姑息な情報操作で推し進められる、問題解決に繋がらない「国民の共有財産」を守るための「消費増税」

政府が30日に、消費増税を柱とする社会保障と税の一体改革素案をまとめたことを報じる大晦日の日本経済新聞の内容は、「らいしもの」であった。

「政府素案は、社会保障制度を『国民の共有財産』と位置付け、増え続ける費用を賄うための消費増税の必要を指摘。社会保障の安定財源確保と、財政の健全化を同時に達成する方針を打ち出した。経済のグローバル化や格差の拡大といった社会情勢の変化にも対応するとしている」。

社会保障制度が「国民の共有財産」であるという見方は、物事の一面でしかない。社会保障制度が問題になっているのは「国家の負債」という側面からであり、この面からの視点も必要である。社会保障制度の問題を、「国民の共有財産」の問題であるかのように世論を洗脳し、「国家の負債」の問題でもあることを隠し続ける限り、「真に国家国民のための議論」など望むべくもない。

「日本の現実を直視するのか、目をそらし続けるのか。消費増税を巡る意見の違いは、つきつめるとそこに行きつく」。

日本経済新聞はこの様に短絡的に決めつけているが、「消費増税」を巡る議論は、「日本の現実を直視するのか、目をそらし続けるのか」という単純な精神論の問題ではない。

「国民に対する負債」を抱える国家が、「国民の共有財産」である年金を中心とした社会保障制度を守るために「国民」の財布に手を突っ込み、税を徴収するというのでは、根本的な問題解決にならない。

「財産」の保有者である「国民」が、多額の負債を抱えた「国家」に追加資金を提供して「財産」を守ろうとする構図は、90年代の日本の金融機関のお家芸であった「追い貸」そのものである。こうした不良資産を表面化させないための安易な「追い貸」が、事態の改善どころか、問題をより深刻化してしまったことは、日本の「失われた20年」を振り返れば明らかである。

「国民の共有財産」の毀損を防ぐという名目で、「財産」の持ち主である「国民」に、「税率引き上げ」という形で更なる追加出資を強いるという方法は、何の問題解決にも繋がらない。これは、ユーロ圏のソブリン危機が、「ユーロ圏以外からの資金調達」無しに鎮静化することが難しいのと同じ理屈である。

「国民の共有財産」の毀損を防ぐ方法は、「共有財産」の持ち主である「国民」以外から資金を調達することである。

「国家」が資金調達する方法は、基本的に「税金」と「国債」である。「国債」による資金調達に限界があるのであれば、「税収」を増やす以外に方法はない。「財政再建原理主義者」はこうした背景から「消費増税」が唯一の「責任ある政策」であるというプロパガンダを繰り返している。しかし、「税収増加=税率引き上げ」というのは「論理の飛躍」でしかない。

政府が目をそらしてはならない日本の現実は、「名目GDPが、1997年度の521兆2954億円をピークに、2010年度の479兆2046億円まで、13年連続で8.1%下落している」というところであり、「一般会計税収は、1997年度の53.9兆円をピークに2010年度の41.5兆円まで金額にして12兆4500億円、率にして23.1%減少している」ということである。

納税が国民の義務であるのと同時に、「名目GDPの安定的成長」は政府が達成すべき義務である。「国民の共有財産」の毀損を防ぐという錦の御旗を立て、景気動向に左右されない安定的財源である「消費税の税率引上げによる税収増加」を「国民の義務」と必要以上に煽り、マニフェストに掲げた「名目GDPの安定的成長」という「国家の義務」に蓋をするような議論の進め方は、「責任ある政治」から程遠い「小人」の行う「姑息な議論」でしかない。

「政府の債務残高の国内総生産(GDP)に対する比率は200%を超え、第2次大戦末期並の水準。先進国では最も高く上昇が止まらない。
『日本国債は膨大な家計の貯蓄で賄えるから大丈夫』とされてきたが状況は変わっている。90年には家計の金融純資産が政府債務の2.3倍あったが、2009年には1.1倍に。債務の水準を下回るのは時間の問題だ。財政の改善を先送りできる時間的なゆとりはなくなりつつある」。

日本経済新聞を始め「財政再建原理主義者」のお馴染みのこうした主張も、「姑息な」プロパガンダの一つである。ここでは、比較している「政府の債務残高」と「家計の貯蓄」の数字のとり方を変えるという「姑息な」「数字上のマジック」が使われている。

「政府の債務残高の国内総生産(GDP)に対する比率は200%を超え」というのは、概ね正しいものである。但し、騙されてはいけないことは、ここでいう「債務残高」は負債だけの「グロス」の金額であり、負債から資産を引いた「ネット」の金額ではないということ。

