響を及ぼさないよう万全を期していく」と強調して「財源の裏付けなき大胆な経済対策」を打ち出したる安倍首相。

安倍首相と黒田日銀総裁が、市場が求めているのは「大規模な対策」ではなく、「日本経済にマイナスの影響を及ぼす原因は国内にあり」という正しい原因分析に基づいた経済対策であることに気付かずに無駄な経済政策と金融政策を打ち出し続ける限り、アベノミクスが再度市場からの信頼を得られることは難しいといえる。


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コメント

デフレ経済政策

「日本経済にマイナスの影響を及ぼす原因は国内にある。」
では、その原因は?
デフレ経済下において、インフレ政策とデフレ政策を在させたことにあるのでは。
デフレ政策とは。
①消費税増税、②緊縮財政、③供給サイドの規制緩和。
アベノミクスは財政政策を標榜していたが、実は緊縮財政であった。
2016年度当初予算を2015年度補正予算とを比較すると、歳出が2兆9415億円減少。税収が1兆1800億円増大。4兆1215億円のデフレインパクトとなっている。熊本地震対応7780億円を差し引いても3兆3435億円のデフレインパクトになる。
デフレ経済とは民需が弱い状況。
金利が低下することが政府の財政出動の原資となる。民需を金利上昇によって圧迫しない期間は財政出動の好機。
典型的なケインズ政策の出番。
民需が回復するまで財政出動を継続する必要あり。
その間は財政赤字再建は棚上げにすること。
バランスシート不況を乗り切るには最も必要な政策ではないか。
1年後の日本経済はデフレから脱却できているか? 興味が尽きない!!

「アベノミクスの成果」に黄信号、来年度予算の財源探し難航も
.....

中国は日本製品対する関税のほか輸入増値税や輸入消費税を徴収しているため日本製は価格が高くなっている。EU域内も輸入関税だけでなくVATも課税対象にしている。日本の中国投資は資金を貢ぎ、ノウハウ、技術、ジョブクリエーション、マーケットの全部を出し続けている限り対中貿易赤字が続くだけで重要な国益を全く見いだせないし、日本国内生産の日本製はさらに消えていくだけ。予算と法人減税の財源として税収補填するため、日本も中国製輸入製品に対しては輸入増値税や輸入消費税を徴収し相互主義をとるべきだ。
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近藤駿介

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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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