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政治イベントの陰で進む景気鈍化 ~ 期限切れが近付く「合意」という魔法の言葉

英国議会でのEU離脱案の採決、最終盤を迎えた米中通商交渉。今週もその行方が注目される政治イベントが目白押しである。表の主役はこうした政治的重要イベントとなりそうだが、裏の主役を世界景気が張る可能性があることは、認識しておいた方がよさそうだ。

ここに来て、世界経済の先行きが大きな関心事となってきた。世界経済の先行きに関しては、IMFやOECDなどが既に世界経済の鈍化を公表して来ており、周知の事実とはなっている。問題はそれを各国の政策当局が認め、実際に政策を見直し始めて来ていることだ。

中国は5日に開幕した全人代で2019年の経済成長見通しを、28年ぶりの低成長となった2018年の6.6%を下回る「6.0~6.5%」へ引き下げた。中国の経済統計は日本の統計以上に信じられないものであるため、「6.0~6.5%」という目標数字の水準自体には意味はない。2018年の経済成長率は28年ぶりの低水準となったが、目標であった「6.5%前後」に対してはニアピン賞といえるものだった。したがって、重要なことは成長率の水準ではなく、中国が公式に経済成長の鈍化を認めたことだ。

欧州でも7日のECB理事会で、「少なくとも2019年夏まで」維持するとしてきた現在0%の主要政策金利などの水準を、「少なくとも年末まで」維持する方針を明確にした。それと同時に9月に新たな資金供給制度(TLTRO 3)を開始することを表明し、昨年12月で終了した量的緩和政策を復活させることを発表した。TLTRO3に関しては技術的な要因も多分にあるが、表面的には昨年末で終了させたはずの量的緩和政策を僅か9か月で撤回し、再度量的緩和政策を復活するというのは苦渋の判断だったといえる。

ECBが「少なくとも2019年夏まで」という表現で2019年秋以降の利上げを示唆してきたのは、任期が今年の10月までのドラギ総裁が任期中に利上げの道筋をつけて後任にバトンタッチするFRBスタイルを描いていたからである。

金融政策の正常化の手本としてきたFRBスタイルを踏襲することをECBが断念せざるを得なくなったのは、経済の鈍化とそれに伴う物価の下落圧力がECBの想定を上回るものだったからに他ならない。実際にECBは2019年の域内経済成長率の見通しをこれまでの1.6%から1.1%へと大幅に下方修正している。

米朝首脳会談や米中通商交渉、ブレグジットといった派手な政治的イベントの陰に隠れた格好になっているが、IMFやOECDといった公的な機関ではなく、政策当局が経済見通しを下方修正して実際の政策に反映し始めたという変化を見落とさないようにしなければならない。

具体的に自国の経済見通しを引き下げたわけではないが、金融政策の見直しに動いたという点においてはFRBも同じである。昨年9月のFOMCで「金融は緩和的」という表現を削除したばかりのFRBからも、最近ではFOMCが示してきた「年内2回」という利上げ見通しや、ドットチャート公表見直しを求める発言が出て来るなど、再び「金融は緩和的」に戻ろうとする力が働き始めている。

しかし、FRBは苦しい立場にある。それは、予想外の決裂した米朝首脳会談を終えたトランプ大統領が、帰国してすぐに「利上げを好み、量的引締めを好み、非常に強いドルを好む紳士がFRB内に1人いる」と、FRB批判をし始めたことだ。

既に「漸進的利上げ」を先送りし、バランスシート縮小を年内に止めることを明言しているパウエルFRB議長にとって、ドル高を止める手立てはないのが実情だ。CMEのFed Watchでも市場が見込む年内利上げ確率は0%。それどころか、年内に利下げが実施されるという見通しが20%前後に達しており、FRBの利上げ見通しを背景にドル高が進んでいるわけではないからだ。

為替というのは所詮「物々交換」である。「物々交換」ということは、交換相手の価値によって交換レートが変動するということだ。言い換えれば為替の価値は「絶対評価」ではなく「相対評価」で決まるということ。

