詭弁に満ちた少子化対策~「専業主婦になりたい女性」を軽視する政策

「共働き世帯の割合が過去最高の55.3%となり、主流になってきた。女性の積極的な社会進出に加え、ここ数年は夫の収入減を妻のパートで補う『生活防衛型』も増えている」

22日付日本経済新聞「エコノフォーカス~共働き世帯、主流に 最高の55% 夫の収入減、パートで補う『生活防衛』消費は伸びず」 という特集記事では、「見かけでは女性の労働参加が増えているのに、世帯の収入は伸びず消費が縮んでいる」事実が伝えられている。

この記事中では、通信教育会社ユーキャンと株式会社アイシェアが2010年7月に共同で実施した調査で、「結婚・出産後、専業主婦になりたい」という女性回答が5割を超え、さらに、「専業主婦になりたい派」でも「実際にはなれないと考えている女性」が約7割に達したことも紹介されている。

この調査が実施されたのは2010年7月とやや古いもの。この調査が実施された当時(2010年第2四半期)と直近(今年の第2四半期)の経済状況を比較すると、「世帯主収入」が2%強減少(家計調査)、男性の「正規職員・従業員」の比率が81.3%から80.6%へと0.7%低下(労働力調査)と、男性側の「収入」「地位」の不安定さが増して来ている。

こうした事実に鑑みると、2010年当時で「自分だけの収入では経済的に厳しいから」という理由(41.9%と断トツ)で、6割以上いた「妻に働いて欲しい」と考えていた男性が増加していることは想像に難くない。それに伴って、「家事や育児に集中したいから」(55.2%)という理由等で5割以上いた「専業主婦になりたい派」の中の、「実際にはなれないと考えている女性」も、当然増加して来ているはずである。

「社会の中で女性の能力を最大限にいかすとともに、安心して子どもを産み、育てられる社会をつくるために、総合的な子ども・子育て新システムの構築を急がなければなりません。こうした点を含めて、『支える側』たる現役世代の安全網を強化し、子どもからお年寄りまで全ての国民をカバーする『全世代対応型』へと社会保障制度を転換することが焦眉の急なのです」

今年1月24日の施政方針演説でこのように述べた野田総理。こうした発言から明らかなことは、野田総理が「安心して子どもを産み、育てられる社会」実現の障害が、「保育等の充実やワーク・ライフ・バランスの推進など」にあると考えていること。

確かに、「結婚・出産後も働き続けたい女性」も調査当時で46%もおり、こうした女性に対する支援策は重要である。しかし、半数以上存在する「結婚・出産後、専業主婦になりたい女性」に対して、「保育等の充実やワーク・ライフ・バランスの推進など」が「安心して子どもを産み、育てられる社会」を達成する効果的手段にはなり得ない。

半数以上存在する「結婚・出産後、専業主婦になりたい女性」が「安心して子どもを産み、育てられる社会」を達成するためには、男性側の「自分だけの収入では経済的に厳しい」という障害を取り除き、「専業主婦になりたい派」の7割を占める「実際にはなれないと考えている女性」の比率を引き下げる政策が必要不可欠だからである。

家計調査統計からは、世帯収入と世帯人数の間に正の相関があることが見て取れる。

世帯収入と世帯人員
要するに、「安心して子どもを産み、育てられる社会」を実現するためには、「経済的安定」が必要不可欠だということ。男性(主に世帯主)が「収入」と「地位」の両面で不安定な状態に置かれていることを放置したまま、いくら「保育等の充実やワーク・ライフ・バランスの推進など」を進めても、「安心して子どもを産み、育てられる社会」が実現することなど期待薄なのである。

少子高齢化を食い止めるためには、半数に満たない「結婚・出産後も働き続けたい女性」が「安心して子どもを産み、育てられる社会」を目指して「保育等の充実やワーク・ライフ・バランスの推進など」をする以上に、世帯主の「収入」と「地位」の安定を図ることで「結婚・出産後、専業主婦になりたい女性」が「安心して子どもを産み、育てられる社会」の実現を目指すことの方が重要なのである。

これまで野田内閣は、「社会の中で女性の能力を最大限にいかすとともに、安心して子どもを産み、育てられる社会をつくるために、総合的な子ども・子育て新システムの構築を急がなければなりません」と主張し、「税と社会保障の一体改革」の必要性を訴えて来た。

しかし、「保育等の充実やワーク・ライフ・バランスの推進など」のためにも消費増税は必要不可欠であるとするこうした主張は、女性の半分以上を占める「結婚・出産後、専業主婦になりたい女性」にとっては「安心して子どもを産み、育てられる社会」の実現を阻害するものでしかない。

「一体改革は増税先行ではありません。間違いなくありません。『子育て支援3法』がその最大の証拠であります」「日本が世界で最も子供と子育てに優しい国と呼ばれる日が何時の日にか来る」と力説する野田総理。

しかし、こうした発言とは裏腹に、現在の中塚少子化担当大臣は、民主党政権になって10人目、野田政権になって5人目であり、政府のなかで最も軽視されているポストの一つとなっている。こうした詭弁政治が行われるのは、少子化対策に必要不可欠な「結婚・出産後、専業主婦になりたい女性」が望む「安心して子どもを産み、育てられる社会」の実現のために「無用の長物」でしかない消費増税を何としても実現させなければならないからである。

