日米欧、それぞれの中央銀行~「あらゆる措置」を追及する欧米、他国任せで何もしない日銀

「ユーロを防衛するため、あらゆる措置を取る」

スペインなど南欧の信用不安払拭を狙った、危機対応策の「切り札」とされる、償還期間が1~3年の南欧国債を無制限で購入する枠組みで大筋合意した6日のECB理事会後の記者会見で、ドラギECB総裁はこのように強調した。

ECBが決定したパッケージは、厳しい条件への合意を徹底する代わりに、購入した債券についてECBが優先債権者となることを放棄するとともに、南欧国債購入後は不胎化措置を実施し、通貨供給量への影響をなくすことで、ユーロ安を招かないようにするなど、「ユーロを防衛するため、あらゆる措置を取る」というドラギECB総裁の発言を裏付ける内容となっている。

ECBが示したパッケージに対する金融市場の反応は、ECBに敬意を表すかのように、ユーロ高、南欧国債利回り低下、株価上昇というものとなった。しかし、今回ECBの強い意思を感じさせる政策パッケージでユーロ危機が払拭出来るわけではない。

「深刻なリセッション状態にあり、失業が増え続けている国が、金利の急上昇を理由にどんな追加緊縮策を取らなければならないのか」と問い掛けた上で、「支援要請はイタリア、そしてスペインにとって自滅的な結果を招くだろう」

金融市場がECBの政策パッケージに敬意を示したのに対して、支援を受ける立場にあるイタリアの民主党スポークスマンは、イタリアがECBに支援を要請しても、財政緊縮で追加の条件が求められるため、イタリア経済の助けにはならないという否定的な認識を示した。金利の低下に伴う資金調達コストの低下よりも、緊縮財政による景気抑制効果の方が大きいという現実を反映した発言。

「特に雇用市場の一段の改善を実現することは重要だ。物価が安定した状況での景気回復の強化と雇用市場の持続的な改善に向け、FRBは、政策手段の不透明性と限界を十分考慮しながら、必要に応じて追加政策緩和を実施していく」

先月31日に行われたジャクソンホールでの講演でこのように発言したバーナンキFRB議長。この議長が、7日に発表された8月の雇用統計が、失業率こそ職探しを断念した人が増えた影響で7月の8.3%から8.1%に0.2%改善したものの、注目された非農業部門雇用者数が、6、7月分の雇用者数の伸びが4万1000人下方修正されたなかで前月比9万6000人増にとどまり、市場予想の12万5000人増を下回ったことを黙って放置するとは思えない。来週開催されるFOMCで追加緩和に踏み切る可能性が高まったことは間違いない。

但し、実施される金融緩和がQE3であったとしても、ECB同様「不胎化QE3」となる可能性があることは念頭に置いておいた方が賢明である。不胎化を伴わない単純なQE3は、資源インフレという副作用を生むリスクを孕んでいるのと同時に、ECBが不胎化を明言する中でFRBが不胎化を行わないとなると、ドル安によって必要以上のユーロ高を誘発してしまう可能性があるからである。必要以上のユーロ高は、ユーロ諸国、とくにドイツの輸出競争力を低下させることでユーロ圏諸国の景気回復を阻害する要因になる。

金融市場を安定させるためにFRBは、マーケットの期待を裏切らない金融緩和政策を採らざるを得ない。しかし、ユーロのためにも必要以上のユーロ高を招かないような配慮は必要不可欠である。そのためにFRBが取る手段は「不胎化には不胎化を」というものになりそうだ。

欧米の中央銀行が「ユーロを防衛するため」「雇用市場の一段の改善を実現する」ために「断固たる措置」を採る、採ろうとしているなかで、ただ一人緊張感に欠けているのが日銀である。

「日銀の白川方明総裁は6日、都内で講演し、海外経済の減速が『やや長引いている』との見方を明らかにした。8月の金融政策決定会合の後に判明した輸出や生産の経済指標も『弱めの動き』と指摘。日本経済が日銀の想定するシナリオ通りに推移するかは『世界経済が減速局面を脱するかどうかに大きくかかっている』と強調した」

「失われた20年」から脱却が出来ていない国の中央銀行総裁が、海外経済の減速を「やや長引いている」と評するなど、通常の神経では考えられないもの。「日本経済が日銀の想定するシナリオ通りに推移するかは『世界経済が減速局面を脱するかどうかに大きくかかっている』」という発言に至っては無責任極まりないもの。

下のグラフは、2008年末を基準とした主要国株価指数の直近までの騰落率である。見て明らかなように、世界の主要市場でマイナスを記録しているのは日本だけである。さらに、この間為替も対ドルで13%強円高に振れており、日本の投資家が本来受け取れる海外からのリターンも、大きく削られてしまっている。

各国株価指数騰落率

こうした事実から言えることは、「日本経済が日銀の想定するシナリオ通りに推移するかは『世界経済が減速局面を脱するかどうかに大きくかかっている』」という日銀総裁の発言は、誤った認識に基づいたものだということ。少なくとも日本経済を反映する株式市場は「世界経済の状況に関係なく下落」しており、日本経済の低迷を「海外要因」に求める日銀総裁の発言は詭弁でしかない。主要国の中で唯一株価が下落している国の中央銀行の総裁が、自国の経済状況のリスク要因を「海外要因」だとするのは笑えない冗談である。

「ユーロを防衛するため」「雇用市場の一段の改善を実現する」ために「断固たる措置」を採る、あるいは採ろうとしている欧米の中央銀行と比較して、都合の悪いことは全て海外要因に求める日本の中央銀行の政策姿勢は余りに無責任である。

消費増税などで財政再建を図ろうとしても、日銀が無責任な対応を続け、円高と株価の下落を放置する限り、国民は雇用崩壊と年金崩壊のリスクから解放されることなど期待すべくもない。野田総理大臣の陰に隠れる格好になっているが、白川日銀総裁の中銀行総裁としての不適格性も大いに「国益」を損なっている。

もともと副総裁候補でしかなかった白川総裁が総裁になったのも、参議院で総裁人事案が否決されたことで20日間に渡って「日銀総裁空席期間」が生じたからであり、この御仁に日銀総裁に求められる能力を求めるのは無理という話なのかもしれない。白川総裁誕生自体が「ねじれ国会」が生んだアダ花である。

やってはいけないことに「不退転の決意」で突き進む「国民の審判を経ずに誕生した総理」と、やらなければならないことを殆どやろうとしない「ねじれ国会のアダ花として誕生した中央銀行総裁」のコラボレーションから生まれて来るものは、残念ながら「日本経済の再生」ではなく「日本の没落」である。
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