「今やってはいけないことをやり過ぎる」政府と、「打つ手があるのに打とうとしない」中央銀行

また「じわり」と円が最高値を更新した。26日のロンドン外国為替市場で、円相場は一時1ドル=75円71銭まで上昇し、25日に続いて連日での最高値更新となった。今回の円最高値更新に対して「素人財務相」は、「投機的な動きに対しては必ず断固たる措置をとる」と、毎度お馴染みの「御利益のない呪文」唱えるにとどまった。ただ、少し前まで添えられていた「過度な変動や無秩序な動き」という文言は、何時の間にか呪文から削除されている。

日本経済新聞は、26日付の記事の中で「短期的な需給要因も最高値更新の一因になった。オプション取引に伴う思惑的な円買い・ドル売りが入ったという」と、オプション取引に対する素人丸出し解説を加えている。金融市場では日常的にオプション取引が行われており、毎日「オプション取引に伴う『思惑的な』円買い・ドル売り」で動くわけではない。

オプションに絡む「短期的な需給要因」が演出する価格変動は、3月の東日本大震災後の円急騰のように「短期間での大幅な価格変動」を引き起すのが特徴で、今回のように毎日数銭ずつ「じわり」とした円高は、新たなポジションが積み上げられる局面で多く見られるもの。

「過度な変動や無秩序な動き」を伴わない「円高」は、「断固たる措置を取る」という呪文を繰り返す「素人財務相」の「介入」を難しくするもの。何故ならば、「過度な変動や無秩序な動き」が見られない中での「介入」は、為替市場の「水準」そのものをターゲットにしたものになるからである。一度「水準」そのものをターゲットしたかのような「介入」を行ってしまうと、その「水準」を守れるか否かに「政策当局の信認」がかかってしまうリスクを背負い込むのと同時に、「水準」は市場に任せることを基本とする「他国からの支持」も受け難いからである。
一部には「じわり」とした円高は、「介入を催促する動き」という見方もあるが、「過度な変動や無秩序な動き」が見られない中での「介入」は、「政策当局の信認」と「他国からの支持」の両方を失いかねない「危険な賭け」となる。

古川経財相は26日の衆院内閣委員会で、政府が21日に円高対策を閣議決定した後も歴史的な円高水準が続いていることに対して「これで打つ手がない訳ではない」と強調した。御本人はバーナンキFRB議長の発言に倣ったつもりだろうが、「まだ何も手を打っていない」現状でのこうした発言は、「悪い冗談」にしか聞こえない。

政府の問題は、「復興増税」「TPP拙速結論」「消費税増税」と等々「今やってはいけないことをやり過ぎる」こと。これに対して「打つ手があるのに打とうとしない」問題児は中央銀行。

その「打つ手があるのに打とうとしない」張本人の日銀からは、相変わらず危機感は伝わって来ない。日銀は円相場の相次ぐ最高値更新など市場の混乱で日本経済が下振れするリスクが高まっていると判断、27日の金融政策決定会合では、国債や社債などを買い入れる基金の増額を軸に「追加緩和策」を協議する方針だと報じられている。

具体的には、現在50兆円の資産買い入れ基金の規模を5兆円程度積み増すことに加え、現在は残存期間2年以下に限定して買い入れ対象国債の年限を伸ばし、長期金利の一段の低下を促すことで、企業や家計の心理が冷え込むのを回避する狙う案も浮上しているようだ。

「追加的金融緩和」の実行は当然だが、5兆円程度の資金供給増(マネタリーベースの増加)では欧米との資金供給格差は全く解消されず、その効果は殆ど期待出来ない。「円高継続」を前提とした「円高への総合的対応策」の事業規模が約23兆6000億円(国費は約2兆円)であるのに対して、「円高阻止」のためにマネタリーベース増加額が5兆円というのは、政府・日銀が「円高阻止」に「断固たる姿勢」を持ち合わせていなことを印象付けるものである。「後手」に回った挙句の「小出し」で、長期低迷する日本経済を「物価安定の下での持続成長」路線に復帰させられると思っているのだろうか。

