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QE3言及せず ~ バーナンキFRB議長講演が示唆したFRBの矛盾と限界

26日、ワイオミング州ジャクソンホール。注目されて来た米のイベントは概ね「想定内」の結果となった。

金融市場がこの数週間最も注目して来たイベントでは、バーナンキFRB議長は「FOMCにはなおも複数の景気刺激手段があり、その検討を続ける」と述べるに留まり、大方の予想通りQE3に関する具体的な言及はしなかった。これに対して若干想定外であったのは、次回9月20日に予定されていたFOMCの日程を1日から、20、21日の2日間に延長したこと。

1年前、バーナンキFRB議長が同じ場所でQE2を示唆した時とはインフレ状況も異なっており、今回はQE3に関する具体的言及をしないとの見通しが大勢となっていた。そうした中で注目されたのは議長がQE3への言及なしで、如何にして金融市場に将来に対する期待を残すかということ。

これに対してバーナンキFRB議長は、
 ①「緊急対策を講じるほど米国景気は悪化していない」というFRBの判断を伝えることで市場の不安心理拡大を抑制し、
 ②「FOMCは金融面で追加の景気刺激策に利用可能な一連の手段を有している」という発言を通して「必要に応じて景気回復を助ける手段がある」という意思を表明することで投資家や国民に安心感を与え、
 ③次回のFOMC日程の延長によって「より十分な議論が可能になる」とFOMCの政策遂行の真剣さを示す。
という「言葉」でQE3に関する具体的言及をしないことによる悪影響を最小限に抑える配慮を見せた。

バーナンキFRB議長のこうした配慮もあり、QE3に関する具体的言及がなかったことで一旦は200ドル以上下落した米国株式市場は反発に転じ、前日比134ドル上昇となった。しかし、同日米国の第2四半期実質GDP成長率が前期比年率1%増と、速報値の1.3%増から下方修正され、2009年半ばから始まった景気回復期で最も弱い伸びだったことが示されたこともあり、米国10年債利回りは前日比0.04%低下(価格は上昇)の2.19%となった。バーナンキFRB議長の「言葉」に将来への期待をつないだ株式市場とは対照的に、債券市場は現実の厳しさに目を向けた格好。

債券市場が厳しい現実に目を向けるのは、「FOMCは金融面で追加の景気刺激策に利用可能な一連の手段を有している」という発言を額面通り受け取っていないことを示唆したもの。

FRBが採用する可能性のある政策として、バーナンキFRB議長は下記の様なものを挙げて来た。
 ① 追加的債券購入(QE3)
 ② 超低金利期間の表明
 ③ FRBのバランスシートの長期化(オペレーション・ツイスト)
 ④ 準備預金の利率を引き下げ(リーマン・ショック後.25%付利)

前回8月9日に開催されたFOMCで上記の「② 超低金利期間の表明」を行っており、QE3以外に残る政策は「③ オペレーション・ツイスト」と「④準備預金の利率引き下げ」だけである。

FRBのバランスシートの規模に与える影響という面では「③ オペレーション・ツイスト」は「中立」、「④ 準備預金の利率引き下げ」は「縮小方向」という政策で、バランスシートを「拡大」するQE3とは性質的に異なるもの。

FRBがバランスシートの「拡大」だけでなく、「縮小」に伴うリスクも避けたいと考えているのであれば「③ オペレーション・ツイスト」を選択する可能性が高い。しかし、FRBが「景気刺激のためポートフォリオにある期間が短めの証券を売却し、長めの債券を購入する」ことでバランスシートの長期化を図る「オペレーション・ツイスト」の金融市場に対する影響度は全くの未知数。さらには長期金利の低下を促す(イールドカーブのフラットニング化)という観点では「オペレーション・ツイスト」は前回9日のFOMCで打ち出した「超低金利期間の表明」と同質のもので、政策面でのダブり感は否めない。

「④ 準備預金の利率引き下げ」は、平時であればFRBのバランスシートの「縮小」をもたらすものだが、リスク回避を目的に準備預金に資金が滞留しているとしたら、利率を引き下げたからといってその資金がリスク資産に向かうとは考え難い。要するにこの政策は現時点ではFRBのバランスシートの「縮小」をもたらすリスクは少ない一方、資金をリスク資産に向かわせる効果も低いと思われるもの。

こうしたことを考えると、QE3以上のインパクトを与えられる政策をFRBが持ち合わせている保証はなく、「FRBは最終的にQE3に追い込まれる」ことを否定出来ない状況にあることに変化はない。

QE3への大きな課題は8月のFOMCで反対票を投じたフィッシャー・ダラス連銀総裁とコチャラコタ・ミネアポリス連銀総裁、プロッサー・フィラデルフィア連銀総裁という3人のタカ派* 理事の存在。
(注)タカ派…インフレをより懸念、ハト派…成長促進を望む

コチャラコタ米ミネアポリス地区連銀総裁は8月のFOMC決定に反対した理由について、「昨年11月以降、インフレは上昇しており、失業率も依然高いものの改善しているという経済変化に対し、一段の金融緩和を行うことは適切な対応ではないと考える」と述べている。
こうしたFOMCメンバー内の意見対立を考えると、次回のFOMC日程の2日間への延長は、「より十分な議論」のためというよりも、「議論が紛糾する可能性が高い」ことを示したものとも言える。

FRBは、連邦準備法で「物価安定」と「最大限の雇用促進」という矛盾した2つの責務を負っており、「景気減速下での物価上昇局面」では、タカ派とハト派の対立が表面化し易い宿命にある。米国内ではFRBの責務をもともとの「物価安定」だけに戻すことも検討されているが、そうなると「景気減速下での物価上昇局面」では金融緩和は困難になってしまうことになり、QE3等の金融緩和策は議論の対象ではなくなってしまう。

具体的政策対応が9月20日、21日に開催される次回のFOMCまで先送りされたことで、金融市場は3週間ほどの間また発表される経済統計に一喜一憂させられる展開を余儀なくされることになった。FRBの打ち出せる政策を考慮すると、金融市場が落ち着きを取り戻すためには、「底割れしない景気とインフレの鈍化」、あるいは「予想以上の景気回復と加速しないインフレ」という組合せが必要な状況である。金融市場にとって最悪のシナリオは、「景気底割れ懸念の上昇と、高止まりするインフレ」という組合せであるが、足元の景気動向を見る限り、このシナリオの実現性が低いとは言えない状況にある。

この先「緊急対策を講じるほど米国景気は悪化していない」というバーナンキFRB議長が示した見通しが正しいことが証明されて行くのか、「FOMCは金融面で追加の景気刺激策に利用可能な一連の手段を有している」とした「手段」を具体的に示せるか。今回のジャクソンホールで行われたバーナンキFRB議長の講演は、FRBも正念場を迎えていることを感じさせるものとなった。
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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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1989年12月29日、日経平均3万8915円~元野村投信のファンドマネージャーが明かすバブル崩壊の真実

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