EU「包括戦略合意」が浮かび上がらせた「政府・日銀の詭弁」

欧州連合(EU)は26日、加盟27カ国の首脳会議とユーロ圏17カ国の首脳会議を相次いで開催。この21ヶ月間で14回目のサミットで、ようやく「債務危機封じ込めの包括策」で合意した。その内容は、「金融機関の資本増強」、「ギリシャの債務削減(ヘアカット)」、「欧州金融安定基金(EFSF)拡大」の3点。注目のギリシャの債務削減に伴う民間負担割合は50%で合意した。

今回の「包括戦略合意」でユーロの危機が去ったかというと、そうではない。メディアを通して伝えられている通り、「金融機関の資本増強」と「EFSFの拡大」の資金を誰からどのように調達するのかという大きな課題が解決出来たわけではない。今回の合意は、「方向性、理念の合意」の段階に過ぎず、これを実現して行くにはまだまだ解決しなければならない厳しい現実が待ち受けている。

それでも金融市場が今回の「包括戦略合意」を歓迎したのは、1)EFSF拡大に向けて「中国」という資金面での裏付けを持つ大スポンサーの名前が具体的に上がって来たこと、2)EFSFのレバレッジを利用した拡大にECBが関与することを避けられたことで、中央銀行の信任(≒ユーロの信認)を維持出来たこと、3)国際スワップ・デリバティブズ協会(ISDA)が、今回EUが纏めたギリシャ支援の民間負担について「自発的参加で、債権者すべてが削減対象になるわけではない」ことを理由に、CDSの「イベント条項(=デフォルト)に当らない見通しだ」という見解を示したこと。

今回の「包括戦略合意」で欧州危機が解決される訳ではなく、今後の紆余曲折は必至の情勢だが、金融面から「直ちに」悪影響を及ぼすリスクが一先ず軽減されたことは確かである。

今回の「包括戦略合意」に至る過程で浮かび上がって来たのは「米国のアシスト」。

まずは、NYに本部を持つISDAが、「包括戦略合意」決定後「直ちに」「イベント条項に当らない」との見解を示したこと。これが実行されれば、既存の国債の元本を上回って契約されている、CDSに伴う追加的損失のリスクは相当程度軽減されることになる。 欧州の財政危機が解決出来る訳ではない上、本来のCDSの目的である「損失補償」機能を犠牲にするものの、金融市場への「最悪の事態」を食い止めるのには一定の効果は期待出来るもの。

次はこのところ続いて来た、FOMCで常に投票権を持つメンバー(イエレンFRB副議長、タルーロ理事、ダドリーNY連銀総裁)による「QE3示唆」。

27日に発表された米国の7-9月期のGDP速報値は、個人消費と設備投資の伸びを背景に、前期比年率+2.5%となった。もともと個人消費を中心に2%台の成長が見込まれ、実際にはその可能性が高いとは言えない状況下での相次ぐ「QE3示唆」は、金融市場のリスク回避を抑え込むための「口先介入」とも受け取れるもの。「QE3示唆」は、「キャリートレードの巻き戻し(保有リスク資産の売却+調達通貨$の買戻し)」後の「売り過ぎたリスク資産の戻し局面」に入っていた金融市場の動きを後押しする効果をもたらした。

こうした金融市場の局面変化の中での今回の「包括戦略合意」は、ユーロや欧州金融株を中心とした「売り過ぎたリスク資産の戻し」を急かせるものとなった。

「リスク資産の買戻し局面」に入ったことで苦しくなったのは日銀。円は、世界が一斉に「リスク資産の買戻し」に動く中、「孤高高」を見せている。

「金融政策が趣味」と言われる日銀総裁と「素人財務相」は、円高の原因は「欧州のソブリン問題を含め、世界経済全体に対する不確実性が非常に高まっているもとで、グローバル投資家が一段と安全志向を強めている」という「海外要因」だと説明して来た。しかし、「包括戦略合意」を受けて一時的とはいえ「グローバル投資家がリスク選好を強める」中でも、「孤高の円高」から脱する気配は見られなかった。こうした現実は、日銀総裁や財務相の判断が根本的に間違っていることを証明するもの。

「包括戦略合意」を受けて金融市場の行き過ぎた不安感が薄れる中で、日銀は27日開いた金融政策決定会合で、資産買入等基金を「50兆円」から「55兆円」に拡大する「追加金融緩和策」を、8対1の賛成多数で決定した。

驚かされたのは「1票の反対票」。反対したのは宮尾審議委員。同委員は資産買入等基金を僅か「10兆円」増額して「60兆円」にすることを提案したが、反対多数で否決された。これだけ歴史的円高が続いているなかで、ほぼ全員が「資金供給量の増加に消極的」であったのは驚きを超えて、呆れるばかり。「打つ手があるのに何も打ち出さない日銀」の面目躍如。

発表された米国のGDP統計では、総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは+2.5%となった。米国の政策金利であるFFレートは0~0.25%であるので、インフレを考慮した米国の「実質政策金利」は▲2.5%程度である。

これに対して2011年4‐6月期のGDPデフレーターが前年同期比▲2.2%である日本の「実質政策金利」は+2.2%程度である。

つまり、日米の政策金利は、「名目」ではほぼ同じであるが、「実質」ベースでみると、4~5%程度日本の方が高い状況にある。

「包括戦略合意」後の「孤高の円高」により、政府・日銀による「海外要因説」は否定される格好になった。

これ以上の恥の上塗りを避けるためにも、為替政策に関しては「原点に戻る」ことが重要である。「原点」とは、為替レートの決定要因として考えられている「金利差」と「資金供給量」である。

4~5%ある日米の「実質金利差」が「円高要因」となっている中では、「資金供給量」を増やすことで円高圧力を抑え込むというのが、当然の考え方である。「金利差」と「資金供給量」両方が「円高」を指し示す中で「円安」を期待するというのは、「神頼み」以外のなにものでもない。

中央銀行による大規模な資金供給に「副作用」が伴うことは十分考えられることである。しかし、「副作用」を恐れて何の手も打たないというのは政策当局として「責務放棄」でしかない。「目先の危機」よりも「将来の懸念」を優先する現在の日銀の姿勢は間違いである。「目先の危機」を乗り越えなければ、「将来の懸念」には辿り着くことすら出来ないからだ。日本が神道の国だからといって、金融政策が「神頼み」になってはならない。
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近藤駿介

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