FRBは「漸進的利上げ」を一旦見送り、バランスシート縮小を年内に止める方針を示すなど「ハト派」色を強めてきた。しかし、米国経済に対する見通しを明確に見直したわけではなく、現時点ではあくまで「金融引締め政策の停止」に過ぎない。こうした中で中国やECBが経済成長の鈍化を認め、金融緩和姿勢を明確にし、「FRB以上のハト派」姿勢を見せたことで、ドルの「相対的価値」は高まってしまっており、それがドル高を招いている。

2月の雇用統計を始め、米中通商交渉や政府機関の一部閉鎖によるノイズによって経済指標は強弱入り乱れ、経済の正しい姿が見えにくくなっている今、FRBとしても米国経済の方向性を断言しにくい状況にある。そうした中でのトランプ大統領からの口撃は、FRBがより「ハト派」姿勢を見せることを難しくしてしまっている。明確な理由なしに金融緩和姿勢を見せてしまえば、大統領の圧力に屈した格好になってしまうからである。

世界の主要国が経済見通しを下方修正したり、金融政策を見直したりしている中で、我が道を行くのが日本である。

1月の景気一致指数が3ヵ月連続でマイナスとなり、機械的に景気の基調判断が「下方への局面変化」に変更されたことが大きな話題となっている。3ヵ月連続マイナスとなった景気一致指数は、構成する9つの指標の内、速報が公表済みの7つの指標全てがマイナスになるという完全マイナス状況になっている。さらに先行指数はすでに5か月連続でマイナスになっており、経済指標面からは景気が鈍化局面に転じていると見るのが自然な状況になっている。

それにも拘らず、政府は「景気の回復基調は変わらない」と依然として「戦後最長の景気回復」が続いていることを強調する強気の姿勢を崩していない。国民の8割が「戦後最長の景気回復」を実感できていないという「景況感」の悪化に加え、経済指標面でも景気後退が示され、政府だけが景気回復を実感するという摩訶不思議な状況になっている。

勿論、「戦後最長の景気回復」の中で「異次元の金融緩和」を続けるという矛盾した政策を採り続けてきた日本に、景気が鈍化に転じたところで打ち出せる政策はほぼないのが実情である。

こうした現実を背景に、2018年に日本株を5兆7449億円売り越した海外投資家は、2019年に入っても2か月間で9805億円とほぼ1兆円に及ぶ大幅な売り越しを記録している。

10月に予定されている消費増税で内需が冷え込むことが確実なうえ、3月中にも始まる可能性のある日米貿易交渉によって外需の拡大も難しくなる可能性の高い日本株が魅力的に映らなくても不思議ではない。その結果日本株の買手は「景気の回復基調は変わらない」と信じ続ける政府の意向に従う日銀だけの状況になっていしまっている。

もはや日本には「円安・株高による景気回復」を演出する余力は残っていない。MSCIが中国A株の構成比を11月に向けて段階的に引き上げるというテクニカル要因によって上海市場が大幅上昇するという一時的な追い風は吹いたが、それも一服した今、日本株には追い風は期待できない状況にある。

近いうちに何かしらの決着を見るのが確実な米中通商交渉の最大のリスクは、「合意=歓迎」という表面的な方程式ばかりが強調され、実際に市場がどのような合意を歓迎するのか曖昧なところである。

トランプ大統領も「中国と合意すれば、株価はとても大きく上昇する」と米中通商交渉の「合意」が株高に繋がることに期待する発言をしているが、過度な期待は禁物である。中国が米国に譲歩し続ける交渉期間中は「合意」という言葉は市場を押し上げる魔法の言葉になり得る、交渉が何かしらの決着がついた時点で「合意」という言葉は魔法の言葉とはなり得ないからだ。米中通商交渉が何かしらの「合意」に達した後、市場の注目は陰の主役である経済見通しや各国の政策に転じる可能性があることは念頭に置いておいた方が賢明そうだ。
(このコラムは、3月10日付有料メルマガ「元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚」に掲載されたものです)
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近藤駿介

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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

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1989年12月29日、日経平均3万8915円~元野村投信のファンドマネージャーが明かすバブル崩壊の真実

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