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「負担無ければ給付なし」「負担なくして給付あり」 ~ 世界最速のスピードで大企業優遇が進んでいる日本

「負担無ければ給付なし。打ち出の小づちのようにお金が湧いてくる訳でない」

消費増税を中心とした社会保障と税の一体改革関連法案が参院本会議で可決成立したことを受け、野田総理は夕方の記者会見でこのように発言した。

この総理の狡猾なところは「打ち出の小づちのようにお金が湧いてくる訳ではない」という、その文章だけを捉えれば誤りではないものを持ち出し、問題をすり替えるところ。民主党が総選挙で訴えていたのは「打ち出の小づちのようにお金を湧かせる」ことではなく、「バケツの穴を塞いでお金が漏れないようにする」ということのはずだった。

「(日本は)人類が経験したことがないような世界最速のスピードで高齢化が進んでいる」

社会保障の財源として消費増税を実施することについて、野田総理は「世界最速のスピードで高齢化が進んでいる」という、政治的不可抗力を原因に挙げ国民に理解を求めた。これも「世界最速のスピードで高齢化が進んでいる」という事実を前面に押し出すことで、「財政悪化は不可抗力」、「消費増税は必然」というような錯覚を植え付ける姑息な手法。

財政悪化の原因は、本当に「世界最速のスピードで高齢化が進んでいる」ことなのだろうか。

下のチャートは、企業の経常利益(法人企業統計:全産業/以下同じ)と法人税、所得税の金額の推移と、法人税の名目GDPに対する比率の推移を示したものである。

法人税


このチャートから言えることは、「世界最速のスピードで高齢化が進んでいる」ことが、必ずしも財政赤字の原因であるとは言い切れないということである。

2011年度の法人税収は約7.8兆円であり、前回の消費増税実施前の1996年度の14.5兆円からほぼ半分になっている。こうした動きは、日本の名目GDPが、消費税が5%に引き上げられた1997年の約523兆円から、直近470兆円前後まで10%強減って来ていることを反映したものである、と解説されている。

野田政権も、消費税を社会保障の財源に充てる理由として、「法人税などと異なって、消費税は景気動向に左右され難い安定財源」であることを挙げている。

勿論、名目GDPの縮小は国家財政悪化の大きな要因である。しかし、企業の経常利益を見てみると、1996年度の27.8兆円に対して、2011年度は55.6兆円へと、名目GDPが10%強縮小する中、ほぼ倍増しており、「企業業績は景気に左右されていない」と言える状況にある。

つまり国家財政という観点から問題なのは、「景気悪化によって法人税が減って来ている」ということだけではなく、「企業が獲得した利益から法人税を取れなくなっている」ということである。

名目GDPに対する法人税の比率は、1996年度の約2.8%から、直近では約1.7%と、約1.1%低下して来ている。因みに、日本の財政が黒字であった1990年代初頭には、この比率は3%を超えていた。

日本の財政が黒字であった1991年の名目GDPは約476兆円と、現在と殆ど同じ水準にある。しかし、1991年の法人税は約16.6兆円と、現在の7.8兆円より8.8兆円も多い。つまり、経済規模と税収との相関が落ちて来ていることが財政赤字を生む一つの要因になっていると言える。仮に足元の法人税収が、1991年度と同じであれば、殆ど消費増税など不要なのである。

さらに、1991年度の企業の経常利益は33.6兆円と、足元の55.6兆円に比較すると約6割の水準であったことを考えると、現在は、税金面で法人が優遇され過ぎているとも言える。企業努力の賜物とはいえ、財政黒字であった1991年当時を大幅に上回る収益を上げている法人から税金を取らず、法人税の2倍に近い約13兆円もの財源を消費増税で確保しようというのは、本当に正しい政策なのだろうか。

厳しい国際競争に勝ち抜くために、法人税の引き下げや各種の優遇税制の必要だという意見は理解出来るが、税金を徴収出来ない企業利益が積み上がり、それを原資に一部の経営者が多額の報酬を受け取るという税体系には見直す余地があるのではないか。

日本の法人税の実効税率は、世界的に高いと言われている。しかし、法人税率を単純に比較するだけでなく、名目GDPに対する法人税率の比較など多角的な分析を行ったうえで、法人税の在り方を議論する時期に来ているのではないだろうか。

国際社会が「失業問題」に苦しむ中、国際社会が単純な「法人税減税競争」というチキンレースを続ければ、チキンレースに敗れた国の財政が破綻し、それが国際金融市場でのソブリン危機を通してチキンレースに勝った国の経済に悪影響を及ぼし、結局「勝者なき国際社会」を作ることになりかねない。国際社会は、これまで「金融政策」「財政政策」で国際協調を繰り返して来たが、「勝者なき国際社会」を招かないためにも、「近いうちに」「税金協調」を検討すべきである。

「負担無ければ給付なし」

記者会見で野田総理は、「駅前演説」で培ったお得意の無意味なキャッチコピーを披露した。しかし、消費増税にひた走る野田内閣は、法人税を負担しなくなっている大企業に対して、消費増税を財源にした法人税率の引き下げと、輸出企業に対して消費税還付という「給付」を行おうと企んでいる。

国民に対して「負担無ければ給付なし」として消費増税を強いるのであれば、法人に対する「負担なくして給付あり」というような不公平税制は早急に修正しなくてはならない。

国民が見逃してはならないことは、日本の財政赤字の原因は「世界最速のスピードで高齢化が進んでいる」ことだけにあるのでなく、「世界最速のスピードで大企業優遇が進んでいる」ということである。
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コメント

No title

本エントリの法人税減税競争において、世間では法人税率を引き下げろ!という論調が強いように感じます。
経済界がそれを主張する事は当事者視点でしょうから、まだ分かるのですが、我が国の問題の本質として大メディアが経済界の傀儡と感じられるほど一方的に減税プロパガンダを喧伝する事。
そしてまた原子力村ならぬ米国経済学村とでも言えば良いでしょうか、追米を持って良しとする様な意見が論壇に多い事も、大企業優遇化に大きく貢献してしまっている要因と感じています。
仰られている「税金協調」について全く賛同で、追米学者の聖地であるかの国が大企業のタックスヘイヴンへの逃避に悩まされているこの現状。自由は全能ではない。
我が国は既に自前の経済学を確立する時期に立っているのではないか?と。そこに立脚し、我が国がかの国をリードして協調するぐらいの気概を持ちたいものです。
しかしながら、そうした前提となる民主主義がこうも体を成していないのでは夢のまた夢か....と情けなくなる次第ですね。

No title

助左衛門様 コメントありがとうございます。主要メディアを利用したプロパガンダに負けないようにしないといけないですね。そのために必要なのはまず公正な情報だと思います。そのうえで、政治のプロセスを「結論を決めた議論を繰り返す」形はなく、「公正な情報に基づいた議論で結論を出す」形に転換を図るべきだと思います。
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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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