一方、「家計の貯蓄」は「家計の金融純資産」であり、こちらは資産から負債を引いた「ネット」の金額が使われている。

「政府の債務残高」には「グロス」を使い、「家計の貯蓄」には「ネット」の金額を使ったのでは、正しい姿は見えて来ない。「政府の債務残高」は過大に、「家計の貯蓄」は過小に評価されるからだ。実際には、債務から資産を引いた日本の「ネット」の「政府の債務残高」は、GDPの1.3倍程度である(IMF「World Economic Outlook September 2011」2011年推計値)。

従って、「政府債務」「家計の貯蓄」ともに「純債務」「純資産」を使い整合性をとって比較すると、日本経済新聞が主張する「90年には家計の金融純資産が政府債務の2.3倍あったが、2009年には1.1倍に」という表現は、「2009年の家計の金融純資産は政府債務の1.7倍程度」ということになる。

要するに、日本経済新聞は、日本の「政府の債務残高」を過大に見せるための「姑息な数字上のマジック」を使っているのである。

「姑息な数字上のトリック」を取り除いて比較したからと言って「政府の債務残高」が減るわけではない。しかし、「時間的なゆとりがなくなりつつある」から「消費増税が必要不可欠」という短絡的な結論の説得力はかなり低下し、「消費増税」に先立って、「政府の義務」である「名目GDPの安定的成長」を目指す「時間的なゆとりがまだある」という主張が見直されて然るべきである。

野田総理が本当に「真に国家国民のための議論」を望んでいるのであれば、まずは「姑息な数字上のトリック」を始めとした情報操作は止め、公平・公正な情報に基づいて「真に国家国民のための議論」を重ねるべきである。幸いなことに、野田総理を始めとした「財政再建原理主義者」が主張する以上に、日本の財政には「時間的なゆとりがまだある」。

「国民に対する負債」を抱える国家が、「国民の共有財産」である年金を中心とした社会保障制度を守るために「国民」の財布に手を突っ込み、税を徴収するというのでは、根本的な問題解決にならない。「国民の共有財産」の毀損を防ぐ方法は、「共有財産」の持ち主である「国民」以外から資金を調達することである。

それは「名目GDPの安定的成長」を達成し、「税率を上げることなく、社会の経済活動から税収を増やす」ということである。国民の財布に手を突っ込むようなやり方では、「国家の負債の問題」は未解決のまま放置され、「税率引き上げ」だけが繰り返されることになる。
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コメント

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いつも近藤さんのプログ愛読させていただいております

今財務官僚たちが新聞、デレビの幹部たちやコメンテーターなどの
有識者を訪問して圧力をかけ始めているみたいですね?
特に増税に批判的な人に対しては国税庁職員を同席させ有識者関係の交際費を重点的に狙っているみたいです。特に増税に批判的な人物をテレビに出すなとの圧力をかけているとの噂も聞きます

まるで戦時中の日本のような情報統制をやり始めてるんじゃないでしょうか? 大本営に不都合なことは報道はしないような
民主政権になって露骨にその傾向が表れてないでしょうか?

まだ国民は前の2人の総理があまりにひどかったんで野田総理がまだましと思ってるようですしテレビに出る政治評論家も野田総理に批判的な意見を述べる人はいないみたいですが?
経済政策面においては野田総理が一番の危険人物であると私は思っております。日本を破滅に導いているんじゃないかと??

TPP、消費税問題について党内議論さえ行なわずに国際舞台で公約してしまう恐ろしい政治家です( 管総理もでしたが ) TPPについてはテレビ等では主に農業問題しかクローズアップさせませんが、一番日本にとって怖いのは医療、雇用、ゆうちょ関係の自由化
であり、米国は日本のゆうちょ、年金資金を虎視眈々と狙っていると聞きます。

消費税増税にしても公務員削減、議員削減をせずに行なえば、景気がさらに悪くなり潤うのは公務員、輸出関連大手企業、在日等の特権階級のみで、この人たちを潤すために庶民が犠牲になれというんでしょうか?

今の財務官僚、野田総理を頭にする民主政権の今からやろうとしていることは日本の戦争末期の軍部に指導者と同じのようにしか私には見えません
20年後に歴史が証明してくれると思いますが?
そうならない様に早く国民が目を覚まし次の総選挙で民主を政権から叩き落とすこと、特に野田総理の選挙区民は現職総理である野田総理を選挙区で叩き落としていただきたいと切に願っております


No title

ブログを読んで頂き、またこの度は貴重なコメントを頂戴し、ありがとうございます。
仰る通りで、「世間知らずのお坊ちゃま」「市民活動家上がりの軽薄パフォーマー」の後でしたから、「これ以上ひどい総理は現れない」と漠然と信じていたのですが、直ぐに期待を裏切られてしまいました。
指摘されている「情報操作」「密室政治」等々、野田総理には、前の2人に比較して、「姑息さ」「ずるさ」「腹黒さ」を感じずにはいられません。
一日も早く、世論の力で野田総理を退陣させ、自由闊達な議論がなされる社会になることを期待してやみません。
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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

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