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新興宗教と同様の手法で「財政原理主義」の布教に邁進する野田内閣~誤った現状分析と、あり得ない理屈

「消費税を上げない決断をした場合、国際社会は、日本の政治は財政再建に不真面目だとみなす」

民主党の「口だけ番長」は、都内の講演でこのように発言し、消費税率引き上げを含む社会保障・税一体改革の素案の取りまとめに、「素人総理」と同様「不退転の決意」で取り組む姿勢を示したと報じられている。

「財政再建原理主義者」は、如何にも日本が近い将来「ギリシャ化」するかのような恐怖感を国民に与えることで布教を謀っている。国民に不必要な恐怖感を与えることで教義の布教をはかるというやり方は、「原始宗教」や「新興宗教」のやりかたそのものである。

「国家の財政赤字が欧州連合発の世界金融不安になっている」。だから「消費税を上げない決断をした場合、国際社会は、日本の政治は財政再建に不真面目だとみなす」という主張は、表面的な事象だけに目を向け、事実分析を伴わない「論理の飛躍」でしかない。

財政赤字(公的債務残高)が大きいという部分では、債務危機に襲われたギリシャやポルトガルと日本には共通項がある。しかし、「消費税を上げない決断をした場合、国際社会が「日本の政治は財政再建に不真面目だとみなす」かというと、そうとは限らない。何故ならば、問題の本質が異なっているからである。

次のチャートは、先進国各国の国民総貯蓄(Gross national savings)に対する総投資(Total investment)の比率(=総投資/総貯蓄)の推移を表したものである。

共通通貨ユーロの生んだ副作用


この比率が1以下であれば、外国からの資金に頼らずに国内で蓄えられた貯蓄でその国の投資は全て賄える状態にある(実際に外国から調達しているか否かではない)ことを示すものである。
これに対してこの比率が1を越えるということは、国内の貯蓄では自国の投資を賄えず、外国からの資金調達をする必要がある(外国から借金をして投資をしてる)状態にあることを示している。

この比率の推移を見てみると、共通通貨ユーロが流通し始めた2002年前後を境に、ギリシャ、ポルトガル、スペインなど、ソブリン危機の主役となっている南欧諸国で急上昇し、ギリシャではここ数年間自国の貯蓄の3倍を、ポルトガルでは2倍を上回る過度な投資をして来たことが一目瞭然で見て取れる。

これに対して、「ユーロ最後の砦」であるドイツはユーロ導入後にむしろこの比率は下がり、先進国の中で最も低くなっている。

また、日本もこの比率は約20年間1を下回った水準で推移しており、貯蓄と投資のバランスという面に於いては、健全性が保たれ、世界で数少ない優等生の一人と言える状況にある。

では、何故共通通貨ユーロの流通で、ギリシャやポルトガルなどの貯蓄に対する投資の比率が急激に拡大したのだろうか。それは、ギリシャやポルトガルといった債務国側と、ドイツを筆頭とした債権国側の利害が一致したからである。

ドラクマ(ギリシャ)やエスクード(ポルトガル)といった弱い通貨を持っていた債務国側から見ると、ドイツやフランスの保証が付いた共通通貨ユーロの登場は、金融市場での資金調達能力を拡大し、購買力を高める大きな原動力となった。自国の経済力に比較して資金調達が容易になってしまったことが、身の丈に合わない投資を可能にしたのである。

反対にドイツなど債権国側から見ると、共通通貨ユーロの登場によって、ユーロ圏内では為替リスクなしに投資することが可能となった。ドイツを筆頭としたユーロ圏の債権国側からすると、経済基盤の劣る南欧に対する投資の抑止力になっていた通貨リスクが取り除かれたことで、南欧諸国は為替リスクなしで、自国よりも高い金利を得られる投資先になったのである。つまり、為替リスクがなくなったことで、経済基盤の劣る南欧諸国に対する抑止力が弱まり、過剰な貸付、債券投資を招いたのである。

こうした、債権国側と債務国側の利害が一致したことで、ユーロ圏では貯蓄と投資のバランスが短期間のうちに大きく狂い、それが今回のソブリン危機の要因になったのである。

従って、南欧を震源地としたソブリン危機は、「共通通貨ユーロが生んだ副作用」であり、これをもって単独通貨円を採用している日本に対して「国際社会は、日本の政治は財政再建に不真面目だとみなす」と結論づけるのは、事実を無視した「論理の飛躍」でしかない。

