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ここまでやるか ~「でっちあげ国際公約」を正当化するための歪んだ主張

個人消費は工夫でもっと掘り起こせる

日本経済新聞の質の低下には大分慣れっこになって来ていたが、16日付のこの社説には驚かされた。このような意見が堂々と新聞社の顔とも言える社説に掲載されるという事実は、想像以上に質の劣化が進んでいるか、想像以上に事実を歪めてでも自らの主張に沿う方向に世論操作をする意思が強いかのどちらかである。そして、どちらであったとしても日本にとって「悪夢」である。

「社会が成熟し、国内の個人消費はもうあまり伸びない。この見方は本当だろうか。今月発表された流通業の決算や、震災後の消費者行動は、国内市場に開拓の余地が大きいことを示している。成長の機会を逃すべきではない」という書き出しで始まるこの社説は、一言で言えば「個人消費を掘り起こすことで日本は成長できる」ということを主張している。

その論拠としてまず挙げているのが、「コンビニエンスストア大手5社の上期決算は全店売上高、営業利益ともそろって増加した。総菜などに力を入れ、若い男性以外の利用増を目指す中で大地震が発生。身近な食料品や生活用品の供給基地として見直され、女性や高齢者に客層が拡大した」ということ。

確かにこうした指摘は事実であるが、これを以て「国内市場に開拓の余地が大きい」と決め付けるのは余りに短絡的である。

日本チェーンストア協会が9月に発表した販売統計によると、8月の販売額は前年同月比で▲2.2%(店舗調整後)と3ヵ月ぶりのマイナスとなった。チェーンストアの販売額は2011年上期も前年同期比で▲0.3%(同)と、弱含みとなっている。

また、全国百貨店売上も8月は▲1.7%(前年同月比、店舗数調整後)と2ヶ月連続のマイナス。

要するに「コンビニエンスストア大手5社の上期決算は全店売上高、営業利益ともそろって増加した」のは、少ないパイをスーパーや百貨店から奪い取ったからに過ぎない。つまりこれは「ミクロ」の問題であり、「マクロ」の問題ではない。

個人消費の分野で「国内市場に開拓の余地が大きい」と主張するためには、「マクロ」面での裏付けが必要であるが、「マクロ」面からみた個人消費は惨憺たるものである。

まず、GDP統計。2010年度の「家計最終消費支出」は272兆8529億円(名目ベース)で、前年比1兆4401億円(▲0.53%)の減少、直近のピークである2007年度比では実に14兆6000億円(▲5.1%)の減少となっている。さらに10年前の2000年度比でも5兆108億円(▲1.8%)の減少となっている。2010年の「家計最終消費支出」は、1995年以来の水準に落ち込んでおり、「マクロ」面で個人消費が縮小していることは疑う余地はない。

しかし、GDP統計の「家計最終消費支出」が低迷していることを以て、直ちに「国内市場に開拓の余地が大きい」という主張を否定出来る訳ではない。消費者が、消費余力があるにも拘らず消費を控えている可能性があるからだ。

そこで総務省の「家計調査」。この統計によると、2010年の勤労者世帯(二人以上の世帯)の1か月間の平均「世帯主収入」は、41万7281円と2009年比で▲0.5%減少、2000年比では額で4万3000円、率にして▲9.3%も減少している。

こうした世帯主の収入の減少を補っているのが「世帯主の配偶者の収入」。こちらは5万7891円と、2009年比で+2.4%増加、2000年比では金額で3,168円、率にして+5.8%の増加となっている。
「世帯主の配偶者」が頑張っているものの、家計全体の「実収入」は52万692円と、2000年の56万2754円と比較して▲4万2062円、率にして▲7.5%の減少となっている。

これに対して2010年の消費支出は、31万8315円と2009年比で▲0.2%減少、2000年比では金額にして▲2万2581円、率にして▲6.9%の減少となっている。

こうした統計から伺える個人消費の実態は、「減少する世帯主の収入を配偶者の収入で穴埋めし、消費支出を抑えて辛うじて生活を維持している」という涙ぐましい姿である。

この家計調査で注目されるのは、「非消費支出(≒税金+社会保険料)」。家計収入が減少する中、こちらの項目は、2010年は9万725円と前年比で411円、率にして+0.46%の増加、2000年比でみると金額で2,382円、率にして+2.7%の増加となっている。その結果「実収入」に対する「非消費支出」の割合は2000年の15.7%から2010年には17.4%まで1.7%も上昇してしまっている。

