「思い切りの悪い遅きに失した」日銀追加金融緩和 ~ 政府、及び今や圧力団体と化した財界に対するアリバイ工作

「予想以上に思い切った対応をしてもらった。従来にも増して大胆な金融緩和措置が決定され、政府としても大いに歓迎したい」「思い切った決断を早め早めにしてくれた」「デフレ脱却に向けた積極的な措置として評価しうるもので、為替市場の安定を含め、日本経済に極めて良い影響をもたらすものと考えている」

久々に登場した素人財務相は、19日に日銀が実施した追加緩和政策を大絶賛した。しかし、財務相が「早め早め」「思い切った決断」と高い評価をし、「為替市場の安定」に繋がると期待した今回の日銀の金融緩和の効果は、半日ももたなかった。日銀の追加緩和を受けて一時79円台まで円安に振れた為替市場は、午後10時過ぎには78円台半ばと、元の水準に戻ってしまった。

素人財務相の目に「思い切った決断を早め早めにしてくれた」と映った日銀の金融緩和も、金融市場にとっては「思い切りの悪い遅きに失した」ものでしかなかったようだ。

金融市場の目に、今回の日銀の追加金融緩和が「思い切りの悪い遅きに失した政策」だと映ってしまうのは、今月FRBとECBが打ち出した追加金融緩和における肝心なキーワードが欠けていたからである。

今月FRBとECBが打ち出した追加緩和政策の最初のキーワードは、「無制限」である。

FRBは、QE3実施に際して「労働市場の見通しが大幅に改善しない場合、委員会は物価が安定した状態で状況が改善するまで住宅ローン担保証券の購入を継続する」と表明、期間を設けなかった。また、これに先立ちECBも「救済基金の条件付きプログラムを受け入れた国の国債を無制限に購入する」という「アウトライト・マネタリー・トランザクション(OMT)」を明らかにし、条件付きながら「無制限」という姿勢を示した。

要するに、設定した政策目標が達成されるまで、FRBとECBは「無制限」に金融緩和を続ける(ECBの国債購入は条件付きであるが)という、「断固たる措置」を採ったのである。

ECBとFRBのこうした強い意思が込められた「無制限」の金融緩和政策を受けた日銀が、達成すべく政策目標も明確にせず、単に「資産買入れ基金を10兆円増額して80兆円程度に」「長期国債の買い入れを5兆円増額し期限を2013年12月末に延長。短期国債の買い入れは5兆円増額し期限は2013年6月末に据え置き」と、「規模」「期間」共に限定された「ありきたりの政策」を表明をしたところで、その効果が限定的なものに留まるのは当然のこと。

ECBとFRBが揃って「断固たる措置」を打ち出した後で、日銀が「為替市場の安定を含め、日本経済に極めて良い影響をもたらす」ことを期待して追加金融緩和に踏み切るのであるならば、例えば「名目GDP成長率が安定的に3%に達するまで、国債を無制限に購入する」というような、政策当局の「強烈な意思」を示す必要があったということ。

素人財務相が「早め早め」「思い切った決断」と高い評価を与えた日銀の追加金融緩和は、政府及び、今や政府の圧力団体と化した財界に対するアリバイ工作、内向きの政策というのが実態である。

東京市場で79円台まで円安に振れた為替市場も、欧米市場に移って、政府・日銀の期待を裏切るように円高に戻って来てしまっている。

今月実施されたECBとFRBの追加金融緩和における「無制限」に続く重要なキーワードは、「不胎化」である。

「無制限」という点では一致を見た欧米の金融緩和政策も、この「不胎化」に関する対応は、180度異なるものとなった。ECBが国債購入によってシステムに流れ込んだ流動性を他の部分で吸収して「不胎化」し、通貨供給量への影響を中立にする方針を示したのに対して、FRBはQE3によって増加する通貨供給量の「不胎化」方針は示さなかった。

「不胎化」することによってユーロの急落を防いだECB。一方、「不胎化」方針を示さない(非不胎化)ことで、ドル安も辞さない姿勢を示したFRB。

両者の政策の違いは、為替市場における対ドルでのユーロを支える効果を発揮する一方、ユーロ高を通してユーロ圏の輸出競争力を低下させる可能性を秘めたもので、ユーロ圏経済には必ずしもプラスになる政策ではない。こうしたことから想像されることは、今月欧米が相次いで打ち出した追加金融政策は、両者が協調したものではなく、それぞれの理由で大胆な政策に打って出た、ということ。

もともと自国通貨での介入を嫌う欧州と、ドル安になることを認識したうえで「不胎化」をしなかったFRB。欧米が協調することなく、それぞれの事情を優先する姿勢を示したことを考えると、今後円高局面が訪れた際に、欧米が日本と協調行動をとることに期待はかけられない。

今回日銀が打ち出した「思い切りの悪い遅きに失した追加金融緩和策」は、日本の政策当局の経済音痴ぶりを内外に露呈するものであった。今回日銀が追加金融緩和に踏み切ったことについて、金融緩和に積極的な政策委員が加わったことによる成果だとする指摘もある。しかし、新たに加わった政策委員はエコノミストであり、金融市場を熟知している訳ではない。追加金融緩和に踏み切ったこと自体は、方向性としては間違いないものである(中央銀行によるバランスシート拡大競争は、将来新たな問題を引き起こす可能性は秘めているが)。しかし、「無制限」「不胎化」という2つのキーワードを欠いた政策は「画竜点睛を欠く」ものでもある。

日本の政策当局が、内外情勢の変化などに目もくれず、自分達の内向きの理論で金融政策を無駄打ちすることを目の当たりにすると、残念ながら日本が能動的に円高・デフレから脱却出来る日はまだまだ先だと思わざるを得ない。
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