少子化対策の足枷にしかならない消費増税を進める為には、少子化の本質的原因を見極め、対策を考えるような大臣は、政権にとって「無用の長物」。少子化担当大臣というポストは、本質的な政策など考えず、大臣という肩書で満足する軽い政治家のために用意された優先席でしかない。

「エコノフォーカス~共働き世帯、主流に 最高の55% 夫の収入減、パートで補う『生活防衛』消費は伸びず」 という特集記事は、はからずも野田内閣の詭弁政治を炙り出すものとなった。
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コメント

そうでしょうか

「結婚・出産後、専業主婦になりたい女性」が、専業主婦を希望する理由のひとつは、「どうせ女性は仕事では認められず、やりがいがないから」「今の仕事をしながらさらに家事育児の負担が増えるのはムリだから」であったりします。

仕事をしながら子供を生むと、それまでの仕事に加え、家事や育児の負担が一気に「女性のみ」にかかってくるケースは少なくありません。
男性は子供の有無に関わらず、仕事をきっちりやっていれば評価されるのに、女性だけが「仕事に加えて家事育児」というのでは、専業主婦になりたいと希望するのは当然と思われます。

「保育等の充実やワーク・ライフ・バランスの推進など」を進めることによって、女性が仕事をしながら子育てをしやすい社会(それは男性も仕事と子育てを両立する社会です)になれば、自然と「専業主婦になりたい女性」の割合が減ってくるのではないでしょうか?

「結婚・出産後も働き続けたい女性」と「専業主婦希望の女性」の現時点での割合だけを見て議論するのはナンセンスであるように感じます。

No title

iz様 この度はコメントを寄せて頂きありがとうございます。
ご指摘御尤もだと思います。「働き続けたい女性」が安心して子どもを預けられる環境作り、そして、女性が社会で公平に評価されるシステム作りは重要だと思ってます。
ただ、女性が社会で公平に評価される社会環境の整備と、「少子化対策」とは分けて考えるべき問題だと考えています。
「少子化対策」という観点からは、「働き続けたい女性」にのみフォーカスした政策では片手落ちで、「専業主婦となって子育てに専念したい」と考えている女性にも目を向けるべきだと考えます。残念ながら現状は、「専業主婦となって子育てに専念したい女性」の多くが、経済的な理由から「働き続けなければならない女性」を演じることを強いられています。こうした状況を解決し、「働き続けたい女性」にも、「専業主婦となって子育てに専念したい女性」にも、安心して子育てが出来る環境の提供を目指すのが政治のあるべき姿だと思います。消費増税を正当化するために、「働き続けたい女性」「働き続けなくてはならない女性」に対する環境整備に増税が必要だと主張する野田政権のやり方は、議論の方法として姑息だと思います。

同感です。

現在妊娠6ヶ月の者です。
私は、「経済的理由」により、仕事を続けることを望んでいましたが、職場の都合により退社いたしました。
ただ、ひどいつわりを体験し、無理をして働き、万が一の事態に陥ったり、同僚に後ろ指指されながら肩身の狭い思いをしてまで仕事を続けるよりは、むしろよかったと今では思っています。

正直、多くの子供を望む低収入(正規・非正規かかわらず)の女性にとって、仕事を一生涯続けることのほうが、そもそも非現実的な選択ではないか、と私には思えてなりません。
(公務員や、大企業の総合職など、安定した仕事を持っている人は例外です。)

また、低収入の女性は、収入面や会社への拘束時間の違いで、パートナーと対等になりづらく(家事・育児の分担、家計負担等)、女性の負担のほうが圧倒的に不利になりやすいように、私は感じます。(女性だから、と言う理由だけでなく)

一方で、「結婚・出産後も仕事を続けたい女性」の中にも、「仕事が好きだから」と言う理由だけでなく、私のように「経済的理由」の人間も当然いるはずです。
私のような人間も含めて、純粋に「結婚・出産後も仕事を続けたい女性」としてカウントして、議論を進めてよいのだろうか、とも私は感じます。
「結婚・出産後も仕事を続けたい(なければいけないと思っている)女性」にとっては、積極性という意味において、結婚・出産のハードルは上がる一方でないか、と思います。

Re: 同感です。

まろん様
この度は拙ブログにコメントを寄せて頂きありがとうございました。小生は、少子化対策の基本は、多くの子供を産み、育てて行くことを希望している女性に、安心して子供を産み、育てて行ける環境を提供することだと思っています。実際に、経済的な不安がなければ、子供を産んで育児に専念したいという希望を持っている女性は、小生の周りにも結構存在します。今の日本の政治は、理由はともかく、働き続けることを希望している女性の方に要点を当てています。勿論、女性が社会進出できる環境づくりも重要ですが、それ以前に、女性やそれぞれの家庭に、女性が子育てに専念するか、女性も男性同様に社会に出て働くか、という「選択肢」を提供することが重要だと思います。経済的な理由で後者を選択せざるを得なくなるような社会は目指すべきものではありません。
小生はもう子育てを終了してしまっています。子育てには究極の我慢が必要ですし、なかなか思うように行かないというのが現実です。でも、小生はそれに勝る喜びを子供達から与えてもらったと思っています。まろんさんも、つわり等大変な時期かと思いますが、体調に気を付けて頑張って下さい。
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近藤駿介

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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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