監査法人が「市場の番人」なのか?~「企業の飼犬」に「市場の番人」を求める愚策

「金融庁は6日、オリンパスが過去の巨額損失を隠していた問題で、監査を担当していたあずさ監査法人と新日本監査法人に業務改善命令を出した。監査手続きそのものには重大な瑕疵はなかったが、監査法人が交代する際の引き継ぎなどを巡り、監査の実効性を高めるための取り組みが不十分だったと指摘した。不正発見に向け法人全体や会計士個人に対し、『市場の番人』としてのプロ意識発揮を促すことも必要になる」

日本経済新聞は、「『市場の番人』自覚促す」という見出しで、企業のガバナンスを指導・監督する立場にある大手監査法人に、初めての業務改善命令が出されたことを報じている。しかし、金融庁が業務改善命令を出した理由は極めて曖昧で、すっきりしないものである。また、「法人全体や会計士個人に対し、『市場の番人』としてプロ意識発揮を促す」ことが、不正防止策だと認識しているのだとしたら、日本を代表する経済紙としてお粗末極まりない。

「オリンパスの監査人は09年3月期を境に、あずさから新日本へと交代した。金融庁は両法人ともに、不正を知りながら故意に見逃したり、重大な不注意は認められなかったと判断。会計士個人への処分や課徴金の納付は命じなかった」

日経報道に基づけば、金融庁は「監査手続きそのものに重大な瑕疵はなく」、「不正を知りながら故意に見逃したり、重大な不注意が認められなかった」にも関わらず、監査法人に対して「監査法人が交代する際の引き継ぎなどを巡り、監査の実効性を高めるための取り組みが不十分」だったという曖昧な理由で業務改善命令を出したということ。

オリンパスの巨額損失事件の原因を、「監査法人が交代する際の引き継ぎなどを巡り、監査の実効性を高めるための取り組みが不十分だった」ことに求め、「監査手続きそのものに重大な瑕疵はなく」、「不正を知りながら故意に見逃したり、重大な不注意が認められなかった」監査法人に対して業務改善命令を出すのは、姑息な「金融庁のアリバイ工作」でしかない。

重大な瑕疵のない「監査手続き」に従った監査法人の引継ぎが巨額損失事件発生の原因になったのだとしたら、それは「監査手続き」ではなく「監査制度」そのものに重大な瑕疵があったということ。

現在の「監査制度」の問題点は、企業が「監査法人の雇用主」になっており、企業と監査法人が対等な立場でないことである。企業側に雇われている監査法人が、スポンサーである企業の監査を中立・公正に出来ないことは、日本の主要メディアがスポンサーである大手企業などに不利益な政策を提言したり、批判的な報道をしないのと同じ構図である。

実際にオリンパスは、09年6月に「契約満了」を理由に、監査業務を約40年もの間オリンパスの監査を担当していた「あずさ監査法人」から「新日本監査法人」へと交代している。こうした、企業と監査法人が実質対等な立場にないことが、巨額損失事件を引き起こす温床になっている。

「企業の飼犬」になっている監査法人に、精神論で「市場の番人」の役割を求めても根本的な解決など望むべくもない。監査法人に「市場の番人」の役割を課すならば、「番人」として役割を果たせるような制度を用意する以外にない。

日本経済新聞は、「公正な市場を守る番人」という市場の期待に監査法人に応えていくためには、「厳しいプロ意識」と「強制調査権の付与」などの点で改善をすべきだと主張している。しかし、こうした精神論や表面的な改善では、大きな効果は期待できない。

監査法人に対して「公正な市場を守る番人」になることを期待するのであれば、企業と監査法人の関係が対等でないという今の状況を解消するため、証券取引所が監査法人の契約者(雇用主)となるように制度変更するべきである。

証券取引所が企業監査の契約主体となり、証券取引所との契約に基づいて監査法人が上場企業の監査を実施するという仕組みに変えることで、監査法人を「企業の飼犬」から解放し、企業と監査法人の立場を対等にすると同時に、監査法人ごとにバラつきのある「監査手続き」を統一化することが可能になる。

上場企業は民間企業であっても「公器」であり、株式市場は国民の重要な資産形成の場である。そして、「自己責任原則」が求められる証券取引において必要不可欠なのは「公正な情報公開」である。「歪められた情報」を排除し、「公正な情報公開」を実現するためには、企業と監査法人の関係を対等にすることが絶対条件である。

忘れてならないことは、「市場の番人」の役割を果たすのは、本来監査法人ではなく、金融庁であり、証券取引所であるべきだということである。監査法人に「市場の番人」という期待をかけるのはあるべき姿ではない。

監査法人に責任を押し付けて終わりにするのではなく、日本の証券市場の健全化のために、金融庁と証券取引所は「このピンチを奇貨として」国民のためにしっかりと責任を果たす覚悟で、根本的な制度変更に「不退転の決意」で臨むべきである。
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「金融庁は6日、オリンパスが過去の巨額損失を隠していた問題で、監査を担当していたあずさ監査法人と新日本監査法人に業務改善命令を出した。監査手続きそのものには重大な瑕疵は

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