問責ごっこ~「国民不在の永田町の理論」が生み出した副作用

「お粗末な閣僚が後を絶たない民主党の人材不足にあきれる一方、それをいちいち政争の駆け引き材料にする自民党のやり方にも違和感を禁じ得ない。有権者の政治不信を高める不毛な『問責攻防』にはもううんざりだ」

21日付日本経済新聞は、「問責攻防はもううんざりだ」という社説を掲載。そのなかでこのように主張している。「民主党の人材不足にあきれる」という指摘は全くもってご尤もである。しかし、日本経済新聞の主張の弱いところは、何でもかんでも「消費増税法案の今国会での成立」に結び付けて論じてしまうところ。

「特に防衛相は昨年12月に当時の一川保夫氏が問責されたばかりである。党内秩序を最優先した順送り人事で波立つ東アジア情勢に対応できるのか。首相は閣僚人事にもっと指導力を発揮すべきだ」

この社説の中でもこのような主張をしているが、「党内秩序を最優先した順送り人事」というのは、暗に消費増税反対を主張している小沢グループに配慮した人事が混乱を招いていることを示唆したもので、「首相は閣僚人事にもっと指導力を発揮すべき」というのは「小沢切り」を進めることを主張したものといえる。

さらに、「首相の解散権が及ばない参院での問責に法的根拠はない。問責すれば審議拒否が正当化され、閣僚が辞任に追い込まれてきたのは慣例にすぎない」というのはかなり歪んだ見解である。

2008年6月に福田康夫首相(当時)の問責決議が可決されて以降、2009年7月の麻生太郎首相(同)、2010年11月の仙石官房長官・法務大臣(同)、2011年12月の市川保夫防衛大臣(同)と山岡賢治国家公安委員長・消費者及び食品安全担当大臣、そして今回の2大臣と、毎年のように問責決議が可決されて来ている。

見落としてはならないことは、1998年に自民党の額賀防衛大臣(当時)が防衛庁調達実施本部背任事件の責任を問われ参議院初の問責決議可決を受けているが、これを除けば、2008年以降問責決議が可決されたのは、選挙という国民の審判を経ずに成立した内閣の大臣達であることだ。

つまり、国民の意思を無視し、「永田町の理論」で政治を推し進めようという政治姿勢が、結果的に「ねじれ国会」を生み、「問責決議」の多発、「審議拒否」、「閣僚辞任」という負の連鎖を起こす根本的要因となっているのだ。「閣僚が辞任に追い込まれてきた慣例」は、「国民不在の永田町の理論」が生み出した副作用でししかない。「永田町の理論」が原因で生じた政治的な混乱を、日本経済新聞が指摘するような「永田町の理論」で解決しようとしても、それは「有権者の政治不信を高める」だけである。

「2閣僚辞任まで衆参両院のすべての審議に応じないという自民党の方針には、党内外に異論がある。審議拒否ありきでは困る」

日本経済新聞はこのように主張するが、民主党内にも自民党の対応を「問責ごっこ」と揶揄して野田内閣が示している前田、田中両大臣の続投方針を支持する意見の他に、「消費増税法案成立」のための「とげ抜き」に2大臣を更迭すべきだという意見があることは、この社説では紹介されていない。

「2人になにがしかの非があったことは間違いない。野田総理大臣がそれをどう判断するべきか、というと、私は、すべての基本は消費税率引き上げ法案を何としても通すことで、それが最優先だと思う。とげは抜くべきだ」

民主党の税制調査会長藤井最高顧問は、「消費増税引き上げ法案」成立のために、問責決議を受けた前田、田中両大臣を交代させるべきだという考えを示した。

「すべての基本は消費税率引き上げ法案を何としても通すこと」という原理主義的思考に基づいて、消費増税を目的とした「とげ抜き」のために大臣を更迭するのは完全な筋違い。前田、田中両大臣が問責決議を受けたのは、消費増税引き上げ法案を通すための「とげ」だったからではない。自民党の方針を「審議拒否ありきでは困る」と非難する日本経済新聞が、こうした「とげ抜き」発言を非難しないのは、「消費増税法案可決ありき」であるからに他ならない。

21日付日本経済新聞は、「民・自、展望なき我慢比べ 混迷打開は世論次第 2閣僚の問責可決」という特集記事も掲載。その記事の中では「民主、自民両党はともに展望を描けないまま非難合戦を展開、世論にらみの我慢比べに入った」と伝えている。

「世論にらみ」というのは滑稽である。少なくとも、消費増税法案の今国会での成立に対しては、各種世論調査で世論の結論は出ている。永田町が世論を睨むのであれば、「結論ありきの議論」で消費増税や原発再稼働に邁進することなどあり得ないこと。

日本経済新聞など日本のマスコミは、北朝鮮で金正恩が社会主義にもかかわらず3代世襲という異例の統治体制を構築したことを批判的に報じている。しかし、野田政権も、政権交代後国民の審判を仰ぐことなく成立した3代目の政権である。政治体制の違いはあれども、国民の審判を受けず成立した内閣という点では、金正恩政権と同じくらい正当性が怪しいことについては、日本のマスコミ全く批判しないどころか、好意的、肯定的に受け入れている。中国の共産党一党支配や社会主義の世襲は許されないが、日本で国民の審判を仰がずに「永田町の理論」で政権の世襲は容認されるという根拠は何処にあるのだろうか。

21日付の紙面では「『ここ数年で最も賢明』 米紙、首相を論評」という記事を掲載。その中でワシントン・ポスト(電子版)が、野田首相を「消費税率引き上げや、原子力発電所の再稼働、環太平洋経済連携協定(TPP)参加問題への取り組み」を挙げ、「ここ数年のリーダーで最も賢明だ」と評価したことを伝えている。

日本経済新聞は「消費税率引き上げへの取り組みが評価されている」ことを伝えたいのだろうが、「ここ数年で最も賢明」と言われても、比較対象となるここ数年の首相が、ワシントン・ポスト誌に「loopy(頭が変な)」と称された鳩山由紀夫と、「すっからかん」と称された菅直人であることを考えると、日本経済新聞が伝えるように「評価した」と判断出来るのかは疑わしい限りである。

「結論ありきの議論」を繰り返した挙句に消費税率引き上げや原発再稼働、TPP交渉参加に猛進し、国内支持率が20%程度にまで下落した野田政権を、米国が高く評価しているのであれば、是非とも米国の政界に進呈したいものである。その際には、かつてクリントン大統領が、大リーグで活躍した野茂秀雄を「日本の最高の輸出品」と称賛したのとは対照的に、「日本からの最悪の輸出品」と称されることになってしまうだろうが。

日本経済新聞は、「民主、自民両党はともに展望を描けないまま非難合戦を展開、世論にらみの我慢比べに入った」と報じているが、世論が「野田内閣不支持」、「消費増税法案今国会での成立反対」で固まってきた中、「我慢」を強いられているのは国民であることを、永田町も日本経済新聞も、もっと肝に銘じるべきである。
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「お粗末な閣僚が後を絶たない民主党の人材不足にあきれる一方、それをいちいち政争の駆け引き材料にす『問責攻防』にはもううんざりだ」21日付日本経済新聞は、「問責攻防はもううんざりだ」という社説を掲載。そのなあきれる」という指摘は全くもってご尤もである。しか...

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