責任がないことをアピールするために出された「国民へのメッセージ」

実生活でも金融市場でも、人にとって恐ろしいのは、「目に見えない敵」である。敵の実態が掴めれば、損失を直ぐに埋め合わせることが出来なくても、一定の精神的安心感は得られるものである。今回の東日本大震災がこれまでの災害と大きく異なる点は、放射能という「見えない敵」が存在することだ。阪神大震災でも、9・11同時多発テロも、前代未聞の大惨事ではあったが、比較的短い時間で「最悪の事態」を把握出来た。これに対して今回の東日本大震災は、「見えない敵」が存在することで、未だに何処が「最悪の事態」なのかが全く見えて来ない。これが国民の不安感を掻き立てる大きな原因になっている。

そうした中、東日本大震災発生から2週間にあたって、菅首相が「国民へのメッセージ」を発表した。どの様にして国民の間に拡がる不安感を抑えようとするのかと注目してみていたが、直ぐにこれが過大な期待であったことを思い知らされる結果となった。

菅首相はまず「被災された多くの方々に心からお見舞い申し上げる」と切り出した。これは災害発生時の定型文ではあるが、多くの国民が政府の対応の拙さが被害を大きくしたと思っていることを認識していれば、もっと違った表現になった筈である。こうした発言は被災者へのお見舞いよりも、「一連の災害は不可抗力で責任は私にはない」と責任逃れをしている様に聞こえてしまう。

お見舞いの言葉に続けて菅首相は、福島第一原子力発電所の事故について「悪化を防ぐ形で対応しているが、予断を許す状況に至っていない」と述べた。この発言は、福島第一原子力発電所の状況が全く改善の方向に向かっていないこと、放射能汚染が拡大する可能性があることを示唆したもの。

水道水から放射性物質が検出されたことに対して、厚生労働省は、「あくまでも『1年間、相当量の水を飲み続けた場合』の規制値であるため、短期的であれば多少摂取しても問題ない」と繰り返し説明して来ている。しかし、「予断を許さない状況」であるならば、国民は「相当量の水を飲み続ける」リスクに晒されていることになり、厚生省の説明は何の意味もないものになる。

放射性物質が検出される度に、政府は「直ぐに健康に悪影響を及ぼす訳ではない」という決まり文句で国民の不安を抑えようとしているが、これも何の慰めにもならない。「直ちに健康に悪影響を及ぼすもの」は「毒」である。国民は「毒」に不安を抱いている訳ではなく、将来的に出て来るかもしれない「目に見えない敵」に怯えているのだから。

そもそも、放射性物質を含んだ水道水を飲み続けた人間がこの世に存在しない以上、「1年間、相当量の水を飲み続けなければ問題ない」という説明には「科学的根拠」に乏しいものである。

実際に24日に起きた福島第1原子力発電所3号機の作業員被曝事故も、厚生労働省が定めた250ミリシーベルトという被曝限度を下回る170~180ミリシーベルトの放射線量で発生している。これによって、多くの国民は政府が定める安全基準に「科学的根拠」はなく、政府が定めた基準値以下でも「直ちに健康に悪影響を及ぼす」ことがあることを認識してしまっている。首相はお役人が作成したこれまでの決まり文句では国民の多くは納得出来ない状況になっていることをまず認識するべきだった。マスメディアを通して国民の放射能に対する知識が上昇して来ていることを考えると、今後はもう少し「科学的根拠」のある説明が必要不可欠である。

また、菅首相は「国民へのメッセージ」を読み上げた後に記者の質問に応じ、福島第1原子力発電所の周辺住民への避難・屋内退避指示に関して、「原発の状況や放射性物質の予測、各地で得られたモニタリング数値などに基づき、原子力安全委員会が中心に分析、判断したうえで最終的に政府として出している」と述べた。そのうえで、「これまで専門家の判断を尊重した対応だったが、これからもそうした姿勢で臨んでいきたい」と専門家に責任を押し付ける発言し、最後まで「自分には責任は無い」ことをアピールすることを忘れなかった。

信頼感が乏しいから全ての言葉が軽く見えるのか、言葉が軽いから信頼感を持てないのか。1週間ぶりに開かれた首相の記者会見は、「国民へのメッセージ」も含め、国民を奮い立たせるものではなく、自らに責任が無いことをアピールすることに主眼を置いた、中身の乏しいものだった。




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近藤駿介

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