さらに、この貯蓄と投資のバランスをブレイクダウンしてみてみると、もっと恐ろしい状況が見えて来る。

共通通貨ユーロが流通し始めたのは2002年からである。ユーロが流通し始める前年の2001年と、2011年の各国の貯蓄と投資を比較(それぞれ、2011年推計値/2001年実績値)してみたのが、次のチャートである。

「投資」か、「浪費」か


ユーロ導入後、ギリシャやポルトガルは国内の貯蓄を大幅に上回る投資をして来た。しかし、このチャートを見ると、ギリシャは投資額そのものを見ると、2011年推計値では2001年実績の約0.61倍と、大幅に減っていることがわかる。その一方で、2011年の貯蓄推計値は、2001年に比較して0.29倍と、3分の1以下まで減っているのである。つまり、貯蓄に対する投資の大幅な増加は、投資を増やした結果ではなく、貯蓄を減らしたことによってもたらされたものなのである。こうした傾向は、ポルトガルやアイルランドでも同様である。

これに対してドイツは、主要国の中で投資も貯蓄も増やしている唯一の国である。勿論、ドイツの貯蓄拡大の一つの要因が、南欧諸国に対する輸出によるものでもあるが。

日本は、投資も貯蓄も2001年比で僅かに減って来ている。しかし、貯蓄が大幅に減っていることもなく、投資が過剰な状態にあるわけでもない。

これらの分析から言えることは、ギリシャやポルトガルといったソブリン危機の震源地となった国々は、共通通貨ユーロの導入による購買力の増加を、「投資」ではなく「浪費」に向けたということである。「投資」なら今後の回収に期待出来るが、「浪費」は回収の期待はない。これは日本のティッシュ王子のマカオでの「浪費」と同じである。

こうした違いを無視して、一方的に「国際社会は、日本の政治は財政再建に不真面目だとみなす」と主張するのは、完全なミスリードであると同時に、「日本の政治は財政に対する知見が無い」ことを国際社会に晒すことでもある。

さらに注目すべき点は、日本でバブル崩壊が起きた1989年の、日本の投資の貯蓄に対する比率は0.94倍であったことである。要するに、日本のバブル崩壊は、自分の蓄えた資金で投資し、それをすったという構図であった。海外から借金をして投資したのではなかったが故に、当時GDP第2位であった経済大国で、株価と不動産価格が数年で半分、3分の1になるなかでも、世界の金融市場に大きな影響を及ぼさなかったのである。そのかわり、日本は世界の中で唯一「失われた20年」を余儀なくされた。ここが、今回の欧州のソブリン危機との大きな、決定的な差である。

日本の国債の外国人の保有比率は5%程度に過ぎない。しかも、日本の対外純資産は2010年末こそ円高によって前年末比5.5%減と2年ぶりの減少となったものの、その規模は251兆4950億円と、19年連続で世界最大の債権国である。

ギリシャやポルトガルといった債務国の放漫財政に対して、債権国側が強い圧力をかけるのは当然有り得ることである。しかし、国内で必要な資金の95%を調達出来ている「世界最大の債権国」に対して、国際社会が「日本の政治は財政再建に不真面目だとみなす」という、債務国が債権国の財政状況に文句をつけてくるかのような状況は、現実問題として有り得ない。

野田内閣が「増税を伴う緊縮財政」を正当化する論理は、「お金を貸している相手から、日本の財政状態が悪いと文句を言われるかもしれない」という現実的に有り得ないものなのである。

ビジョンも示さず、誤った現状認識を振りかざし、国民に必要のない恐怖感を与える「新興宗教的な布教活動」を繰り返す野田内閣。こうした非現実的な理屈を振り回して「増税を伴う緊縮財政」を国民に強いるのは、「分析能力が無い」のか、「国民をだまそうとしている」のか、「非常識」なのか、何れかである。確かなことは、その何れであったとしても、「世界最大の債権国」のリーダーとして相応しくない、ということである。
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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

著書

202X 金融資産消滅

著書

1989年12月29日、日経平均3万8915円~元野村投信のファンドマネージャーが明かすバブル崩壊の真実

著書

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