「中正公平」を「行動規範」に掲げる日本経済新聞が繰り広げる「無責任な議論」~付加価値税率の高さと、国家財政の健全性は別物である

「わたしたちの使命は、幅広い経済情報の迅速で的確な提供や中正公平、責任ある言論を通じて、自由で健全な市場経済と民主主義の発展に貢献することである」

こうした「行動規範」を忘れてしまったのだろうか。消費増税を中心とした社会保障と税の一体改革法案に関する日本経済新聞の報道姿勢は、「行動規範」に掲げる「中正公平、責任ある言論」からかけ離れ、殆ど野田政権と財務省の「広報誌」と見まごうばかりになって来た。

「国の財政への信認が崩れたとき、いちばん被害を受けるのは国民の暮らし――。終わりの見えない欧州経済危機はそう教えてくれる。年金の大幅削減や大増税をいっぺんに実施しないと、失った市場の信頼は取り戻せないという厳しい現実を見せつけた」

11日に始まった「消費増税 再生への一里塚」という特集記事で、日本経済新聞はこのように報じている。「年金の大幅削減や大増税をいっぺんに実施しないと、失った市場の信頼は取り戻せない」というのは、消費増税原理主義者の常套文句である。しかし、この常套文句は「中正公平、責任ある議論」からかけ離れたもの。

「中正公平」を「行動規範」に掲げる新聞は、付加価値税率が20%近い欧州で何故財政危機が発生したかについては、何の指摘もしていない。付加価値税率が日本の数倍の水準にある欧州で発生した財政危機からの教訓は、「付加価値税率の高さと、国家財政の健全性は別物である」ということである。付加価値税率が日本と比較して数倍高い欧州で発生したような財政危機を回避するために、日本の付加価値税率を引き上げろ、という「我田引水」と思える主張が、日本経済新聞の「中正公平、責任ある議論」の定義なのだろうか。

「消費税率引き上げ法案の成立は、日本が財政の健全化に本気であることを示した点で大きな意味を持つ。先進国で最悪レベルにある日本の財政への信認を支えるよりどころは『ほかの国に比べて消費税率が低く、増税余地はある』という点にあった。問われていたのは実行力だった」

消費増税原理主義者の病巣は、「ほかの国に比べて消費税率が低く、増税余地はある」というところに現れている。

目を向けなければならないことは、「増税の余地があるから財政再建は可能である」というよりも、「ほかの国に比べて消費税率が低いにも拘わらず、日本は失われた20年から脱し切れていない」ということである。単純に「増税すれば財政再建は出来る」とする消費増税原理主義者の主張は、むしろ「ほかの国に比べて消費税率が低いにも拘わらず、日本は失われた20年から脱し切れていない」という「現実」から目を逸らす、「楽観論」であり、「責任ある議論」ではない。

「与党調整が難航した8日、新発10年物国債利回りは一時、約1ヵ月ぶりに0.8%を突破、7日から2日間の上げ幅は0.06%と今年最大を記録した」

11日付日本経済新聞は、「市場の警告は終わらない」と題する記事の中でも、「2日間の上げ幅は0.06%と今年最大を記録した」ことを、如何にも消費増税法案の成立が不確かになったことで、市場からの信認が失われたかのような大袈裟に伝えている。しかし、10年国債利回りが2日間で0.06%(通常6bpという)程度上昇することなど、金融市場では日常的なこと。それよりも、野田内閣が誕生した昨年9月時点で1%前後であった日本の10年国債利回りが、0.2%以上低下し0.8%前後に低下して来ていることの方が深刻である。

長期金利の低下は、「景気の減速」「インフレ率の低下」によってもたらされるものである。つまり、日本の10年国債利回りが0.8%前後まで低下して来ているということは、金融市場が日本の「景気減速」「インフレ率の低下(デフレ)」を信じていることを反映した動きと考えるのが自然である。

しかし、消費増税原理主義者である日本経済新聞は、消費増税の正統性を強調するために、無理矢理10年国債利回りの低下を「財政再建に対する市場の信認の現れ」にこじつけて報道し続けている。

欧州財政危機を通して、「付加価値税率が国家財政の健全性の間には相関がない」「増税で国家財政を健全化することは出来ない」という「現実」を経験して来ている金融市場が信じているのは、「消費増税によって日本の財政が健全化する」ということではなく、「消費増税によって日本の経済は失われた20年の継続を選択した」ということである。

財政再建の進め方には幾つかの考え方があって当然である。そうした中で、消費増税原理主義の教義を連日垂れ流し、「『デフレなのに消費税率を上げるのはおかしい』『庶民の生活を苦しくするだけだ』。…(中略)… 目先だけみればその通りだが、世界最速で進む高齢化の中で増え続ける社会保障費をどう賄うのかという難問から目をそらすわけにはいかない」という「詭弁」を用いて、他の意見を断罪し続ける日本経済新聞を始めとした日本の主要メディア。そこからは、「中正公平、責任ある言論を通じて、自由で健全な市場経済と民主主義の発展に貢献する」という高邁な精神は全く感じられない。

「中正公平、責任ある言論を通じて、自由で健全な市場経済と民主主義の発展に貢献する」ことを「行動規範」に掲げる日本経済新聞には、偽りの「国家財政への信頼」を演出するより先に、「新聞報道への信頼」を取り戻すことに注力してもらいたいものである。
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