「対岸」の首相が示した「不退転の決意」と、「地球の裏側」の首相が示す「不退転の決意」

彼らだけでしたいようにやらせる方がよい。幸運を祈っている。

夜を徹して行われたEU首脳会議後の記者会見で、加盟国全体(27カ国)での基本条約改正に事実上の「拒否権」を発動した英国のキャメロン首相は、「提案内容は英国にとって良いものではなかった」として、こう言い放った。英国の「国益」とは、金融取引税の導入など仏独が強める金融規制への動きから、英産業の大黒柱である金融街「シティー」を守ること。

イングランド銀行が、ECBが頑として応じようとしないQE(量的緩和策)を採用出来ているのも、英国が共通通貨ユーロに参加しなかったことで政策の独立性を維持しているからである。英国は「政治面でのEUとの対立」というリスクを背負い込むことを厭わず、「単一通貨国としての政策の独立性維持」という「国益」を守り抜くという、金融立国らしい「不退転の決意」を行動で示した。

ユーロ圏17カ国を中心に、財政規律強化策を巡りユーロ圏17カ国を中心に新たな条約作りを進めることで基本合意したEU諸国とは一線を画し、「政策の独立性維持」の姿勢を鮮明にした「対岸」の英国。

これに対して欧州の「地球の裏側」に位置する日本では、野田総理が臨時国会の閉幕を受けて会見。「地球の裏側」の欧州債務危機は「対岸の火事ではない」として、「日本は財政規律を守る国か、世界と市場が見ている。将来につけを回すばかりでは国家の信用は守れない」と財政再建の必要性を訴え、年内をめどに政府与党で消費増税の素案を策定し、与野党協議を経て年度内に法案を国会へ提出する考えを重ねて示した。その上で、野田総理はこう言い放った。「それを実現するための思いは、不退転の決意だ」と。

「それを実現するための『思いは』、不退転の決意だ」と発言するところが、野田総理の卑怯なところ。あくまで「不退転の決意」は「思い」だけで、「行動」することではないのだ。こうした「行動が伴わない」ことに対するヘッジとも聞こえる曖昧な発言をするのは、野田総理自身は財政再建に政治生命を賭すような考えなど持ち合わせていないことを示唆するもの。「対岸の火事」に対しても「国益」を守るために「政策の独立性維持」という「不退転の決意」を「行動」で示した首相とは、「不退転の決意」の重みが違うようである。

そもそも、「日本は財政規律を守る国か、世界と市場が見ている。将来につけを回すばかりでは国家の信用は守れない」というのは、何を根拠にした話なのだろうか。日本の長期金利は主要国の中で最も低く、為替市場では円高が続いており、金融市場の動向からすると、「国家の信用」は必要以上に高くなってしまっている状況にある。つまり、少なくとも現時点に於いては、世界と市場は「日本は財政規律を守る国か」などということは問題視していない。世界と市場が懸念しているのは、「将来につけを回す」ことよりも、「何時までも景気低迷、デフレ経済を放置している」ことである。

欧州は、共通通貨ユーロの導入にあたり、金融政策のみを統合し、財政政策は統合しないという「設計上の過ち」を犯してしまった。この欠陥によってユーロ各国間での財政格差が生じ、それがユーロ崩壊の危機の大きな要因となっている。それ故に、ユーロ圏は一斉に「財政規律強化」に走る必要に迫られているのである。つまり、「対岸の火事」は、「財政政策の統合なき統一通貨」だから起きたことであり、「財政規律強化」も「財政政策統合なき統一通貨」であるが故の処方箋である。

米国や日本、英国などは、単一通貨国である。単一通貨国の財政再建に向けての処方箋が、「財政政策の統合なき統一通貨」を採用しているユーロ諸国と同じであるとは限らないし、その必要もない。

米国のサマーズ元財務長官は、ロイターに掲載されたコラムで次の様に指摘している。

最も重要なのは、米国の信用力に対する最大の脅威は、低成長期が長引くことだという現実を財政議論で受け入れる必要があるということだ。低成長期が続けば、南欧のように財政赤字の対GDP比が急上昇する。歳出抑制と歳入拡大に向けた中期的な対策をめぐる議論は必要不可欠だが、同時に短期的な経済成長も重視する必要がある。(2011年 06月 13日)

また、単一通貨ポンドを持つ英国では、Financial Timesが2011年4月29日付で「英国の財政政策が大きな賭けである理由」という記事を掲載。その中で、次の様な指摘をしている。
  
巨額の財政赤字と超低金利という危機の後遺症に対する最善の対応は、金利を引き上げる前に赤字を減らすことだという一般的な見方は、あべこべである可能性さえあるのだ。
低金利は、貯蓄者に不利益をもたらし、バランスシートの再編を遅らせ、一段と短期の借り入れを奨励する。財政赤字は、単に経済の中で最も信用力の高い主体が抱える債務残高を増やすにすぎない。
悪い選択だらけの世界では、巨額の財政赤字の方が金融緩和よりダメージは小さいかもしれない。
そこまで行かなくとも、我々は財政引き締めの影響を相殺する金融政策の力が限られていることを認めなければならない。
財政引き締めが景気を刺激する結果になる可能性は小さいのだ。

誰に洗脳されたのかは定かではないが、野田総理は世界と市場が「日本は財政規律を守る国か」を見ていると盲目的に信じ込んでしまっているようだ。しかし、金融市場動向を見れば、こうした見方が正しくないことは明白である。

「財政再建原理主義者」は、「経済成長に頼る財政再建はギャンブル」であると主張する。確かに「不確実性がある」という点では「ギャンブル」と言えないことはない。しかし、「ギャンブル」を避ける目的で「確実に景気を減速」させる「増税を伴う緊縮財政」に邁進するというのは本末転倒である。

今、日本が「不退転の決意」で行わなければならないことは、「確実に景気を減速」させる「増税を伴う緊縮財政」による「財政再建」ではなく、「経済再建」である。「失われた20年」が続いている日本が「経済再建」を果たすためには、多少の「ギャンブル」は必要である。
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