年金基金のずさんな運用~露呈した「金商法の抜け穴」と「独立系投資顧問排除」

「AIJ投資顧問による年金消失問題で表面化した厚生年金基金のずさんな運用実態が再び明らかになった。長野県建設業厚生年金基金(長野市)がAIJ投資顧問とは別に未公開株運用でも損失を出した問題で、金融庁は16日、運用を受託していたソシエテジェネラル信託銀行など3社に1~3カ月の一部業務の停止命令を出した」

厚生年金基金に絡む不祥事で、また業務停止命令が発令された。今回舞台となった厚生年金基金が、AIJの被害を受けた基金であったこともあり、メディアの報道は、今回の未公開株投資事件とAIJの事件が同種の事件であるかのような印象を与えるものとなっている。

しかし、「運用の失敗」と「詐欺的行為」を混同して議論してはならない。

未公開株投資自体に問題があるわけではない。さらに、未公開株投資がうまくいかず、多額の評価損が生じる「運用の失敗」という事態も「法的には」問題はない。俗に「1000に3つ(センミツ)」とも言われるように、IPO(株式公開)を果たせる企業の数、その確率は僅かのものである。そして、その僅かな数の企業が公開を果たすことによって得られる大きなキャピタルゲインで、ファンド全体の損失を埋め合わせたうえで、必要な収益を確保するというのが未公開株投資(ベンチャーファンド)の基本的考え方である。運用期間中にIPO出来る企業を見出せなければ「運用の失敗」となるが、それは「詐欺的行為」とは異なるもの。

問題は、今回の未公開株投資が「運用の失敗」なのか、「詐欺的行為」によるものなのか、という点である。

「詐欺的行為」の有無に焦点を当て、報道や金融庁の発表内容を読むと、AIJ事件と今回の未公開株投資事件にはいくつか相違点がある。

まず、投資顧問会社の関わり方。今回ソシエテジェネラル信託銀行と共に金融庁から処分を受けたのは、ユナイテッド投信投資顧問とスタッツインベストメントマネジメントの両投資顧問会社(投資一任業者)であり、年金基金の資産運用における立場は、AIJ投資顧問と同様である。しかし、AIJ事件では投資顧問会社であるAIJが詐欺行為の主役であったのに対して、今回の投資一任業者は主役ではなく、詐欺的スキームに必要不可欠な配役として、所謂「名義貸し」に近い脇役として登場しているという点でAIJ事件と異なっている。

あくまで個人的印象だが、今回の未公開株ファンドを利用したスキームは、ファンドスキームや金商法の盲点を知っていた人物が全体のシナリオを描いてキャスティングをして行ったと感じられるもの。やや場当たり的な感のあったAIJ事件とは趣を異にしており、より悪質と言える(勿論、投資顧問会社が脚本家である可能性も否定出来ないが)。

今回のスキームのポイントの一つは、未公開株ファンドの運用業者であるアール・ビーインベストメント・アンド・コンサルティング(以下「RB社」)が、「出資者に1人以上の適格機関投資家と49人以下の適格機関投資家でない者が含まれる場合」は、金商法の「投資運用業」の登録をせずに、金融庁の届出だけでファンド運用業者となれるという、「適格機関投資家等特例業務」を悪用しているところ。

直投(基金が直接ファンド等を購入すること)が禁じられている年金基金は、運用に際して信託銀行(適格機関投資家)と特金契約を締結する必要がある。この際には「投資運用業」の登録を済ませている(信託銀行を含む)投資顧問会社(投資一任業者)を運用指図者とする3者契約(再信託をする場合も多いので、再信託銀行を含めた4者契約となる場合も多い)を締結することになる。今回のケース(計3本の契約)では、ソシエテジェネラル信託銀行、ユナイテッド投信投資顧問、スタッツインベストメントが「投資一任業者」であり、ソシエテジェネラル信託銀行及び、ユナイテッド社とスタッツが「投資一任業者」となっている契約ではりそな銀行が「受託信託銀行」となっている。

3者契約によって年金基金の資産は信託名義となるため、3者契約を締結する年金基金の運用においては、「出資者1人以上の適格機関投資家」という条件を必ず満たすことになる。つまり、今回のスキームは、年金基金が3者契約を締結することを逆手にとり、「投資運用業」の登録をしない、金融庁に処分権限のない業者が、「適格機関投資家等特例業務」の届出だけで、「投資一任業者」に代わって実質的に年金資金の運用を出来るという抜け道を利用したもの。こうした抜け道を利用したとしたら、相当悪意があったということ。
(一部ではRB社が、年金基金で投資した未公開株ファンドの資金で、香港でRB社が運用するファンドが保有する実態の定かでない未公開企業の株式を買い取ったと報道されているが、これが目的であったとすればかなり悪質、「詐欺的行為」といえる。)

さらに、今回の問題に関して特徴的なことは、金融庁が「投資一任業者」だけを処分対象にしたところ。

今回のスキームにおいて、ソシエテジェネラル信託銀行は、「投資一任業者」及び「受託信託銀行」の2つの立場で名を連ねている。また、ユナイテッド投信投資顧問及びスタッツインベストメントが「投資一任業者」となっている3者契約においては、りそな銀行が「受託信託銀行」となっている。

こうした状況で、りそな銀行には処分がなかったということは、金融庁は今回「受託信託銀行」の責任は問われなかったということ。つまり、ソシエテジェネラル信託に対する処分は「受託信託銀行」としてではなく、「投資一任業者」としてのものだということ。

AIJ事件においては、「投資一任業者」であるAIJ投資顧問が運用するファンドの運用状況に関して厚生労働省は「受託信託銀行」のチェックを厳しくする姿勢を示して来た。こうした状況下で、今回金融庁は、ファンドの運用状況のチェックに関する責任を「投資一任業者」に求めた格好。

金融庁がこうした一見矛盾した態度を示したのは、穿った見方をすれば、「適格機関投資家等特例業務」という金商法の抜け道を悪用されたという批判を避けるために、いわゆる独立系に分類される「投資一任業者」に責任を押し付けようとしたからだと言える。りそな銀行という既存の信託銀行の責任を問う格好になると、今の年金基金の運用スキームに大きな影響を及ぼす可能性があるからである。

AIJ事件も、今回の未公開株投資事件も、小泉政権下の「規制緩和」によって、投資一任業務が許認可制から登録制に緩和されたことによって発生した負の部分であると言える。しかし、一層の「規制緩和」を謳う野田政権にとって、それに逆行して投資一任業務を再び許認可制に戻すことは出来ない選択である。一方では、独立系投資顧問のこれ以上の暴走は食い止めなければならない。となると、年金基金が自主的に業務停止処分や業務改善命令を受ける独立系「投資一任業者」との契約を避け、既存の信託銀行と契約する形に持っていくことが、監督官庁にとって最も効率的、合理的な政策である。

今回の未公開株投資事件は、「適格機関投資家等特例業務」という金商法の問題点を炙り出すと同時に、金融庁が合法的に「独立系投資顧問」を年金業界から排除して行こうという意思を持っていることを浮かび上がらせるものとなった。
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