国益とは何か~消費増税原理主義者が繰り返す「片手落ちの議論」

「財政再建のために増税を担ぐことが、なぜ責められなければならないのだろうか」

16日付の日本経済新聞に掲載された「大機小機~財政再建こそ最大の国益」は、消費増税原理主義の立場から、このような指摘がなされている。

この大機小機の筆者の主張の根拠は、「今日わが国の置かれた状況からいえることは、財政再建こそわが国最大の国益だという点である。国債は国民が保有しているので急落しないとの意見もあるが、保有しているのは機関投資家や金融機関である。急落のリスクが高まっても保有し続ける保証はない。投機筋に対しオールジャパンで対抗するので国債急落はない、と考えるのは現実的ではない」というものである。

要するに「国債の急落を防ぐ」ことが「最大の国益」であり、この「国益」を達成するために「増税を担ぐこと」が必要だということである。

理想論として、財政赤字が好ましくないことは間違いない。しかしそれは、「国債の価値が暴落するから」とかいう小さな次元の話ではない。「国家の必要な支出を賄えるだけの経済活動が為されていない」という点において、財政赤字は好ましくないのである。

こうした視点から言えば、「国家の必要な支出を賄えるだけの経済活動が為される」状態を作り出すのが政治の役目ということになる。財政が赤字だから、国債が暴落する可能性があるから増税をして財政赤字を埋めるという発想は、野田内閣が批判している、原発が止まってコストが上昇したから電気料金を上げるという、東京電力の発想と同類のものでしかない。東京電力の値上げを非難する野田内閣が、財政が赤字だからと言って消費増税を正当化するのは辻褄の合わない話。

大機小機の中で筆者は「4%成長のための方法論が学術的根拠に欠けることや、その結果生じる金利の上昇がかえって経済や財政を悪化させることについては、多くの論者が指摘しているので、ここでは繰り返さない」と述べている。世界一の高齢国家日本が継続的に4%の成長を達成するというのは非現実的であり、「方法論が学術的根拠に欠ける」という指摘はその通りである。

しかし、「その結果生じる金利の上昇がかえって経済や財政を悪化させる」と決めつけるのは余りに偏った議論である。

忘れてならないことは、低金利は経済情勢が悪化した「結果」である、ということ。低金利を維持、或いは低下させることだけでは経済の活性化を図れないということは、長期金利の上昇を抑制することで社会のコストを引下げ、景気浮揚を図ろうと努力しているFRBの苦悩を見れば明らかである。

日本を筆頭に先進国が直面している問題の一つは、超低金利であるにも拘らず「自国での設備投資が増えない」ことである。これは、低金利という「資金調達コスト」に問題があるのではなく、投資してもリターンが望めないという「投資リターン」に問題があることを示唆したものである。仮に景気がよくなり、「資金調達コスト」に見合う「投資リターン」を自国で得られる見通しが立てば、経済活動が活性化することは間違いない。この「仮に景気が良くなり」という部分に現実性を持たせることこそが、政治の使命である。


さらに、経済が活性化する「結果」として長期金利が上昇するのであれば、「金利の上昇がかえって経済や財政を悪化させる」などになることはない。経済が活性化した「結果」金利が上昇した場合、見かけ上の国債の発行コストは上がるが、税収増によって発行量を減るせるので「かえって財政を悪化させる」ことはない。国家の国債による調達コストは「金利水準」と「国債発行量」の積であり、そのうちの「金利水準」だけを取り出して「財政を悪化させる」というのは、消費増税原理主義者の18番である「片手落ちの議論」である。

消費増税原理主義者が用いる「片手落ちの議論」の代表格は、10日にも大きく報じられた「国の借金、最大960兆円 国民1人当たりの借金は約752万円」という類のもの。この一見もっともらしく報じられている事実も、「借金」と「資産」の2面性、つまり、ある人の「借金」は、別の人にとって「資産」であるという、当たり前のことを全く無視した詭弁である。ある人にとって銀行預金は「資産」だが、銀行からすれば銀行預金は「借金」である。徴税権の有無の違いはあるものの、「国の借金」が多いことをことさら問題視するのは、預金量が多い信用の高い銀行に対して「借金が多い」と非難するのと同じことである。

「国の借金」である日本国債の所有者別内訳をみると、海外投資家の保有比率は6.3%(2011年9月末時点)に留まっており、約94%は国内投資家が保有している、つまり「国の借金」960兆円のうち、約900兆円は「国民の資産」ということである。これを消費増税原理主義者風に表現すると「国民一人あたりの資産は約704万円」ということになる。

欧州でソブリン危機が深刻なのは、国に必要な資金の調達先を外国に頼っているからである。国債残高がGDPの2倍以上もあるという日本の状況は褒められたものではないが、ソブリン危機を引き起こす要因は、その残高よりも、どこから調達しているかという資金の調達先である。日本国債の発行残高がGDPの2倍以上に膨らんでいるにも拘らず、超低金利が続いているのは、国内投資家から殆ど調達出来ているからである。この調達先が大きく異なる現実を無視して、欧州のソブリン危機を「対岸の火事ではない」と危機を煽るのは、無責任な議論である。

国内投資家が殆どを保有する国債市場で超低金利が続いているのとは対照的に、株主比率、売買比率両面で海外勢依存が高まっている日本の株式市場は、日経平均株価が8,800円と3か月半ぶりの水準まで売り込まれている。

消費増税原理主義者が、「国債の急落を防ぐことを最大の国益」だとして、「増税による財政再建」に突き進むことは、国内投資家から殆ど資金を調達できる国債市場では金利低下圧力を、海外勢依存が高まっている株式市場に対しては下方圧力を加えるものである。

「国債の急落を防ぐことを最大の国益」だとして「増税を担う」政策が、本当に「国益」に繋がるのだろうか。株式市場のこれ以上の低迷は、日本の資本主義に大きな打撃を加えかねない危険な賭けである。
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近藤駿介

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