無節操な格付け、無節操な政治~国債発行残高が問題なんですか?経済成長の抑制が問題なんですか?

「米格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは3日、参院で野田佳彦首相に対する問責決議が可決し、赤字国債発行法案の今国会中の成立が絶望的になっていることを踏まえ、『政治停滞は日本の信用力悪化につながる』とのコメントを発表した。
赤字国債法案が成立しなければ地方交付税の遅延を招き、『地方自治体が支出を抑制し、経済成長が阻害される』と指摘。与野党の膠着打開には政治的な指導力が不可欠とし、『このままだと市場は日本国債にリスクプレミアムを要求する』と国債利回りが急上昇することへの警戒感を示した」

格付け会社のレベルを露呈するような報道であった。日本の国債発行残高が多過ぎることに警鐘を鳴らし続けてきた格付け会社ムーディーズは、今度は「赤字国債発行法案の今国会中の成立が絶望的になっていること」を取り上げ、「政治停滞は日本の信用力悪化につながる」と言い出した。国債発行残高が問題なのであれば、「赤字国債発行法案の今国会中の成立が絶望的になっていること」は歓迎すべきことではないのだろうか。

「赤字国債法案が成立しなければ地方交付税の遅延を招き、『地方自治体が支出を抑制し、経済成長が阻害される』」という指摘も、これまでの主張から矛盾するもの。この主張は、「赤字国債の発行が地方自治体の支出を増やし、経済成長に貢献してきたこと」を前提としたもの。赤字国債の発行が経済成長に貢献し、税収の確保に繋がっているのであれば、国債の発行残高の多寡を格付けの基準にするなど愚の骨頂である。

国債発行を増やせば「国債発行残高が増えた」と騒ぎ、国債発行が滞ると今度は「経済成長が阻害される」と騒ぎたて、「市場は日本国債にリスクプレミアムを要求する」と主張する無節操な組織。それが格付け会社の本質である。要するに彼らの主張は、国債発行ではなく増税で資金を調達し、政府の支出を維持・拡大しろ、というもので、単なる「増税プロパガンダ」でしかない。

因みに週明けの10年物日本国債の利回りは、先週末比0.015%低下の0.780%。10年国債の利回りは、先月中旬の0.86%をピークに「日本国債のリスクプレミアムは低下」し続けている。

「無節操な格付け会社」を筆頭に、消費増税原理主義者の主張は矛盾に満ちている。

「日本の財政を再建するには、一層の努力が欠かせない。消費増税だけに頼るのではなく、社会保障費をはじめとする歳出の抑制や、経済成長の促進を通じた税収の底上げに本腰を入れるべきだ」

9月2日付の日本経済新聞は「増税だけに頼らずに歳出抑制に本腰入れよ」という社説の中でこのように主張している。「増税と歳出抑制」というダブルパンチを見舞っておいて、どのようにして「経済成長の促進を通じた税収の底上げ」が図れるのだろうか。もし、「増収と歳出抑制」というダブルパンチを喰らわしても「経済成長の促進を通じた税収の底上げ」を図れるような「魔法の政策」があるのであれば、ダブルパンチを見舞う前に実施すべきである。その方が効率的であることは論を俟たないのだから。

消費増税原理主義者の凄いところは、同じく2日付の「けいざい解読~米財政、待ち受ける『崖』 政治膠着で景気後退も」という、正反対の記事を平気で掲載するところ。

「『財政の崖』。こう呼ばれる問題が米経済の先行きに待ち受けている。今年末にかけて米議会が対応を誤れば、景気が後退局面に入るリスクをはらんでいる問題だ。
ブッシュ政権時代からの所得税減税など各種減税策が年末に失効。加えて年明け1月から強制的な歳出削減も始まる。このまま何の手も打たなければ事実上、緊縮財政に突入する。規模は大きく、総額5600億ドル、対国内総生産(GDP)比で4%ともいわれ、『崖』と呼ばれるゆえんだ。
バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長らは再三にわたって、財政の崖がもたらす景気への影響を指摘してきた。米議会予算局(CBO)の直近の算定では、2013年の米経済は0.5%のマイナス成長に陥る可能性があるという」

要するにこの記事は、米国はGDP比で4%の規模の緊縮財政に突入することで、2013年にマイナス成長に陥る可能性があると指摘しているのである。

翻って、消費税を10%に引き上げた場合の増収見込み額が約13.5兆円と言われている日本。13.5兆円は2012年の名目GDP予想値約477兆円の2.8%強に相当する規模である。

それにも拘わらず政府の予測は「20年度までの平均成長率を慎重シナリオで名目1%台半ば、実質1%強」というもの。過去10年間の名目GDP平均成長率が▲0.6%強であった日本経済を、名目GDP比で2.8%強の増税を実施するなかで成長率を1%台半ばまで復活させるには、「魔法の政策」を打ち出す以外にない。

GDP比で4%規模の「財政の崖」によって米国経済がマイナス成長に陥ると騒ぐ消費増税原理主義者達は、GDP比2.8%規模の消費増税によって日本経済の成長は加速するという自らの主張が、矛盾に満ちたものであることなど全く気にしていないようだ。

緊縮財政下でも成長を加速する「魔法の政策」を持ち合わせているのであれば、消費増税実施に先立って実行すべきであり、もし、政府の見通しが消費増税を正当化するための根拠のない作り話であるならば、国民に謝罪し、消費増税法案を撤回すべきである。

経済見通しに不確実性が伴うことは問題ではない。問題なのは、経済見通しに「論理的整合性がない」ところである。日本経済復活のためには、「無節操な政治」からの脱却こそ「待ったなし」である。
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