家計全体の「実収入」が減少する中で「非消費支出」が増加したことで、家計の「可処分所得(=実収入‐非消費支出)」も減少し、2010年では42万9967円と、2000年の47万4411円から4万4444円、率にして▲9.4%も減少してしまっている。

そして、「消費性向(可処分所得のうち消費支出される割合)」は2010年こそ74.0%と2009年の74.6%から僅かに低下(消費を減らした)ものの、2000年の72.1%から+1.9%上昇(消費を増やした)してしまっている。これは、消費を控える以上に所得の低下が大きかったことを意味している。

このような「家計調査」結果から言えることは、「消費者が、消費余力があるにも拘らず消費を控えている可能性は全くない」ということである。

「個人消費は工夫でもっと掘り起こせる」という日本経済新聞の主張は、「ミクロ」次元での話であり、ある企業が「工夫」で個人消費を掘り起こしても、それは他社の売上を奪っただけのことなので、「マクロ」次元でみれば、それによって国の経済が成長することはない。

日本経済新聞の「個人消費を掘り起こすことで日本は成長できる」という主張が実現するためには、「実収入」の減少と、「非消費支出」の増加というダブルパンチによって「可処分所得」が大幅に減った家計が、貯金を取り崩したり、借金をしたりして大幅に消費を増やすことで内需が回復し、それによって企業業績が好転、給与の増加を通して家計の「実収入」が増加する、という「夢の様な経済サイクル」が必要である。こうしたサイクルは机上では有り得ることかもしれないが、現在の日本の経済状況では机上の空論でしかない。

個人消費を成長のエンジンにするための必要条件は、「可処分所得」の増加である。そして「可処分所得」が増えるためには、「所得の増加」か「税金及び社会保障費の減少」が必要不可欠である。これは経済学ではなく算数の問題。
しかしながら野田内閣は、「税金及び社会保険料」を引上げた上、年金給付を減額、給付年齢の引上げという「可処分所得」を削り取る政策を推し進めている。これで家計の「可処分所得」を増やすことが出来たならば、間違いなく「駅前総理」か「素人財務相」は日本人初のノーベル経済学賞を受けることになるだろう。

要するに、「家計最終消費支出」の低迷は家計の収入減を反映した結果であり、政府が「デフレ政策」を取り続ける限り「国内市場に開拓の余地が大きい」という日本経済新聞の主張は大きな誤りだということである。

日本を代表する日本経済新聞が、こうした誤ったオピニオンを掲載するのは、日本は消費税増税に耐えられるだけの経済状況にあるという誤った認識を国民に植え付けることで、「素人財務相」がG20で行った消費税引上げによる財政健全化を図るという「でっちあげ国際公約」を後押しする狙いがあるのだろう。

しかし、家計は「実収入」が落込む中、この10年で「実収入」の約2%もの負担増を受入れ、既に「実収入」の18.7%もの「非消費支出」(内訳:直接税≒7.7%、社会保険料≒9.7%)を負担していることを無視してはならない。(個人と法人を単純に比較することは出来ないが、法人税の実効税率は「利益」の40.69%。ちなみに、法人税減税を要望する経団連の米倉会長が会長を務める住友化学の「売上」に対する「法人税、住民税及び事業税」の比率は、2006年度から2010年度の平均で1.82%である。)

マクロ指標を理解する能力が備わっていることが前提になってしまうが、「良い提案があれば『虚心坦懐』に耳を傾ける」としている「駅前総理」には、日本経済、日本国民が厳しい状況にあることを示すマクロ指標に対しても「虚心坦懐」に耳を傾けて貰いたいものである。間違っても「でっちあげ国際公約」を実現するために「虚心坦懐」にマクロ指標に耳を傾けず、捻じ曲げた理屈を作り上げる財務省官僚や日本経済新聞の意見を盲目的に受け入れ、これ以上国民に負担を強いることはあってはならない。
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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

著書

202X 金融資産消滅

著書

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著書

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