白川方明日銀総裁は26日、衆院財務金融委員会に出席し、信じ難いような発言を連発した。

まずは、「物価安定の下で経済が持続成長」に早く復帰できるよう「頑張る」と強調、金融政策について「効果的な方法を常に考えたい」と述べた。
金融政策について「効果的な方法を常に考える」のは中央銀行総裁の責務であり、それを「考えたい」とするのは「職務怠慢」でしかない。また、「趣味」ではない「業務」の分野で、「頑張る」ことで「結果」を問われないで済むのは新人社員位であり、中央銀行総裁が「頑張る」ことで評価されると考えているとしたら、恐ろしい話し。一部で「趣味は金融政策」などと言われる白川総裁は、「金融政策」を「趣味」として捉えているのかもしれない。

白川日銀総裁のトンでも発言はまだまだ続く。白川日銀総裁は、現行のペースで国債買い入れを進めれば、今後数年で、長期国債の保有残高を日銀券の発行額内にとどめる「銀行券ルール」の上限に到達すると指摘。日銀は先進国で最も多額に国債を買っており、「実質ゼロ金利政策」を含めさまざまな方法で「日銀はしっかりと努力している」とも強調した。さらに、「実質ゼロ金利政策」のメリットと副作用を考えたうえで現行の政策になっているとし、「金融緩和だけではデフレから脱却できない」とも述べた。

日銀総裁が本当にこのような認識を持っているとしたら、完全に「適正を欠いている」。

長期国債の保有残高を日銀券の発行額内にとどめる「銀行券ルール」は、日銀が設けている「自主ルール」に過ぎない。つまり、「銀行券ルール」を盾に「追加的量的緩和」を拒むのは、「国の経済よりも自らの組織を優先する」ものである。

また、日銀総裁は「実質ゼロ金利政策」を持ち出して「日銀はしっかりと努力している」というのも大きな間違いである。

まず「実質ゼロ金利政策」というのは非常に定義が曖昧な表現である。これを「政策金利を0~0.1%とする」ことだと定義すれば、日銀総裁の発言はウソではない。しかし、「実質政策金利(政策金利‐物価上昇率)」のことであれば本当ではない。
物価上昇率に直近の「消費者物価指数(8月で前年同月比+0.2%)」を用いれば、確かに「実質政策金利≒0%」と言える。しかし、2011年4‐6月期の「GDPデフレーター(前年同期比▲2.2%)」でみると「実質政策金利≒2%」であり、「実質ゼロ金利政策」とはなっていない(「名目政策金利」はマイナスにならないので、物価下落分「実質政策金利」は高くなる)。こうした定義を曖昧にして「実質ゼロ金利政策をとってしっかりと対応している」というのは、姑息な弁解でしかない。

さらに無視できないことは、欧米の「実質政策金利」が米国▲3.9%(=FFレート0%‐9月CPI3.9%)、欧州▲1.5%(=政策金利1.5%-9月CPI3.0%)であり、日本の「実質政策金利≒2%」は欧米と比較してかなり高い状態になっていること。

「名目政策金利」をこれ以上引き下げることが出来ないため、欧米に比べて高い状態になってしまっている「実質政策金利」を引き下げることが困難である状況下で、「資金供給量」も欧米に比較して少ないのであれば、「金利」「資金供給量」両面で円高圧力が加わるのは当然である。「金利」面での円高圧力を低下させることが現実的に難しいなかで、「資金供給量」の面での円高圧力を低下させることを拒み続ける姿勢からは、「日銀はしっかりと努力している」と評価することは出来ない。

「打つ手がない訳ではない」。日銀は古川経財相の発言が自らに向けられていることを肝に銘じるべきである。国民が望む中央銀行総裁は、「頑張る」ことで評価して貰いたいと言うような人物ではなく、「結果」を出す責任感を持った人物である。白川日銀総裁は、明らかに国民の期待する中央銀行総裁ではない。

日銀の独立性を高めることを目的とした日銀法改正で「日銀総裁罷免」は難しくなっている。しかし、白川総裁が「日銀の独立性」という名目で、「日本の経済」よりも「日銀組織の維持・体面」を重視する様な姿勢を続けるのであれば、国民のためにもお引き取り願うべきである。「失われた20年」の間、「打つべき手があるのに打とうとしない」日銀に対する批判は高まって来ており、「日銀法再改正」を唱える意見も出て来ていることを白川日銀総裁も認識するべきである。「金融政策が趣味」であっては困るのだ。
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近藤駿介

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