2023/01/26
1000億投信が日本株買いの号砲???~90年当時と同じもの、異なるもの
「日本では久々の大型投信の設定に沸く。野村アセットマネジメントが25日に設定した単位型の投資信託「(早期償還条項付)リオープン・ジャパン2301」。…(中略)… 日本株を投資対象にした投信で当初設定額が1000億円の大台に乗せるのは、同じく野村アセットが15年4月に設定し1057億円を集めた「日本企業価値向上ファンド(限定追加型)」以来だ」(26日付日経電子版 「株、8年ぶり「1000億円」投信が話題 日本買いの号砲か」 )90年のバブル崩壊前まで投資信託のほとんどが「単位型」であった。しかし、「追加型」が99%以上を占める今日で「単位型」は珍しい(投信の主役が「単位型」から「追加型」に変わっていった経緯、業界の裏事情については拙著「1989年12月29日、日経平均3万8915円」に詳細に記録したので是非読んで頂きたい)。
以前の「単位型」との違いは、解約ができない「クローズド期間」が設けられていないことと「早期償還条項」が付けられているところ。
「クローズド期間」が設けられていないということは、「追加設定が出来ない追加型」ということであり、2~3年の「クローズド期間」が設けられていた昔の「単位型」とは商品性が全く異なるし、運用方針も全く違ってくる。
広義での「追加型」であるため、運用方針は「株式の組⼊⽐率は、原則として⾼位を基本とします」と「追加型」とほぼ同じ。したがって、パフォーマンスは市場動向次第で運用担当者が提供する付加価値が入る余地はほとんどないのが実情。
記事を読んだ際に、「単位型」の運用経験のあるファンドマネージャーがほとんどいない中で大丈夫かという懸念を感じたが、「実質追加型」であることを知って納得。
「追加型」のパフォーマンスは投資家の「自己責任」。一方「単位型」は「パフォーマンスは運用担当者責任」で「商品を選ぶのは投資家の自己責任」という二重性を持っている。ヘッジファンドはともかく、サラリーマンファンドマネージャーで「パフォーマンスは運用担当者責任」を負って運用できる人間はほとんどいないはず。
「早期償還条項付」というのも懐かしい。90年代半ば、野村アセットマネジメントで国内株式のファンドマネージャーだった小生は「繰上げ償還条項付国内株式投信」を提案したことがあるからだ。
日本初のETFである「日経300上場投信」の設定に社内で唯一反対し続けたことに対する意趣返しだったのか、小生のその企画提案書は当時の商品企画部部長の怒りを買い、「こんなアイディアは昔からあるものだ」という罵声と共にゴミ箱に直行となった。サラリーマンファンドマネージャーだった小生は意に反して日本初のETF である「日経300上場投信」設定の責任者の重責を担わされ成功裏に上場させたが、最後まで強硬に反対し続けたというマイナス点の方がずっと大きかったようだ。それは「日経300上場投信」の上場を成功させたとして企画部門は「社長賞」を受けた一方で、運用責任者であった小生には何のご褒美も出なかったという明らかな形で示された。
ともかく「高位組入れ」を謳ってしまって資金流出はあれど追加設定のない「追加設定なき追加型」の運用は難しい。パフォーマンスは市場動向頼み、神頼みといったところ。
記事に紹介されている「日本企業価値向上ファンド(限定追加型)」は、ほぼ7年間の運用ののち21%強の上昇で償還となっている。21%強というパフォーマンスを聞くと素晴らしい運用成績と思われるかもしれないが、年率に直すと2.78%程度。このファンドの運用期間中日経平均が44.3%、Topixが26.5%上昇していることを考えると、結果論としてはインデックスファンドに投資しておいた方がよかったということになる。
さらに、その期間NYダウの上昇率は93.4%、ナスダックに至っては173.4%だったので、日本株に投資するという投資判断自体に問題があったということ。とても1057億円を集めた「日本企業価値向上ファンド(限定追加型)」が株式市場の起爆剤になったとは思えない。実態は力強く上昇したNY株式市場の金魚の糞として最低限のパフォーマンスを出せたというところで、日本株の起爆剤からはほど遠かったといえる。
「久しぶりの大型設定に日本株買いの号砲かと市場は色めきだつ」(同日経電子版)
株式市場ではこうした期待が出ているようだが、高々1000億円程度でパフォーマンスは市場動向次第という「追加設定なき追加型」が株式市場の救世主になると考えは90年代から変わっていない。Good Luck。
スポンサーサイト
コメント